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〔マーケット展望〕アート市場、コロナ禍克服し堅調続く=SBIアート・加来氏

2024年04月03日 07時19分

オークションを進行するSBIアートオークションのオークショニア、加来水緒(かく・みお)氏オークションを進行するSBIアートオークションのオークショニア、加来水緒(かく・みお)氏

 世界的な資産価格の高騰が続く中で、アート市場もまた堅調に推移している。SBIアートオークションのオークショニア、加来水緒(かく・みお)氏は2024年の市場について「現代アート作品を中心に好調な地合いが続く」とみている。

 ―ここ数年の世界のアート市場の状況は。

 20年代に入り、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で一時、大幅に落ち込んだ。しかし、その後は世界的な財政・金融緩和下で余剰資金がアート購入に充てられ、自宅での「巣ごもり」生活の中でアートを楽しむ動きが広がり、需要は回復した。

 市場動向を知る手掛かりとして業界関係者が最も注目するアートバーゼルとUBS銀行の最新リポートによると、23年の市場規模は約650億ドル(約9兆6100億円)。コロナショック前の19年とほぼ同水準だ。24年についても楽観的に展望している。

 もっとも、23年は取引量で前年比4%増えたものの、比較的低価格の作品の取引が多かったため取引金額では4%減少にとどまった。対前年比の数字は有力オークションハウスでの高額作品出品の有無に左右される部分もあるため、すう勢的なものではない可能性が高いが、ロシアとウクライナの紛争をはじめとする国際情勢の緊張が、作品の買い控えという形でアートの世界にも少なからず影響を与えている可能性はある。

 -高額落札の事例は。

 米ニューヨークの競売商サザビーズで23年11月、ピカソの「腕時計をした女」が約210億円で落札された。バスキアのように知名度の高い有名な現代美術アーティストの作品、いわゆる「ブルーチップ」と呼ばれるものも、引き続き売れている。

 -国内市場はどうか。

代表的現代アート作家、草間彌生氏の作品オークションの様子代表的現代アート作家、草間彌生氏の作品オークションの様子

 草間彌生、村上隆、奈良美智の大御所3人の作品は高値で安定している。当社の高額落札事例としては、奈良美智が24年1月のセールで1億3000万円を記録したほか、草間彌生の作品も3月に2億4000万円で落札された。

 そうした大御所の作品とは別に、40歳以下の若手でまだ評価の定まっていない「ウルトラコンテンポラリー」と呼ばれるカテゴリーの作品も、いささか投機的ではあるが「先物買い」的な魅力もあり、注目を集めている。具体的には谷口正造や友沢こたおなどが人気だが、一時期に比べると慎重に選ぶ動きも進みつつあり、誰の作品でも価格が一様に上昇するという状態ではなくなっている。

 -アート作品のオークション参加者はどのような人々か。

 当社の場合、職業別では起業家などが中心だが、一般のサラリーマンもいる。さらにアジアを中心に海外からの入札参加も多く、約3割を占める。

 ◇中国・香港市場、今後もアジアをけん引

 -市場をけん引してきた中国で不動産不況が広がっている。影響は。

 最新のアートバーゼルのリポートでは、取引金額のシェアでは米国の42%に次いで中国・香港が19%、英国17%と続いた。日本はわずか1%だ。

 香港ではアート・バーゼル香港という大規模アートイベントが開催され、その時期は国内外から愛好家や業界の要人、著名作家らが集う。今年3月26日からの開催期間中、私も実際に現地に赴いてみた印象として、一次流通・二次流通市場を問わず、香港マーケットの強さとダイナミズムを実感した。最高水準の作品を展覧することが期待されている場で、それぞれの「本気」が感じられた。

 一時期の香港一強の様相は変わりつつあるものの、ここを押さえればアジア、ひいては世界で一番良いものが見られるという信頼度は依然として高く、中国・香港市場は引き続きアジアをけん引する存在であり続けるだろう。

 確かに不動産不況の問題はあるが、逆にコレクターが資産の売却に動くことで、かえって取引は増える可能性もある。

 ◇AIアートの価値は定まらず

 -人工知能(AI)を活用したデジタルアートが話題を集めている。

 AIアートはまだ評価が定まっていない。作品のオリジナリティーを含めて、アートとは何かという問題にも関わってくる。興味を持っているコレクターはいるだろうが、まだそこまで議論が追いついていない中、オークションハウスとしては慎重に扱わざるを得ない。二次流通市場での取り扱いが増えるのは一次流通市場の評価が定まってからだろう。

 一方で、21年のビープル作品の高額落札で話題を集めたNFTアートの市場は年々しぼんでいる。23年は約12億ドル(約1194億円)。オークションに出しても価格が伸びないため、転売を控えている人が多く、当社もここ最近取り扱いがない状態だ。

 -今年の市場動向をみる上での注目点、イベントは。

 コロナ禍の中で自粛されていた主要アートイベントが、今年は規模を回復して開催される見通しだ。そうした中でどれだけ売れ行きが高まるのかに注目したい。日本でも7月に横浜で行われる現代アートのイベント「東京現代」は注目だ。おそらく海外からも多くの参加者が見込まれる。当社もオークションを準備中だ。

 -葛飾北斎の「富嶽三十六景」が先日、ニューヨークで5億円余りで落札された。日本の美術作品の評価は今後どうか。

 浮世絵は海外コレクターに人気があるが、国際的な知名度や市場規模もコンテンポラリーアートと比べると小さい。当社でも、日本の近代作家は藤田嗣治ほか数えるほどしか取り扱いがない状態。国内コレクターもシニア層が中心と思われ、国内外で若年層のコレクターを開拓することが近代美術市場の課題となるのではないか。(了)

 

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