〔証券情報〕投資家、美術品にも熱視線=コロナ禍でネット競売が活況
2021年08月20日 14時09分
美術品オークションの人気が高まっている。新型コロナウイルス禍に対応した世界的な金融緩和を背景に、投資家が株式や債券だけでなく、美術品を含む多様な資産に資金を振り向けてきたためだ。インターネットで競売に参加できる機会が増えたほか、デジタル技術による落札品の信頼性向上も活況を後押ししている。
▽若年層の参入増
文化庁によると、世界の美術品市場はコロナ禍前で7兆円規模。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは同市場について「捕捉できない私人同士の取引も多く、推計が難しい」と指摘。その上で「世界的に続く低金利の下、人々は仮想通貨(暗号資産)や土地などに投資対象を広げており、資産価格は軒並み上昇傾向にある。美術品の取引も活発化しているとみて間違いない」と語る。
コロナ禍を受け、美術品競売の現場も対応を迫られてきた。SBIホールディングス<8473>傘下のSBIアートオークション(東京)は昨年4月に東京・代官山の会場で予定していた競売を6月に延期。来場者を通常の5分の1の30人に絞る一方、インターネットで会場の映像を見ながら参加できるようにし、「オークショニア」と呼ばれる進行役や作品を映す電光掲示板の表示、音声を伝えた。
すると20~30代の参加が増え、新規登録者は700人超と以前の倍以上に。利用者の30代の男性経営者(東京都渋谷区)は「移動の車内でもスマートフォンを見ながら参加できて便利だ」と満足げ。20代女性会社員(横浜市)は「自宅からのウェブ会議が増え、背景の彩りに絵が欲しくなり参加した」と話す。
ネット競売を技術面で支えるのが、暗号資産の基盤技術となるブロックチェーン(分散型台帳)を用いて取引を記録する「NFT(非代替性トークン)証明書」。同社は2019年4月から希望する落札者に出品や取引の履歴を裏付ける証明として発行し、既に500点超を出した。内容の改ざんが困難で、取引の信用性を高めるとされている。
藤山友宏取締役は「オンラインでも高値で落札されるようになり、平均落札価格が上がった」と語る。昨年8月からはオンラインのみの競売も開いている。
▽「イベント性」重視
業界最大手の毎日オークション(東京)では、映像を伴うオンライン入札の仕組みは未導入。美術品競売は、参加者が事前に公開される作品情報を見て入札価格の上限を担当者に伝え依頼しておく「指し値注文」が可能など、株取引との類似点も少なくない。SBIアートオークションがコロナ禍で高まったオンライン需要を迅速に取り込めたのは、証券業などグループ全体で培ってきたデジタル化への高い意識の表れとみることもできそうだ。
一方で、同社が重視するのは「イベント性」。平時の会場では、若いカップルが参加し、男性が女性に札を持たせ上げさせるといった光景もよく見られる。「会場に顧客が入り、盛り上がってこそ、オンライン参加者の気持ちも乗る」(幹部)。当面はコロナ禍の状況を見極めつつ、会場とオンラインを併用していく考えという。
同業では、Shinwa Wise Holdings<2437>も今年1月にオンラインの美術品競売を本格導入し、参加者の裾野拡大につなげている。倉田陽一郎社長は今後増加が見込まれるデジタル作品の取引に「大きな潜在成長性がある」と予想し、「参加しやすい仕組みをどんどんつくりたい」と意欲を示している。(了)