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〔潮流底流〕企業業績、コロナで「K字型」=製造業、巣ごもり・海外がけん引

2021年05月13日 21時18分

時事時事

 上場企業の決算発表がヤマ場を迎えた。新型コロナウイルス感染拡大による「巣ごもり」需要の追い風に乗ったゲームや家電などの製造業と、外出自粛のあおりを受けた航空や鉄道といった非製造業で二極化する「K字型」の構図が鮮明だ。海外景気の復調を背景にコロナ禍を克服しつつある製造業に対し、非製造業はワクチン接種の普及による持ち直しに期待を寄せるが、先行きは見通しづらい。

 SMBC日興証券の集計では、12日までに2021年3月期決算を発表した東証1部企業(772社、開示率52.7%、投資先の含み益の影響が大きいソフトバンクグループ<9984>を除く)の純損益合計は前期比1.9%減にとどまった。内訳は製造業の34.8%増に対し、非製造業は43.8%減と明暗が大きく分かれた。

 ◇モノ消費は過熱気味

 「ゲームソフトや(定額制の)ネットワークサービスが伸びた」。ソニーグループ<6758>の十時裕樹副社長は顔をほころばせた。在宅時間が伸びて家庭用ゲーム機「プレイステーション」などの販売が好調で、連結純利益は初の1兆円超えを達成した。

 任天堂<7974>もゲーム機「ニンテンドースイッチ」やソフト「あつまれ どうぶつの森」の人気で純利益が過去最高を更新した。古川俊太郎社長は「年明け以降も需要は想定以上に旺盛だ」と満足げだ。

 テレワークが広がり、室内環境を改善するニーズも膨らんだ。1人10万円の特別定額給付金も追い風となり、シャープ<6753>は空気清浄機やテレビなどの売れ行きが伸びた。22年3月期も連結純利益は4割増と、強気の見通しを示す。

 野村証券の池田雄之輔チーフ・エクイティ・ストラテジストは「モノの消費は回復を超え、むしろ過熱気味の面もある」と指摘する。

 景気の復調が鮮明な海外の需要を取り込んで巻き返す大手メーカーも目立つ。その代表格がトヨタ自動車<7203>。22年3月期は北米や中国をはじめとする世界の全地域で販売台数が増加すると想定し、純利益が2兆3000億円と4年ぶりの高水準を取り戻す見通しだ。

 ◇外出自粛で赤字続出

 人の移動を支えてきた企業は、外出自粛などで赤字転落や大幅減収の憂き目に遭った。JR東日本<9020>は純損失が5779億円と、1987年の民営化後、初の赤字を計上。幹部は「日本全体で移動の制限があり、(事業の)根本が崩れている」と苦渋の表情を浮かべる。JR東海<9022>、JR西日本<9021>と合わせたJR3社の赤字は1兆円を超えた。

 旅行大手の近畿日本ツーリストを傘下に持つKNT―CTホールディングス<9726>は、純損益が過去最大の赤字。希望退職の募集や店舗の統廃合でコスト削減を急ぐが、22年3月期も赤字は避けられない見通しだ。

 訪日客が途絶え、休業や時短営業を繰り返し強いられてきた百貨店も厳しい。21年3月期純損益が410億円の赤字に陥った三越伊勢丹ホールディングス<3099>の細谷敏幸社長は「顧客に店舗に来てもらえば勝てた事業モデルが傷んでいる」と肩を落とした。

 頼みの綱はワクチン接種だ。純損益が過去最大の4046億円の赤字に転落したANAホールディングス<9202>の片野坂真哉社長は、ワクチンで先行する海外の情勢を念頭に「接種が進めば航空需要は回復する」と期待する。ただ、ワクチン接種が滞ったり、変異ウイルスの拡大で収束がさらに遠のいたりすれば、「需要回復の遅れを想定する必要がある」と、黒字転換の想定が崩れないか頭を痛めている。

 ◇経営者の決算会見発言の明暗

【明】
▽トヨタ自動車・近健太執行役員
 コロナ禍で落ち込んだ自動車販売は日本や北米、中国、欧州で想定より早く回復している

▽任天堂・古川俊太郎社長
 巣ごもりで年明け以降もゲーム機の需要が想定以上に旺盛だ

▽ソニーグループ・十時裕樹副社長
 巣ごもり需要もあり、ゲームソフトや(定額制の)ネットワークサービスが伸長した

▽シャープ・野村勝明社長
 空気清浄機や洗濯機、調理家電、テレビなどが伸びた

▽フード&ライフカンパニーズ(旧スシローグローバルホールディングス)  ・水留浩一社長
 持ち帰りや宅配など多様な形で利用いただいた

【暗】
▽ANAホールディングス・片野坂真哉社長
 ワクチン接種が進めば航空需要は回復する。遅れを想定する必要もある

▽JR東日本・赤石良治常務
 感染拡大による移動制限で事業の根本が崩れており、厳しい

▽KNT―CTホールディングス・米田昭正社長
 旅行業の性質上、感染者が減少しないと事業は再開できない。従来をはるかに上回る赤字で申し訳ない

▽三越伊勢丹ホールディングス・細谷敏幸社長
 非常に厳しい。顧客に店舗に来てもらえば勝てた百貨店の事業モデルが傷んでいる

(注)フード&ライフカンパニーズは9月期決算企業で21年3月中間決算発表時の発言。その他の各社は3月期決算 (了)

 

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