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拡大するアジアのプライベート・クレジット市場=セビオラ・グループの投資責任者らが来日

2025年03月18日 12時40分

(左からクリストファー・スミス氏、エディ・オン氏、サビタ・プラカシュ氏、アシシュ・シャルマ氏)(左からクリストファー・スミス氏、エディ・オン氏、サビタ・プラカシュ氏、アシシュ・シャルマ氏)

 シンガポールの政府系投資会社の傘下で、プライベート・クレジットに強みを持つ資産運用会社セビオラ・グループの投資責任者らが来日し、市場見通しや投資機会について、メディア向け勉強会を開いた。

 プライベート・クレジットとは、銀行以外による企業向け融資のことだ。アジア太平洋地域の資産規模は約990億ドル(2023年)で世界全体の6.6%にとどまっている。今後、地域のダイナミックな経済成長に伴い、大きな拡大が見込まれるという。主なポイントをまとめた。

◆機関投資家や富裕層にプライベート市場へのアクセスを提供

クリストファー・スミス氏

 クリストファー・スミス氏(セビオラ・キャピタル セールス&ディストリビューション部門責任者)=セビオラは、約540億ドルの資産残高で、パブリックとプライベートの二つの市場に投資している。プライベート市場では五つの資産運用会社を展開している。約210人の投資のプロが、シンガポール、インド、豪州、中国、UAEで資産運用を行っており、機関投資家や富裕層にサービスを提供している。

◆危機に強いという特性

 エディ・オン氏(シータウン 副最高投資責任者 兼プライベート・インベストメンツ担当マネージング・ディレクター)=当社は創設以来、約15年間にわたり、アジアにおけるプライベート・クレジット戦略を、時間をかけて成長させてきた。アジアのプライベート・クレジット市場の世界全体に占める割合は約7%で、初期の段階にある。

 15年の間には、グローバルな金融危機やコロナウイルスのパンデミック(世界規模の流行)、中国の不動産危機などを経験してきた。そうした中、プライベート・クレジットが、危機に強い投資対象であることを目の当たりにしてきた。当社は企業への貸し出しを通じて、常に2桁のリターンを生み出し、2桁の分配を行ってきた。

 トランプ米大統領の関税政策などを受けて、世界の株式市場はボラティリティの高い状況が続いているが、そうした中でも当社の運用戦略は安定した成績を上げている。アジアのプライベート・クレジット戦略は、安定したリターンを、ダウンサイドリスクをプロテクトした形で提供できる資産クラスとして、魅力的な投資先になると考えている。

エディ・オン氏

 私たちの運用戦略は、コベナンツ(債務者側の義務や制限などの特約条項)が堅固で、カスタマイズされたサービスになっている。ハードアセット(実物・有形資産)の担保が付いており、下落局面に対する堅牢性が高い。先進国のプライベートアセットと比較してプライシングがより良好なことから、安定したポートフォリオの構築を求める投資家の関心が高まっている。

 アジアは、ユニークな地域だ。約10カ国から成り立っており、均一な市場ではない。その結果、常に投資機会がどこかにある。例えば、中国は現在、景気面で課題を抱えているが、インドは景気が非常に良いなど、それぞれに経済サイクルに違いがある。

 私たちの運用戦略の優位性は、当社の運用担当者がそれぞれの投資機会に合わせて、投資先を国やセクター間で柔軟に配分し、ベストなリターンを補足できることだと考えている。

 私たちの運用チームのメンバーは、アジアのクレジット業務に長期にわたってかかわってきた。アジアの金融危機も経験したし、商業銀行でさまざまな貸し出しを新興企業に供与してきた者もいる。また、長期にわたって資金を提供してきたことで、アジアの成長企業と強い絆(きずな)を持ち、独自の取引関係を構築してきた。こうした歴史が、当社の強みであり、サステナブルなビジネスのベースになっている。

◆「中小企業」「アジアForアジア」「スマートシティー」

サビタ・プラカシュ氏

 サビタ・プラカシュ氏(ADMキャピタル マネージング・ディレクター)=香港に拠点を置いており、1998年からアジアで運用を担当している。アジアのプライベート・クレジット市場で27年の経験を持っており、そこから多くの教訓を学んだ。そして、現在はアジアのプライベート・クレジットは、非常に説得力のある、良い投資先であると考えている。

 需要面から見ると、アジアの国々のプライベート・クレジットの需要は非常に強い。人口構成が若く、成長速度も速い。人々の所得が伸びている。自らのサイクルで発展を続けているので、西側諸国のサイクルにそれほど左右されないという強みを持っている。

 次に投資のテーマを見る。アジア太平洋地域では、中小企業が多い。国内総生産(GDP)の30~40%を中小企業が占めている。こうした中で、伝統的な商業銀行を通じたクレジットの提供が、十分にできていないという問題がある。アジアの中小企業はそれぞれ異なるニーズがあるが、プライベート・クレジットは、スピーディーに、柔軟に、ニーズに合わせたファイナンスを提供できる。

 二つ目のテーマは「アジアForアジア」だ。ここ4~5年に見られるトレンドだ。以前は先進国への輸出が主流だったが、現在ではアジア域内での貿易が増えている。アジアのある国から別の国に物や資本が流れる。あるいは、いくつかのアジアの国々に拠点を設けて貿易を行う。アウトソースして、マレーシアやタイなどから中国に物が流れるといった動きもある。アジアの中でファイナンシングを手当てする動きも多くなってきた。

 三つ目は「スマートシティー・コンセプト」だ。世界の3分の2のメガシティーが今後アジアで誕生すると言われている。そして、それは世界全体のGDPの80%を担い、また、温暖化効果ガスの75%を占めると言われている。こうしたトレンドを受けて、私たちは「スマートシティー・コンセプト」に投資することが重要だと考えている。具体的には、例えば、テクノロジーを駆使してサステナブルにサービスを提供できるインフラ企業などに投資することだ。

 アジアにおけるプライベート・クレジット投資で成功するには、その地域において、柔軟に、迅速に、深い知識と存在感(プレゼンス)を持って、運用を行うことだ。プライベート・クレジット市場は過去15年で見ると10倍、過去10年で見ると5倍、過去5年で見ると2倍というように、順調に拡大している。

◆ポートフォリオの分散投資を拡充

アシシュ・シャルマ氏

 アシシュ・シャルマ氏(イノベン・キャピタル マネージング・ディレクター)=イノベン・キャピタルは、第一抵当順位のプライベート・クレジットに投資している。投資先は、テクノロジー系の新興企業が多い。こうした企業は、既存の市場を打ち破り、新たな価値を生み出す力を持っている。

 私たちが融資するのは、例えばベンチャー・キャピタルやプライベート・エクイティ(非上場株)など、質の高い投資家が投資している企業だ。

 私たちの投資リターンは、3分の2がクーポンなどのフィクストインカムから生まれている。残りの3分の1は、エクイティーキッカー(新株予約券、普通株転換権)によって生み出されている。

 プライベート・クレジットの市場は、株式や債券などを代替するオルタナティブの中でも最も成長が速い市場だ。現在、グローバルな市場規模は2兆ドルを超えている。

 アジアのプライベート・クレジットの市場はまだ小さく、世界全体の7%程度を占めるに過ぎない。一方、米国は、世界のGDPの30%、世界の株式時価総額の70%を、それぞれ占めている。米国のプライベート・クレジットの市場規模は、世界の75~80%という状況だ。

 世界の株式市場は、ボラティリティが高まっている。米国のトランプ政権の関税政策などで、世界経済が脱グローバル化し、米国経済と各国経済を切り離すデカップリングが進みつつある。

 こうした経済環境の中で、私たちはプライベート・クレジットへの投資を増やすべきだと考えている。プライベート・クレジットのパフォーマンスは、投資家がリスクオフのセンチメントにある時に、良くなる傾向があるためだ。

 現在、大半の投資家は、米国への投資が過剰になっている状況だ。将来的にボラティリティが高まる可能性があることを考えると、投資先を分散することが重要になる。中でも、世界のGDPの3分の1を占め、急速に拡大しているアジア太平洋地域のプライベート・クレジット市場に資金を振り向けることが賢明だと考える。

 

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