東京都、自治体初の海外SDGs債を起債=海外資金を呼び込み、投資家の基盤を拡充
2025年01月17日 08時00分

東京都は昨年10月、自治体初の海外SDGs債「東京サステナビリティボンド(第7回ユーロユーロ債)」を起債した。東京都財務局主計部公債課長の橋口牧子氏に、起債の狙いなどを聞いた。
-東京都のサステナブルファイナンスの取り組みは
橋口氏 東京都は2017年度に「東京グリーンボンド」を、21年度に「東京ソーシャルボンド」を、いずれも日本の地方自治体として初めて起債し、その後も国内で継続的に発行してきた。日本におけるサステナブルファイナンスをけん引する役割を担ってきたと自負している。
22年度には、SDGs債を発行する自治体は約20団体に拡大、発行額は2600億円程度に増加した。さらに23年度には、複数の自治体が共同して発行する「共同発行地方債」でグリーンボンドの起債が始まっており、関与する自治体は50団体、発行額は4200億円程度にそれぞれ拡大している。
24年には、日本政府が「GX経済移行債(クライメート・トランジション利付国債)」を初めて発行するなど、日本全体としてサステナブルファイナンスに対する機運が高まっていると感じている。
-海外でSDGs債を起債した狙いは
橋口氏 海外動向を見ると、25年には米国でトランプ政権が誕生するなど、サステナブルファイナンスを推進する上で難しい時期になると思われるが、東京都は24年度に、成熟した日本のSDGs市場から海外へ一歩を踏み出すトライアルを行った。
海外で起債した狙いは、①海外の資金を日本に呼び込む ②投資家の基盤をさらに拡充する ③海外の投資家に環境や社会問題に対する東京都の取り組みを知ってもらう-などを目指した。そうした点においては、成功裏に発行ができたと評価している。
-起債の手応えは
橋口氏 3億ユーロ(約500億円)の発行額に対して、欧州の投資家を中心に5.4億ユーロの需要を集めた。SDGs債ということで、購入者の半数が新規の投資家だった。
投資家の半数が新規というのは高い割合だ。投資家のタイプでいうと、中央銀行・公的機関が59%、アセットマネジャーが25%、銀行が13%ということで、中央銀行・公的機関の購入が多かった。
中央銀行・公的機関は、発行体のクレジットを信認し、起債内容に共感して、満期まで保有していただける投資家なので、流通市場でも債券価格が安定的に推移するなど、次の起債にポジティブな効果が期待される。
-ユーロで発行した理由、充当事業のポイントは
橋口氏 発行額が3億ユーロということで、サブ・ベンチマークサイズの規模だった。米大統領選の直前の10月下旬の発行を見込んでいたため、ドル相場が不安定になる可能性があり、ユーロを選択した。ドル建ての投資家は、1回の起債額が大きいものを選好する傾向が強いので、そうした点でもユーロ市場が適当だと考えた。
充当事業は、グリーン事業とソーシャル事業の両方を対象とする「サステナビリティ債」とした。グリーン事業では「太陽発電の設置」など、ソーシャル事業では「無電柱化の推進」を入れた。いずれも、投資家に好評で、関心を持っていただいた。
-欧州の投資家とのコミュニケーションを通じて、感じたことは
橋口氏 欧州の投資家は、この債券の充当事業だけでなく、発行体である東京都が、環境施策全般についてどのような活動を行っているかという点に関心が高かった。例えば、太陽光発電について、この債券の充当事業は、東京都の保有する建物を対象としているが、それ以外の民間の建物の太陽光発電の導入に関する対応について質問され、本年4月に施行した新築住宅に太陽光発電設備を普及させる施策を紹介した。
また、欧州と東京では環境が異なるため、例えば、無電柱化については、震災時に電柱が倒れて通行人がけがしたり、物資の輸送の妨げになったりすることを防ぐために必要なことを説明した。
東京都は、サステナビリティ債の充当事業のその後の状況を継続的に報告する「事後検証」を実施しているが、こうした活動に賛同していただいた。関連するリポートについて外部評価を取得していることについても、評価していただいた。この債券の発行をきっかけに、東京都の活動や背景を説明できたことは、当初の狙い通りで、良い機会になった。
-24年度を振り返って
橋口氏 2024年度は、初のサステナビリティボンドの海外発行を、成功裏に終わらせることができた。また、国内で発行してきた「東京グリーンボンド」について、海洋事業を含めて「東京グリーン・ブルーボンド」とするなど、チャレンジの多い年となり、良い流れをつくることができた。
2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」の実現に向けて、30年は「カーボン・ハーフ」を実現する年になる。大きな都政の課題の一つであり、その達成に向けても財源を含めてしっかりと支えていきたい。