グローバル水準の経営を目指し、投資先企業をサポート=スチュワードシップ活動でロードマップ-AM-Oneの池畑氏・濱口氏に聞く
2024年11月01日 08時00分
アセットマネジメントOneは、議決権行使やエンゲージメント(企業との対話)などのスチュワードシップ活動について、2030年に向けたロードマップ(工程表)を作成し、投資先企業に公表した。
具体的なスケジュールと対応項目を投資先企業に明示し、改革を一緒に実現していくことで、グローバル水準のコーポレートガバナンス(企業統治)を実現してもらう。また、こうした活動を通じて企業価値を高めることで、投資家により大きなリターンを提供することを目指す。
運用本部の池畑勇紀氏(リサーチ・エンゲージメントグループ 議決権行使チーム長)と濱口実氏(リサーチ・エンゲージメントグループ長)に話を聞いた。
◆より良い環境・社会へ「資金の流れ」をつくる
-スチュワードシップ活動の取り組みは
池畑氏 私たちは、個人投資家や年金基金の資金を運用する際、「責任投資」の観点に立ち、財務基準に加えて「環境や社会に対して企業が責任を果たしているか」といった非財務情報に着目して、スチュワードシップ活動を行っている。
当社は、2016年に運用会社など4社が統合して発足して以来、業界の流れに先行して「責任投資部」を設置し、専任のESG(環境・社会・ガバナンス)アナリストを置いて、スチュワードシップ活動を実施してきた。現在は「リサーチ・エンゲージメントグループ」として体制を強化し、取り組みを拡大している。
「環境・社会の課題解決なくして、企業価値の向上はない」という視点に立ち、投資を通じて「資金の流れ」を作ることで、より良い環境・社会を実現できるよう、企業を伴走し、サポートしてきた。
◆企業に開示を促し、実効性のある対話を行う
濱口氏 政府は、長期にわたって低迷する日本企業を改革するために、二つのコードを作成した。一つは、2014年の「スチュワードシップ・コード」だ。私たち機関投資家に対して、投資先企業の株主として、企業価値向上にむけて議決権行使やエンゲージメントを行うように求めた。もう一つは2015年の「コーポレートガバナンス・コード」だ。企業に対してガバナンスの在り方を見直し、その内容を開示するよう求めた。
当社は、非財務情報や人的資本の開示を企業に働きかけるとともに、「実効性のあるエンゲージメント」を行い、企業価値向上につなげてきた。
◆予見可能性を高め、実効性を向上させる
-ロードマップ作成の経緯は
池畑氏 企業は、①中長期的な目線で「将来のあるべき姿」を描くこと ②それに向かって課題を設定・解決し企業価値を高めること、が求められている。
一方、企業に対して「中長期的の目線での経営」を求めるのであれば、われわれ運用会社も「中長期的な目線に立ったスチュワードシップ活動」を行うべきであり、ロードマップを示した上で企業に働きかけた方が、一貫性、納得性が高まると考えた。
濱口氏 企業からすると、運用会社の議決権行使基準が毎年変更されることについて、唐突感を持ったこともあったかと思う。ロードマップを示すことで、会社側の予見可能性が高まるだろうし、われわれの今後の対応を可視化することで、エンゲージメントの実効性が高まると考えた。
2027年は、グローバルに活動するISSB(国際サステナビリティ基準審議会)と日本のSSBJ(サステナビリティ基準委員会)により、非財務情報の開示要請が本格化する見通しだ。2027年は節目の年になることから、2030年を目指して3段階のロードマップを作成した。
◆第1段階、スタートラインに立つ、質を高める
-「今後2年以内」のポイントは
池畑氏 ロードマップの第1段階の「今後2年以内」では、スタートラインに立ってもらうことや、エンゲージメント活動を通じて取り組みの質を高めることに力を入れる。
外形的な基準に達していない企業に改善を働きかけ、基準を達成した企業には「質の充実」を求める。また、「非財務のマテリアリティ(重要課題)を、どのように企業価値向上につなげていくか」といった、現状の確認と課題設定について議論する。
日本のコーポレートガバナンスは、外形的には整ってきた。例えば、東証プライム市場に上場する企業の9割強が、取締役会の3分の1以上の社外取締役を登用し、指名/報酬委員会を設置している。ただ、ROE(自己資本利益率)を見ると、まだまだ改善の余地はあるし、実質的に企業価値向上に貢献できる社外取締役をそろえているとは言えないケースもある。
◆第2段階、非財務の情報開示が本格化
-「2027年まで」のポイントは
池畑氏 第2段階の「2027年まで」では、質を向上しつつ、より実効性を高めたコーポレートガバナンスの実現を目指す。また、開示義務化の可能性が高まる非財務情報の開示にしっかり取り組むことを求める。
取締役会の女性の登用は、「複数もしくは20%以上」とした。現在は社外取締役として女性を登用するケースが多いが、社内からの女性取締役の登用についても働きかけていきたい。
気候変動や自然資本の分野は、現在検討中であるが、それらの取り組みが企業価値向上に重要な企業に対象を絞ったうえで、「2050年ネットゼロのコミットメント」やその中間目標の開示。また昨年秋に公表されたTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)に沿って、自らの事業活動と生物多様性に重要な地域の接点を公表してもらうことを検討している。
人権・人的資本では、企業が取引先を含めて、「人権に配慮した活動を行っているか」について、情報開示の充実を求める見通しだ。
第2段階では、「株価や資本効率を意識した経営が一段と進展している」と想定されることから、これらに関連した議決権行使基準の引き上げの可能性もある。
◆第3段階、グローバル水準のコーポレートガバナンスを実現
-「2030年まで」のポイントは
池畑氏 ロードマップの最終段階である「2023年まで」では、株価や資本効率を意識した経営が実現し、企業価値を向上させるスキルを持った社外取締役が過半数を占め、女性取締役が3割以上活躍する取締役会になるだろう。また、資本コストを上回るROEが実現することが期待される。
さらに、取締役の報酬を規定するKPI(重要業績評価指標)にGHG(温室効果ガス)の削減など非財務の目標の組み入れを求めることも考えられる。
投資先企業について、グローバル水準のコーポレートガバナンスを実現し、企業価値を高めることで、投資家からお預かりしている資産をしっかりと成長させ、財務的なリターンをお返しすると共に、環境や社会課題の解決に貢献したい。
◆財務と非財務のリサーチとスチュワードシップを統合
-組織改編の成果は
濱口氏 当社は4月1日付で、運用力の源泉となる「総合的な調査力の強化」と「エンゲージメント活動の更なる強化」を目的として、運用本部の再編を行った。具体的には「株式運用グループ」内のリサーチ機能と「スチュワードシップ推進グループ」、「調査グループ」を統合し「リサーチ・エンゲージメントグループ」を新設した。約50人の調査担当者を擁しており、国内有数の規模だ。
ここでは、セクターアナリストとESGアナリスト、エコノミストが、同じグループで仕事をしている。財務分析を得意とするセクターアナリストと、非財務を得意とするESGアナリストが一緒になったことで、例えば、非財務情報である人的資本や環境の観点から、中期計画や事業ポートフォリオ戦略を分析するなど、エンゲージメントで多面的な提案が可能になった。骨太で実効性のあるエンゲージメントを行い、経営者と課題を共有することで、さらに実効性のあるスチュワードシップ活動を展開していきたい。