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「これからずっと日本株」=企業と経済の構造変化で―AM-Oneの丸山運用本部長らが講演

2024年07月31日 08時30分

丸山氏【AM-One】

 アセットマネジメントOneがこのほど開催したフォーラムで、「日本企業の構造変化を受けた日本株ファンドの着眼ポイント」をテーマに、常務執行役員運用本部長の丸山隆志氏と、日本株に投資する公募投信「DIAM割安日本株ファンド」、「新光日本インカム株式ファンド」、「ハイブリッド・セレクション」を運用する3人のファンドマネジャーが講演した。

 丸山氏は、日本株について「10年以上の歳月をかけて改革を積み重ねたことで『これからずっと日本株』と言える投資対象になった」と指摘。①地政学 ②政策 ③国内経済 ④企業経営 ⑤株主-に分けて構造変化を分析した。主なポイントは以下の通り。

◆経済安全保障、日本の重要性高まる

-地政学の変化とは

丸山氏 西側諸国とロシア・中国の対立の中で、サプライチェーンといった経済安全保障の観点から、日本の重要性が改めて見直されている。また、中国経済が減速する一方で、日本は成長に転じている。グローバルな長期投資家が日本への投資拡大を検討している。

◆成長型経済へ転換

-政策の変化は

丸山氏 政府は経済産業政策で新機軸を打ち出しており、例えばGXやDXなど戦略分野に大規模・長期・計画的な政策支援を実施し、多数の投資案件が動きだしている。岸田文雄首相は国内外でたびたび日本への投資拡大を呼びかけてきた。それが、台湾の大手半導体メーカーの日本進出などに結びついている。

 さらに、政府が推進する「資産運用立国」のインパクトも大きい。投資によって新しい価値を生み出すことで、日本を「成長型経済」へ転換させることをめざしている。少額投資非課税制度(NISA)の拡充により投資資金が増加し、企業が設備・人的投資を行う中で、「企業の稼ぐ力」が「投資リターンの上昇」につながる好循環が期待される。

◆価格転嫁・賃上げ、日本経済が正常化へ

-国内経済の変化は

丸山氏 コロナ禍後の経済回復やロシアのウクライナ侵攻により、原油や小麦などの輸入物価が高騰した。こうした中で、企業の価格設定行動は、これまでの「価格を上げない経営」から、原料価格の上昇に応じて販売価格を引き上げる経営に変化した。一方で、人手不足に対応して企業は給与を引き上げ、2024年春闘では33年ぶりの高い賃上げ率が実現した。

 今後、消費者物価が落ち着き、実質賃金がプラスに転じる中で、消費が伸び、経済活動が正常化していくと見ている。

◆資本コストを意識した経営

-企業経営の変化は

丸山氏 日本企業は、2013年6月に安倍晋三内閣が打ち出した「日本再興戦略」に「コーポレートガバナンス(企業統治)の強化」が明記されて以降、10年以上の歳月かけて経営改革を推進してきた。その間、「スチュワードシップコード(責任ある機関投資家の諸原則)」と企業活動のガイドライン「コーポレートガバナンスコード」が策定され、実施状況を検証しながら改訂が繰り返された。それがついに花開いた。

 東証は2023年3月、上場企業に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を求めた。東証はその後も対応状況を毎月チェックし、一覧表にして公表している。その表はコード順ではなく、業種順に並べられている。同業他社の動向が一目で分かるため、横並び意識が強いと言われる日本企業に改革を促す効果が期待される。

◆議決権行使基準を厳格化

-株主の変化は

丸山氏 私たち運用会社は、株主として「企業の稼ぐ力」が「投資リターンの上昇」につながる好循環の実現に努めている。具体的には、株主総会の議決権行使基準を厳格化し、取締役の選任基準に、業績や不祥事、取締役の構成メンバーに加えて、「企業価値を向上させたか」を加えた。エンゲージメント(企業との建設的な対話)を通じて、企業の中長期的な価値向上の取り組みをサポートしている。

◆「DIAM割安日本株ファンド」

-運用哲学は

安西氏【AM-One】


安西慎吾氏(株式運用グループ ファンドマネジャー) 運用経験年数は25年になる。ITバブル崩壊やリーマン・ショックなどさまざまな相場変動を経験してきた。こうした経験を踏まえて最も大切にしていることは、「変化に気が付くこと」だ。社会や企業の変化を、いかに早く的確にとらえていくか-が、ファンドの優劣を決定すると考えている。

 「DIAM割安日本株ファンド」は、国内の割安株に投資するファンドだ。「配当利回り」や「PBR(1株当たり純資産)」、「PER(株価収益率)」といった株価指標が割安な企業の中から、先行きの業績が改善・拡大する銘柄に選別投資している。

-割安株に注目する理由は

安西氏 企業が稼いた利益は、どこに行くのだろうか。(A)次の利益を生み出すための投資 (B)配当や自社株買いの株主還元 (C)内部留保-の三つしかない。日本企業は、20年以上続いたデフレ経済を背景に、投資や還元よりも、何かが起きた時に備えて内部留保を積んできた。

 割安株には、内部留保を過剰に積み上げ、低PBRになっている企業が多い。こうした企業は、「新たな投資を行うことで将来の企業利益を引き上げる」、あるいは「配当や自社株買いなどで株主資本の増加を抑制する」ことで、ROE(自己資本利益率)を改善させることが必要だ。当ファンドは、低PBR企業の中からROEの引き上げに意欲のある企業を探し出して、ROEの引き上げを企業に働きかけている。

-運用の強みは

安西氏 当社は今年4月、運用本部にリサーチ・エンゲージメントグループを新設した。「財務・非財務の企業分析」や「政策・マクロ経済の分析」と「エンゲージメントなどのスチュワードシップ活動」を融合・深化させている。

 企業を熟知した経験豊富なファンドマネジャーやアナリストが、企業価値向上をめざした共通の目線で企業経営者と話し合うことにより、充実した対話が可能になる。その結果、市場よりも早く的確に、業績が改善する銘柄を見抜くことができると考えている。

-運用のこだわりは

安西氏 「変化を捉えるカタリスト」だ。カタリストとは、株価上昇やバリュエーション訂正のきっかけになる材料だ。例えば、「政府の経済政策のフォローを受けやすい」とか、「資本効率に対する前向きな変化の結果、株主還元を拡充した」などだ。

 割安株投資のリスクに「バリュー・トラップ」がある。株価上昇のきっかけがないまま、割安に放置されてしまう銘柄のことだ。こうした銘柄を回避するために、的確なファンダメンタルズ分析に加えて、割安解消につながるカタリストを持っている銘柄を発掘することが大切だ。

◆「新光日本インカム株式ファンド」

-運用哲学は。

吉澤氏【AM-One】


吉澤朋哉氏(株式運用グループ ファンドマネジャー) 運用経験年数は23年になる。一貫して高配当株の運用戦略を担当してきた。高配当株への投資は「長期的に着実に運用資産の増加につながる」という思いで、運用に取り組んでいる。

 「新光日本インカム株式ファンド」は、「配当利回り」と「長期的な配当の安定性・成長性」を軸とした投資魅力度に基づいて銘柄を選別している。

 過去にさかのぼって、配当総額と当期純利益総額の推移を比較すると、景気後退局面でも配当総額は相対的に小幅の減少にとどまり、景気変動の影響を受けにくい傾向がある。また、日本企業は資本効率の改善に向けて株主還元を積極化しており、配当は安定的に増加傾向にある。

 過去10年間を見ると、配当総額は年率10%程度で成長しており、高配当銘柄への投資は、安定性と成長性を兼ね備えた投資戦略だと考えている。

-運用のポイントは

吉澤氏 単に足元の配当利回りに着目するのではなく、長期にわたって配当を増やすことができる銘柄を選別している。具体的には、中長期的なROEの水準の持続性や変化の方向性を見ることで、企業の競争力や付加価値を確認し、配当の源泉となる利益の創出力を判断している。

 また、株主還元に対する姿勢を見ることで、適切な資本配分による資本効率に対する意識を確認している。

 当ファンドは、ファンドマネジャーとアナリストの活発な議論を重視している。アナリストは、業績予想に加えて、配当についても中期的な予想を立てており、そうした情報をファンド運用に役立てている。

-運用のこだわりは

吉澤氏 「競争力を見るROE」だ。ROEを高い水準で維持できる企業は、競争力があって、利益創出力も強い。すなわち、将来の配当の増加が期待できる。中長期的な収益性を示すROEと、株主還元に対する姿勢に着目している点が、このファンドの特徴だ。

◆「ハイブリッド・セレクション」

-運用哲学は

西田氏【AM-One】


西田森氏(株式運用グループ ファンドマネジャー) 大学では物理学を専攻した。運用経験年数は約10年で、日本株のアクティブ運用に携わってきた。

 「ハイブリッド・セレクション」は、グロース(成長株)とバリュー(割安株)の両方に着目し、その比率を適切にコントロールするという、ハイブリッドな運用を行っている。マーケットの相場局面は変化していくものだ。それに伴って、有効な投資戦略も変化していく。当ファンドのコンセプトは「局面に応じた最適な投資戦略を取っていく」ことだ。

 まず、トップダウン・アプローチにより、マクロ経済等の相場環境の先行きを予想し、相場局面に応じた適切な投資戦略を取っている。相場局面の分析で重視しているのは、「金融政策のサイクル」と「それに伴う金利水準」だ。さらに、マーケットの需給関係など、さまざまな分析を加えることで確信度を高めている。

 グロース銘柄とバリュー銘柄の配分を決めた後は、その配分に沿ってボトムアップ・アプローチで組入銘柄の選別をしている。銘柄選定に当たっては、アナリストが作成する企業業績の予想を参考に、ファンドマネジャーが株価のバリュエーションや市場動向、需給動向などを判断して、投資銘柄を決めている。

-運用のこだわりは

全体【AM-One】登壇中カット

西田氏 「柔軟に機をつかむ」だ。このファンドは、運用スタイルを一つに固定せず、最適な配分に調整することで、柔軟に投資機会を選択している。例えば、グロースとバリューでどちらが優位か、判断が難しい局面では、スタイル判断をニュートラルにして、より確信度の高い領域やセクターでリスクを取っている。

 ただ、柔軟だといっても、短期的に運用内容を変更することはない。このファンドは、金融政策の長期的なサイクルを重視しており、基本的には3~6カ月の目線でスタイル判断を行っている。

 

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