日本株、業績拡大で中長期に右肩上がり=株価低迷の要因は解消進む-キャピタルの雨宮氏
2024年04月05日 08時00分
日米の株価が史上最高値を更新している。その要因や中長期見通しについて、米国の独立系運用会社キャピタル・グループの日本法人キャピタル・インターナショナル(本社東京)の雨宮弘明取締役インベストメント・ディレクターに話を聞いた。
◆資本政策見直し、株主価値の拡大図る
-日本株の現状は
雨宮氏 日経平均株価は、34年ぶりに史上最高値を更新し4万円台に上伸しているが、バブル的な要素は見られない。日本株について前向きな見通しを持っている。
最高値を更新した最大の要因は「日本企業のファンダメンタルズの改善」だと考えている。日本企業はバブル崩壊以降、財務体質を見直してきた。さらに、資本政策や企業収益を改善し、株主価値の拡大に取り組むなど、非常に良い方向に進んでいる。
◆ファンダメンタルズに裏打ちされた高値更新
直近10年間の日米の株価の上昇率を、米国の大手金融サービス会社MSCIの指数で比較すると、米国株式が年率12%程度の上昇だったのに対し、日本株式は同5~6%の上昇にとどまっている。一方で、企業業績を示すEPS(1株当たり純利益)は日米ともに年率7%程度の上昇だった。
日米の業績成長率はほぼ同じなのに、株価の差が広がったことで、日本株は株価収益率(PER)が切り下がり割安な状況にあった。現在の日本株の上昇は、ファンダメンタルズに裏打ちされたものだ。
◆「投資家との対話」が企業価値を高める
このほか高値更新の背景には、円相場が1ドル=150円近辺の円安に下落して輸出企業の業績が押し上げられたことや、日本経済に30年間も続いたデフレが終わる兆しが見え始めたことで、外国人投資家が日本株に注目し多くの資金が流入したことがある。
東証は、上場企業に対して資本コストや株価を意識した経営の実現を求めている。企業自身の努力と同時に、アクティビスト(積極的な提案を行う投資家)の合理的な株主提案や、機関投資家のエンゲージメント(建設的な対話)が、企業価値の向上を後押しし株価を押し上げる要因になった。
◆「日本株低迷の4要因」、解消へ
-今後の見通しは。
雨宮氏 日経平均株価は4万円の大台を超え、これからどうなっていくだろうか。私は、これまで日本株を低迷させてきた四つの要因が徐々に解消しつつあることに注目している。
日本株を低迷させてきたものは、①日本企業のガバナンスの低さと株主軽視 ②海外投資家のジャパン・パッシング(日本への無関心) ③粘着性のあるデフレ ④デジタル化の遅れ-だったと考えている。
◆さらに進む「ガバナンス改革」
一つ目の日本企業のガバナンス改革は、これからもまだまだ続く。これまでは大企業を中心に大きく進展したが、今後は地方企業や中小企業に広がりを見せるだろう。東証は当初、低PBR(株価純資産倍率)企業にガバナンス改革を呼びかけたが、現在では全企業に対象を広げ「資本政策の見直し」と「株価を意識した経営」の実現を求めている。
経済産業省は昨年8月、「企業買収における行動指針」を発表した。これが、企業の体質改善を推進する次の一手につながると考えている。日本はまだまだ、規模の小さな企業が多数存在する。「きらりと光る技術を持っているが収益性の低い企業」が、コンソリデーション(合併・統合)により、企業の魅力を高める事例が数多く出てくるのではないか。
◆「日本の安全・安定」に世界が注目
二つ目のジャパン・パッシングについては、世界的に見直しが進んでいる。地政学的リスクが高まり、さまざまな分断が進む中で、日本の安全で安定した社会・政治・経済に対する評価が高まっている。海外の大手半導体メーカーが日本に最新工場を建設したが、日本の優秀なエンジニアの存在は、投資先を決める際の重要な要素だ。
日本は成熟した経済・社会なので、新興国のような高い経済成長や人口増加は想定しづらい。しかし、海外からの投資で、労働市場が活性化し、国内消費が拡大すれば、社会全体に好循環が生まれ、海外投資家の関心も継続するのではないか。
◆「金利のある世界」でバリュエーションが回復
三つ目は、デフレ経済からの脱却だ。今年の春闘の賃上げ率は5%を超え、33年ぶりの高水準になっている。慢性的な労働力不足の中で、今後も持続的に賃金上昇圧力はかかり続けるだろう。現状ではまだ、賃上げが物価上昇を上回り、家計所得が増えて消費が拡大するプラスのサイクルには入っていない。しかし、今後、輸入物価が安定化し、物価上昇が緩やかになる中で、「賃金と物価の好循環」が生まれ、日本経済はデフレから脱却するだろう。
インフレの世界に入ると、(物価上昇を反映した)名目の国内総生産(GDP)や名目の企業売上高・利益が引き上げられる。これが、株価の上昇を後押しする。日本ではこれまで、PERが上昇しなかったが、それはデフレが原因だった。しかし、日本経済が「金利のある世界」に入っていく中で、日本のPERが上昇しやすくなり、株価は押し上げられるだろう。
◆労働市場のデジタル化、成長分野に人材投入
最後は、デジタル化やHR Tech(Human Resources Technology)の推進だ。慢性的な労働力不足の中で、人材管理にインターネットやデータベースを組み合わせて流動化を進めることで、優秀な人材が成長分野に移動し、日本全体の生産性向上が期待される。
このように、日本株式を低迷させてきた要因は、解消に向かっている。
◆企業構造の変化で、右肩上がりの上昇へ
日経平均株価が4万円台というと、昔から株式市場を見てきた人は「高いな」と感じるかもしれない。しかし、今の日本企業の業績成長は「資本政策の改善」「経営戦略の見直し」「事業ポートフォリオの再構築」を要因としている。これは景気サイクル要因ではなく、構造的な変化であり、より持続的な業績拡大が期待できる。
日経平均株価がバブル期の1989年12月に高値をつけた時、PERは約60倍だった。現在の日本株のPERは15~16倍にとどまっている。さらに、今後もEPSの成長が期待されることから、日本株は企業業績に裏打ちされ、中長期的に見ると、右肩上がりに上昇する相場を予想している。
◆アクティブ運用、成長企業を応援
少額投資非課税制度(NISA)をきっかけに、積立投資に取り組む若年投資家が拡大している。2012年のアベノミクス以降の日経平均株価のチャートを見ると、右肩上がりの上昇トレンドを描いてきた。20~30代の人は、社会人になって以降、ずっと株価が上昇している。フレッシュな目線で株式市場を見ているので、彼らがマーケットの主体になるに従って、日本株に対する評価が前向きなものになるかもしれない。
インデックス運用は、過去に成功して時価総額が大きくなった企業に資金のほとんどを投資する。一方、アクティブ運用は、今は時価総額がそれほど大きくなくても、これから成長すると期待される企業に投資する。投資家の皆さまからお預かりした資金で、成長企業を応援し、日本経済の底上げにつなげていきたいと思う。
◆投資の成功で人々の人生をより豊かにする
-キャピタル・グループとは。
雨宮氏 キャピタル・グループは、世界恐慌の最中の1931年に米国ロサンゼルスで創業した。金融・証券グループに属さない独立系の運用会社で、株式非公開を堅持している。また、アナリストによる調査を基にファンドマネジャーが銘柄を選定するアクティブ運用を専門にサービスを提供している。
企業ミッションとして「投資の成功で人々の人生をより豊かにする」を掲げ、その達成に向けて、リサーチや運用体制を整えている。また、責任ある投資家として、企業との対話や議決権行使などのスチュワードシップ活動を行い、企業価値の向上に努めている。
◆運用期間約90年や、資産規模26兆円のファンドも
-ファンドの特徴は。
雨宮氏 長期の運用実績を持ち、資産規模が大きいファンドが多い。例えば、1934年に設定した第1号ファンドの「ザ・インベストメント・カンパニー・オブ・アメリカ」は、現在も運用を継続している。運用期間は90年に及び、資産規模は14兆円(2022年12月末時点)に拡大している。
米国籍のアクティブファンドについて、22年12月末時点の純資産ランキングの上位20本を見ると、当社のファンドが13本を占めている。最大のファンドの純資産総額は26兆円だ。お客さまに継続して投資していただいているおかけで、資本市場の成長に合わせてファンドの規模も拡大している。
◆確定拠出年金など税制優遇制度からの資金が7割
-お客さまの特徴は。
雨宮氏 キャピタル・グループがお預かりする約300兆円の資産のうち、約7割が例えば確定拠出年金のような税制優遇措置のある積立型の制度からの資金だ。老後に向けた資産形成をサポートする制度なので、運用期間は30年、40年といった長期になる。
当社は、こうした長期運用のお客さまの期待に応えるため、二つの体制整備を実施している。一つは、複数運用担当者による独自の運用システム「キャピタル・システム」た。年代の異なる複数のマネジャーに運用を任せる中で、新しいファンドマネジャーを育成し、順番に交代することで、世代を超えた超長期の運用を可能にしている。
二つ目は、30年、40年という長期投資に適した、普遍的な投資目的に合ったファンドを提供している。「資産を育てる」「資産を使いながら育てる」「資産を守る」といったお客さまの抜本的な運用目的に合致した最適な運用を行っている。
◆ゴールベースアプローチで投資家をサポート
―お客さまのサポートは。
雨宮氏 私たちは米国で、IFA(独立系ファイナンシャル・アドバイザー)を通じて、ゴール(目的)に向かって計画を立てて、生涯にわたって二人三脚でサポートするゴールベースアプローチの資産運用を提供してきた。日本でもゴールベースアプローチの普及に向けて、IFAやアドバイザーへのサポートを強化している。
NISAをきっかけに、「老後に向けてどのような資産形成をすれば良いか」「そろそろリタイアを迎えるが資産を守りながら使うにはどうすれば良いか」といった質問が増えてきた。そうした方に、当社のファンドの魅力を伝えていきたいと考えている。
◆日本初の運用会社アワードを受賞
-投信調査会社の評価は。
雨宮氏 当社は、米系の投信調査会社モーニングスター・ジャパンが、日本で初めて実施した「運用会社アワード」を受賞した。リスク調整後リターンが良好であることや、投資家の利益を最優先にする運用姿勢が評価されたと考えている。