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動き始めたインパクトファイナス=金融を通じて社会的課題の解決めざす-かんぽ生命、肥後銀行と年金基金、AM-Oneが取り組み報告

2024年03月26日 15時00分

(左から)春名貴之かんぽ生命保険常務執行役、岩立康也肥後銀行常務執行役員、杉原規之アセットマネジメントOne社長(左から)春名貴之かんぽ生命保険常務執行役、岩立康也肥後銀行常務執行役員、杉原規之アセットマネジメントOne社長

 経済的リターンと社会的課題解決の両立を目指すインパクトファイナンスが動き始めた。民間の金融機関によるインパクト投資を実践するイニシアチブ「インパクト志向金融宣言」は第2回目の座談会を開き、かんぽ生命保険、肥後銀行と肥後銀行企業年金基金、アセットマネジメントOneが、取組み事例を報告した。

 インパクト志向金融宣言は2021年11月に、金融機関21社の経営トップの署名により活動をスタートした。この宣言は「民間金融機関が組織の目的として、環境・社会課題を解決する意図(インパクト志向)を持ち、投融資先が生み出す環境・社会への変化(インパクト)の測定・マネジメントを実践し、投融資活動や金融商品提供を推進する」ものだ。

 参加者は、ベンチャーキャピタルから銀行、証券、生命保険、運用会社、アセットオーナーまで幅広い。アセットクラスを横断するプラットフォームは、世界的にも珍しい。24年3月初で署名機関が75社、賛同機関が9社に拡大している。

◆「インパクト“K”プロジェクト」-かんぽ生命保険

 かんぽ生命保険は、加入者数が約2000万人で、国民の6人に1人が利用するユニバーサルオーナーだ。保有資産60兆円の全てにESG(環境・社会・ガバナンス)を投資判断に統合するインテグレーションを行っている。21年12月に「インパクト志向金融宣言」に署名した。

 春名貴之常務執行役は「時代の変化とともに、経済的リターンと共に社会的課題を解決することにターゲットを絞ったインパクト投資の方が、サステナブル投資を推進するうえでもより意味のあるものになるのではないかという想いを強くする中で、当社はごく自然に『インパクト志向金融宣言』に署名した」と説明した。

 22年に独自のインパクト投資フレームワーク「インパクト“K”プロジェクト」を立ち上げた。アセットオーナーの観点から、インパクト投資の認証要件・プロセスを整備する狙いだ。インパクト創出の質および透明性を確保しながら、柔軟なKPI(重要評価指標)設定により、多様なインパクト投資案件を積み上げている。

 春名常務は「イノベーションの中にこそ、インパクト創出がある。戦後の復興の中で、家電メーカーは、新たな家電製品を開発し、家庭が抱えるさまざまな社会的課題を解決することで、豊かさを実現してきた」と指摘。「現在は、社会的課題が複雑化し、課題設定が難しくなっているが、テクノロジーや医療技術によって解決されるものも数多くある。大学発のスタートアップ企業をしっかり支援することで、インパクト投資を実現していきたい」と述べた。

 さらに、同社がインパクト投資のグローバルなネットワークGlobal Impact Investing Network(GIIN)に加入したことを明らかにした上で、「グローバルな動向に目を向けることで、最新のインパクト投資の情報や考え方を取り入れて、自らもブラッシュアップしていく必要がある」と指摘した。

◆「スタートアップ ハブ くまもと」-肥後銀行

 肥後銀行は23年8月に、銀行本体に加えて、グループのベンチャーキャピタル、アセットマネジメント会社、同行の企業年金基金が「インパクト志向金融宣言」に署名した。年金基金の参加はこれが初めてだ。

 岩立康也常務執行役員は、「地域の発展なくして企業の発展はない。『その地域にどういう地銀があるかによって地域の将来が決まる』という気概を持ち、『地域の課題解決が当行の本業』と考えて日々の業務に取り組んでいる」と述べた

 肥後銀行は、地域の創業者を支援するプラットフォーム「スタートアップ ハブ くまもと」を立ち上げた。開業相談、税務、不動産などさまざまな情報をワンストップで収集できて、開業後の経営支援も受けられる。ファンドから資金も提供する。また、肥銀キャピタルは、熊本大学と同大発のスタートアップ企業の支援・育成を行っている。

 肥後銀行企業年金基金が受益者に実施したアンケートでは、8割以上が「国連の責任投資原則(PRI)への加入」や「ESGを重視した運用」を行うことに賛成した。基金では受益者と緊密にコミュニケーションを取りながら運用方針を決めており、資産の5割でESG投資を行っている。さらに、これを6割に高める方針だ。

◆「サステナブル投資方針」-アセットマネジメントOne

 大手運用会社のアセットマネジメントOneは、「投資の力で未来をはぐくむ」をコーポレート・メッセージに掲げ、マニュフェストに「(投資の力によって、)投資した先の活動を通じて、環境や社会の課題を解決し、世界を豊かにすることができる」を盛り込んでいる。「インパクト志向金融宣言」には、発足時から参加している

 杉原規之社長は「こうした大きなチャレンジを成し遂げるには、アセットオーナー(投資家)や投資先企業と共にインベストメント・チェーン全体で取り組むことが重要だ」と指摘した。

 同社は、5つのアクションを盛り込んだ「サステナブル投資方針」や、投資を5分類に整理した「サステナブル投資体系」を制定した。また重要課題を特定した「マテリアリティ・マップ」を作成し、インパクト投資等の羅針盤として活用するなど、運用体制を整備してきた。

 具体的な事例では、グループ会社のアセットマネジメントOne オルタナティブインベストメンツが、人々の生活に欠かせない社会基盤を構築するプロジェクトに投資するインフラ・デットを提供しており、例えば、水資源が乏しいUAEにおける世界最大級の海水淡水化事業などに投資している。

 また、「AMOneオールジャパン・カーボンニュートラル戦略ファンド(適格機関投資家限定)」は、日本企業に広く幅投資し、温室効果ガス排出量の実質ゼロ向けて、エンゲージメント(建設的な対話)等を通じて企業の行動を促している。

 さらに、金融経済教育を提供する「未来をはぐくむ研究所」は、資産運用の基礎知識に加え、投資が未来を創り、社会課題の解決に貢献していることなどを発信している。

 杉原社長は「運用会社は、お客さまの資産を増やすという『受託者の役割』と、投資を通じて企業価値向上と社会課題解決に貢献する『責任ある投資家の役割』の二つを担っている」と指摘。「投資家と企業をつなぐサイクルを循環させることで、『個人の豊かさ』と『社会の豊かさ』を実現することが使命だ」と話した。

 

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