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「投資信託の魅力」「積立投資の利点」を分かりやすく伝える-野村アセットの五月女氏に聞く

2023年07月28日 12時00分

(カメ柄でStep by step.のメッセージが入ったネクタイを締める五月女氏)(カメ柄でStep by step.のメッセージが入ったネクタイを締める五月女氏)

 若いうちからコツコツと投資を継続する重要性が高まっている。学生にどうやって投資に関心を持ってもらい、投資信託の魅力や、積立投資の利点を分かりやすく伝えるか-。野村アセットマネジメント資産運用研究所シニア・フェローの五月女季孝氏に話を聞いた。

◆社会人になればすぐにDCやNISAに直面

-投資教育の狙いは

五月女氏 「皆さんが社会人になったら、すぐに『投資』に関わることが必要になるので、今のうちから『投資信託』や『積立投資』の特徴を知っておくことが大切ですよ」というコンセプトで、全国の大学で投資教育を実施している。

 学生に投資のイメージを聞くと「ボーナスをもらって大きなお金が手に入ったら『株式』に投資してみる」とか、「外国為替証拠金取引(FX取引)をやってみる」と答える人が少なくない。

 一方で、「投資信託」は、名前は知っていても、その内容を十分に理解している人は少ない。また、社会人になったら、自分が「投資信託で積立投資をするようになる」と考えている学生は、ほとんどいない。

 しかし、実際には「確定拠出年金(DC)」を導入する企業が増加し、「つみたてNISA(少額投資非課税制度)」が広く普及し始めており、若い人ほど「投資信託」を使って「積立投資」をする可能性が高まっている。また、こうした制度を上手に利用しないと、将来に向けた資産形成が十分にできなくなってしまうことが懸念される。

 世の中の仕組みが大きく変わってきているので、大学生のうちに「投資信託」や「積立投資」を知っておく重要性が増している。

◆ライフプランを通して「自分ごと」にする

-どうやって投資に関心を持ってもらうか

(出所)野村アセットマネジメント(出所)野村アセットマネジメント(クリックで表示)


五月女氏 授業にはライフプランを取り入れ、学生が「自分ごと」として、「投資信託」や「積立投資」を学べるように工夫している。

 最初に「今、資産運用を考える時代の変化」として、「平均寿命が伸びていること」、「預金金利が低下していること」、「物の値段が上昇するインフレに転換したこと」などのファクトを確認し、投資の必要性について認識を共有してもらう。

 親世代までは、預金金利が高かったり、デフレだったりして、投資による資産形成を考えなくても、暮らせる時代が続いてきた。しかし、今の学生たちが社会に出るときには、経済環境が大きく変わっている。自分たちで投資について学ぶことが重要であることを、一緒に考えている。

◆投資の三つのコツ=バランス良く、じっくり、コツコツ

-投資についての説明は

五月女氏 投資に対して「損をするのが怖い」と考えている人が多い。その「怖さ」を払拭してもらうために、「長期・分散・積立」の考え方を「投資のコツ」として説明している。①バランスよく(分散投資) ②じっくり(長期投資) ③コツコツ(時間分散・積立投資)-の三つだ。

 「投資は、後で始めればいいだろう」と考えている人も、早く投資を始めれば月々の自分の負担が少なくて済むことをデータで説明すると、「早く始めない手はない」とうなずくことが多い。毎月2万円を40年間積み立てると約1000万円になるが、年率3%で複利運用できれば、40年後の資産額は約2000万円になる。

 「老後資産2000万円問題」が話題になったが、その解決も可能になるかもしれない。こうした数値は、学生たちが資産形成に興味を持つきっかけになっている。

◆積み立ての効果、「ウサギとカメ」のゲームで体感

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-積立投資の説明は

五月女氏 積立投資を体感できるゲーム「つみたてGO」を開発した。ウサギとカメが運用成果を競う内容だ。スマホでできるゲームなので、200人、300人といった学生が一斉に参加できる。授業の中で、リアルに株価を動かしながら、学生にはウサギになって「タイミングを見た投資」してもらい、「積立投資」するカメと競争する。

 実際にやってみると、積立投資をするカメにウサギはなかなか勝てない。安いタイミングで株式を買おうと思ってもなかなか難しいことが、ゲームで体感できる。このことは、投資信託の価格と設定額の推移をまとめたグラフからも読み取ることができる。投資というと「安いタイミングで買って、高いタイミングで売りながら、利益を積み上げていく」というイメージがあるが、投資に慣れた人でもなかなか安いタイミングで買えていないことが分かる。

 学生たちの感想を聞くと「積立投資はとても良い。タイミングを選ぶという労力やストレスが不要なうえ、毎月積み立てるだけで、それなりに安定したパフォーマンスになる可能性が高いことが分かった」などの答えが返ってくることが多い。このゲームは、積立投資の利点を分かりやすく理解してもらうためのキラーコンテンツになっている。

◆積立投資は「値下がり局面で笑っていられる投資手法」

-値下がり局面の心構えは

五月女氏 2008年のリーマン・ショックの時のように株価が大きく下落すれば「損をしてしまうだろう」と不安に思う人は多い。しかし、毎月積立投資をしている人は、こうした局面で、株式を相対的に安く購入できている。ドルコスト平均法の効果により、値下がり局面では、より多くの口数を購入できるので、その後の値上がり局面に備えられる。

 積立投資にとって、マーケットの下落は、必ずしもネガティブではない。将来に向けて運用を続けることができる若い人にとっては、一時的な下落局面がプラスの効果を生む可能性があるためだ。

 株価が下落したとき、「損をしている」というネガティブな気持ちになるのではなく、「安くなったタイミングでより多めに購入できている」というポジティブな気持ちになれると、積立投資は「値下がり局面で笑っていられる投資手法」になる。

 こうしたメカニズムを理解してもらい、マーケットが値下がりしてもそれほど怖くないことが分かると、学生たちの積立投資に対する意欲が高まる。

◆投資信託は「投資をしない三大理由」を解決してくれる仕組み

-投資信託の仕組みの紹介は

五月女氏 投資をしない理由をアンケートすると、「資金がない」「損をしたくない」「何を買っていいか分からない」が三大理由になっている。これに対して、投資信託はこの三つの理由を解決する仕組みを持っている。

 具体的には「まとまったお金がなくても少額から投資ができる」。また、「少額でも分散投資できるので、損失の発生を抑制してくれる」。さらに「投資対象はファンドマネジャーが選んでくれる」からだ。

 この話をすると、学生たちに「投資をしない理由が一気に解消されて、目からウロコが落ちたようだ」と驚かれる。「投資信託を利用すれば、投資に取り組みやすくなるかもしれない」と気付いてもらえる。

◆運用会社ならでは、ファンドマネジャーが直接対話

-運用業務の紹介は

五月女氏 投資信託を説明する授業では、当社のファンドマネジャーが授業に参加して、「どんな形で資産を運用しているか」を具体的に説明することもある。運用会社ならではの授業ということで、ファンドマネジャーが直接、学生らと対話し、質問を受けている。

 ファンドマネジャーの仕事について、モニターの前に座って株価を追いける仕事といったイメージを持っている学生も多いので、ファンドマネジャーが「企業のトップに会って経営方針を確認する」「工場見学等で企業の事業内容を把握する」といった日常業務を紹介すると、その違いに驚き、ファンドマネジャーという職業に興味を持つ学生も多い。

◆「自分ごと」としてDCの加入手続きを考えてもらう

-税制優遇制度の紹介は

五月女氏 授業では、企業型DCや個人型確定拠出年金(iDeCo)、NISAといった、資産形成のための税制優遇制度について、一覧業にまとめて説明している。

 企業型DCは多くの企業が導入しており、新入社員は入社後すぐに手続きをして、掛け金を運用するファンドを自分自身で選択することが求められる。主な導入企業の一覧を見せると、学生たちは身近な企業に広く普及していることに気付き、「入社と同時に何十年をかけて退職金の一部を自分が選んだ投資信託で運用していくのだから、投資信託や積立投資のことを知らないと、困るのは自分自身だ」と、DCの加入手続きを「自分ごと」として考えてくれるようになる。

◆シミュレ―ション・ツールやYouTube動画を提供

―デジタルコンテンツの活用は

五月女氏 座学だけでなく、実際に手を動かしてもらうことで理解が深まる。授業では、当研究所が開発したシミュレーション・ツールにスマホでアクセスしてもらい、資金計画を一緒に立てている。一度体験してもらうことで、授業の終わった後に必要に応じて自分で操作できるようになる。

 当社は昨年10月、QuizKnock(クイズノック)と提携し、投資教育プログラム「お金を育てるゼミナール」を開始した。YouTube動画を共同で作成して配信するなどして、授業で話した内容や、紹介しきれなかった内容を、東大クイズ王の伊沢拓司氏も含めたQuizKnockメンバーと一緒に学べる。授業終了後に復習を兼ねてYouTube動画を視聴している学生も少なくないようだ。

◆延べ46万人以上に金融経済教育を提供

(出所)野村ホールディングス(出所)野村ホールディングス(クリックで表示)


-野村グループの投資教育の取り組みは

五月女氏 野村グループでは1990年代後半から、金融経済教育を実施してきた。大学については2001年以降、延べ約2300校で28.6万人以上に提供してきた。小中高校と教員向けを合わせると46万人以上になる。岸田政権が資産所得倍増プランを打ち出すなど、国家戦略として投資を促進する流れが強まるなかで、取り組みを加速している。

 

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