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新NISAで変わる投信ビジネス=残高増大のステージへ-日興アセット・汐見氏

2023年05月24日 15時00分

汐見拓哉共同部長

 少額投資非課税制度(NISA)は来年1月、制度が恒久化され、非課税投資枠が大幅に拡充される。日本の投信ビジネスに大きな変化をもたらしそうだ。

 NISAの手本になった英国のISAは、恒久化が弾みになって10年後に残高が3倍に拡大した。汐見氏は「岸田政権が推進する資産所得倍増プランは、NISAの買付額について『5年で2倍の56兆円』を目標としているが、これは『ただの通過点』になるかもしれない」と指摘、さらなる拡大を予想した。

 ただ、NISAの利用が進まないケースも考えられる。例えば、現行の「一般NISA」について非課税枠の利用状況を見ると、消化率は2割程度にとどまり、十分に利用されていない。また、市況が低迷する局面になれば、投資して資産が増えたという「成功体験」を積むことが難しくなり、新たに投資を始める人が慎重になるかもしれない。

 汐見氏は、こうした場合でも「金融業界を挙げて、国民に『投資への理解』を深めてもらい、『投資の成功体験』を積み上げてもらうことで、長い時間をかけてNISA制度の浸透を図ることが重要だ」と指摘した。

 汐見氏は、「制度のポイント」と「投信ビジネスの変化」について、仮説も交えて分析した。主な論点は以下の通り。

■制度のポイント①■ 現行NISAと新NISAは「分離運営」される

 現行NISAと新NISAは分離運営されるため、両制度間で投資資産をロールオーバーできない。現行の一般NISAで非課税期間が終了したファンドは、いったん課税口座に移管される。新NISAで運用を継続したい人は、新たにファンド選択して購入することが必要になる。

 また、非課税投資枠は、新旧制度で別々に管理される。例えば、現行の「つみたてNISA」の非課税枠は年間40万円、「一般NISA」は年間120万円だが、これは来年以降、「新NISA」の生涯投資枠(総額1800万円)から、差し引かれない。

■制度のポイント②■ 新NISAの投資枠は平均的な家計資産を上回る⇒「マス層だけでなく、アッパー層も利用」

 金融広報中央委員会の2022年の調査によると、二人以上世帯の金融資産保有額は平均で1291万円、中央値で400万円だ。一方、新NISAで非課税運用できる生涯投資枠を、夫婦で合算すると3600万円になる。「新NISAの投資枠だけで、お客さまに提供する『投信ビジネス』のかなりの部分が完結する可能性がある」(汐見氏)。

 英国のISAでは、所得が高くなるほど利用額は増加し、高所得者では1口座当たりの非課税投資額が1000万円を超えている。日本の新NISAは「マス層(平均的な所得者)だけでなく、アッパー層(富裕層)にも訴求できる可能性を持っている」(汐見氏)。

■制度のポイント③■ 「つみたて投資枠」「成長投資枠」の併用が可能⇒「シニア世代が『つみたて投資枠』まで使う」

 現行制度は「つみたてNISA」と「一般NISA」のどちらかを選択する制度だ。40歳代以下の投資家は「つみたてNISA」を、50歳代以上の投資家は「一般NISA」を、それぞれより多く利用している。

 新NISAは「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の併用が可能になる。今さら積み立て投資を始めるつもりはないというシニア世代でも、「つみたて投資枠」は毎月の積み立て投資が求められているわけではなく、その頻度は年2回まで伸長できる。「生涯投資枠を1800万円に最大化するため、シニア層も『つみたて投資枠』を利用する可能性がある」(汐見氏)

■投信ビジネスの変化①■ 一般NISAの満期金が5年間で12兆円⇒「ロールオーバー先のない資金が行き場を探す」

 現行の一般NISAは、今年分の投資枠が満期を迎える5年後の2027年末で終了する。新NISAと分離運営されるため、満期を迎えた資金は、新NISAにロールオーバーされない。一定の条件で試算したところ、今後5年間で合計12兆円あまりが、いわゆる“NISA満期金”として世に出てくる。「これらのお金は、もともと非課税運用のニーズがあるので、新NISAで新たにファンドを購入して運用を継続する可能性が高い。金融機関の提案が重要になる」(汐見氏)。

■投信ビジネスの変化②■ NISAのビジネスは「季節性」を帯びる

 英国は税の年度末が4月5日だ。ISA経由の資金流出入を月次でみると、4月を中心にISAのビジネスが集中する傾向が見られる。英国の金融機関は4月に向けて「未使用枠の状況」を顧客に報告し、利用を呼び掛ける。また、4月からは「新しい枠の設定」を周知し、利用を促している。

 日本は、税制上の年度末は12月末で、1月から新年度がスタートする。このため、日本においては、1月を中心に新NISAのビジネスが集中する可能性がある。また、4年目以降、生涯投資枠(1800万円)を使い切る人が現れると、12月に一部ファンドを解約して新年度の投資枠を復活させる人が出る可能性もある。

■投信ビジネスの変化③■ 長期保有型のビジネスに移行⇒「販売手数料より信託報酬を重視」

 今後金融庁は、監督指針を改正するなどして、成長投資枠でのファンドの短期売買を監視していくと思う。また、日本の投資家はこれまで、株価が下がったら買い、株価が上昇したら売る「逆張り」の投資行動を行ってきた。しかし2021年以降は、株価が上昇しても売らない投資家が増えており、投信の平均保有期間が長期化している。金融機関は、投信の販売手数料よりも、信託報酬を重視する傾向を強めそうだ。

■投信ビジネスの変化④■ 「つみたてNISA」適格ファンドの万能感が増す

 新NISAの「つみたて投資枠」は、現行の「つみたてNISA」の適格ファンドを使って投資する。「成長投資枠」については、新たに設ける「成長投資枠」適格ファンドと「つみたてNISA」適格ファンドの両方から選択して投資できる。このため「つみたてNISA」適格ファンドの万能感が増す可能性がある。

■投信ビジネスの変化⑤■ 成長投資枠の役割が増す⇒「資産活用の器」に

 新NISAの「つみたて投資枠」は資産を増やすための器だ。一方「成長投資枠」は、資産を増やすためだけでなく、「資産形成の目的を達成したお金」や「取り崩しながら使うお金」を入れておく「資産活用の器」になる。2年後には、金融資産を多く保有する団塊世代が75歳以上になることから、「資産成長枠」の役割も増していくだろう。「ローリスクのラップ風バランスファンド」や「取り崩し機能の付いた分配型ファンド」が必要になるだろう。

■投信ビジネスの変化⑥■ 「分配型」の役割は終わらない⇒解約抑制や長期保有につながる

 (生涯投資枠を使い切った)投資家は、保有するファンドの基準価額が年末にかけて値上がりしていれば、翌年の枠の復活に向けて解約したくなると思う。しかし、ファンドが運用益等を分配することで、ファンドの解約抑制や長期保有につながる可能性がある。

■投信ビジネスの変化⑦■ 公的年金のブリッジファンドに⇒「隔月分配型」ファンドが存在感を増す

 新NISAでは「毎月分配型」ファンドに投資できない。ただ、年6回以下の分配型ファンドであれば、「成長投資枠」の適格ファンドになる可能性がある。公的年金の支給開始年齢は65歳だが、支給開始年齢を遅らせると、将来受け取る年金額が増額される。1カ月遅らせるごとに0.7%増えるので、年間で8.4%、10年間で84%増える。例えば、疑似的な年金運用を行う隔月分配型ファンドを新NISAで非課税保有することは、公的年金を受け取るまでの収入を確保する「ブリッジファンド」になると考えられる。

 

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