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「顧客本位の業務運営」、2度目の見直し=一部原則のルール化など柱-日本資産運用基盤Gの長澤氏

2023年04月19日 09時00分

長澤敏夫氏

 お客さまの最善の利益を追求することなど、金融機関の責務をまとめた「顧客本位の業務運営に関する原則」は、策定から6年が経過した。2度目の見直しを反映した動きが本格化しており、一部の原則のルール化や金融経済教育推進機構の設置などを盛り込んだ法案が国会に提出されている。日本資産運用基盤グループは勉強会を開き、金融庁の元主任統括検査官で同グループ主任研究員の長澤敏夫氏が、「顧客本位の業務運営に関する原則」の考え方や、策定の経緯、最新動向を解説した。

◆お客さまの最善の利益を追求

―「顧客本位の業務運営に関する原則」とは。

長澤氏 国民の安定的な資産形成を支えるため、金融機関が負うべき役割・責任の総称だ。金融商品の販売、助言、商品開発、資産管理、運用等を行う全ての金融機関が対象になる。金融担当相の諮問機関である金融審議会に提出された報告書に基づき、2017年3月に策定された。

 具体的には、「顧客の最善の利益の追求」を筆頭に「利益相反の適切な管理」「手数料等の明確化」「重要な情報の分かりやすい提供」「顧客にふさわしいサービスの提供」など七つの原則で構成されている。

 運用に当たっては、従来型のルールベースではなく、原則(プリンシプル)を踏まえて金融機関が自ら考え、より良いサービスを競い合うプリンシプルベースのアプローチが採用された。金融庁は、金融機関をモニタリングし、問題点を指摘して改善を求めることで、ベストプラクティス(最良慣行)を実現しようとしている。

 さらに、こうした取り組みを重要評価指標(KPI)によって「見える化」することで、より良いサービスを提供する金融機関を、顧客が選択する社会の実現を目指している。

◆お客さまと中長期の関係を構築するために

-同原則が策定された背景は。

長澤氏 同原則の策定以前を振り返ると、例えば投資信託では、お客さまの平均保有期間が短期化していて、投信の購入と売却を繰り返させて金融機関の受け取る販売手数料(コミッション)を増やす「回転売買」が行われている可能性があった。また、販売手数料が3%を超えるようなリスクの高いファンドが、売れ筋ファンドになっており、お客さまが手数料に見合った収益を上げているか、疑問視される状況もあった。

 当時の金融庁長官は「こうしたビジネスを続けていて、お客さまと金融機関が中長期的な関係を続けられるのか」といった問題提起を行い、「金融機関と顧客が『Win-Win(勝ち-勝ち)』となるような取り組みを目指す」ための検討が行われた。その成果として「顧客本位の業務運営に関する原則」が策定された。

◆ライフプラン、フォローアップ、重要情報シート

-最初の見直しは。

長澤氏 2021年1月に最初の見直しが行われ、金融機関のサービスに「顧客のライフプラン等を踏まえた業界横断的な商品の提案」と「商品提供後の適切なフォローアップの実施」が追加された。金融機関のビジネスモデルを、販売手数料(コミッション)に頼らず、預かり資産残高に応じて得られる管理報酬(フィー)を収入源とする姿に転換するには、こうしたサービスが重要になるためだ。

 このほか、金融商品を比較しやすくするため、リスクや手数料などの情報を金融機関や商品ごとに工夫してまとめた「重要情報シート」の導入が提言された。一方、不適切な販売事例の抑制については、原則のルール化は見送られ、監督指針の改定にとどめた。

◆三つのルール化、国会に法案提出

-2度目の見直しを反映した動きは。

長澤氏 昨年9月に「顧客本位タスクフォース」が設置された。仕組債など顧客ニーズに適さない商品の組成や販売が行われていることについて懸念が表明され、一部の原則のルール化を視野に議論が行われた。昨年12月に公表された中間報告では、三つのルール化が提言され、今年3月14日に「金融商品取引法等の一部を改正する法律案」として国会に提出された。 

 具体的には、企業年金を含む金融事業者に対して「顧客に対して誠実・公正に業務を行い、顧客の最善の利益を図ること」を義務化する。また、顧客属性に応じた説明義務を法定化し、デジタル技術を活用した情報提供について規定を整備する。さらに、国民の金融リテラシーの向上をめざし、新たに「金融経済教育推進機構」を設置する。同機構は、資産形成に関する相談や助言を容易に受けられる環境を整備する。

◆「資産所得倍増プラン」の3本柱のひとつに

-「資産所得倍増プラン」で「原則」の位置づけは。

長澤氏 昨年11月、岸田文雄政権は「資産所得倍増プラン」を決定した。同プランを推進する3本柱の一つとして「少額投資非課税制度(NISA)の抜本拡充」「金融教育の普及」とともに「顧客本位の業務運営」が取り上げられている。

-金融庁の「原則」に対する問題意識や対応を知るには。

長澤氏 金融庁の同原則に関する活動や課題分析は、年次報告書として発表される。さらに、今後の論点や対応をまとめた「金融行政方針」に反映されている。

 例えば昨年は、5月に「資産運用業高度化プログレスレポート2022」が、6月に「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果」がそれぞれまとめられた。さらに、8月に「2022事務年度金融行政方針」が公表された。こうした資料に目を通すことで、金融行政の動向を知ることができるだろう。


<参考資料>
■金融庁 顧客本位の業務運営に関する情報
https://www.fsa.go.jp/policy/kokyakuhoni/kokyakuhoni.html

■金融庁 「資産運用業高度化プログレスレポート2022」の公表について=令和4年5月27日=
https://www.fsa.go.jp/news/r3/sonota/20220527/20220527.html

■金融庁 投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果(令和3年事業年度)=令和4年6月30日=
https://www.fsa.go.jp/news/r3/kokyakuhoni/202206/fd_202206.html

■金融庁 2022事務年度金融行政方針=令和4年8月31日=
https://www.fsa.go.jp/news/r4/20220831/20220831.html

■金融庁 金融審議会 市場制度ワーキング・グループ「顧客本位タスクフォース」中間報告の公表について=令和4年12月9日=
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20221209.html

■金融庁 国会提出法案 金融商品取引法等の一部を改正する法律案=令和5年3月14日提出=
https://www.fsa.go.jp/common/diet/index.html

■内閣官房 第三回資産所得倍増分科会配布資料=令和4年11月25日=
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/bunkakai/sisanshotoku_dai3/index.html

 

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