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日本経済のSXを推進=投資の力で未来をはぐくむ-AM-Oneの鷹羽氏らに聞く

2022年10月31日 11時00分

 大手運用会社のアセットマネジメントOneは、サステナビリティ(持続可能性)を重視した経営へ変革する「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」を推進している。運用会社は、投資家と企業を結び付けて「資金の流れ」を生み出す役割を担っていることから、「投資の力で未来をはぐくむ」をコーポレート・メッセージに掲げ、自社のSXのみならず、日本経済のSXを後押しする考えだ。

鷹羽氏鷹羽氏

 資産運用にSXを浸透させるサステナブル・インベストメント・オフィサー(SIO)に就任した鷹羽美奈子氏と、気候変動分野の専門家として情報発信するシニア・サステナビリティ・サイエンティストに就任した田中加奈子氏に話を聞いた。

◆「企業の稼ぐ力」と「ESG」を両立

-SXとは。

鷹羽氏 企業と取り巻く事業環境は刻々と変化している。規制のあり方、消費者の嗜好(しこう)、株主の考え方、従業員の求めるものなど、どんどん変わっていく。こうした中で、ステイクホルダーが企業に求めているものは、持続可能性だ。

 SXとは、企業が持続可能性を重視するとともに、「企業の稼ぐ力」と「ESG(環境・社会・ガバナンス)の取り組み」との両立を図り、経営の在り方や、投資家との対話の在り方を抜本的に変革する戦略だ。

-AM-Oneの取り組みは。

SXロードマップSXロードマップ


鷹羽氏 当社は、運用会社として、投資先企業に対してエンゲージメント(建設的な対話)を実施し、「女性取締役を増やしてください」「環境対策を推進してください」といったことを要請してきた。

 一方で「当社自身はどうなのか」という視点に立って、アセットマネジメントOneの社会的存在意義を議論し、2021年1月にコーポレート・メッセージの「投資の力で未来をはぐくむ」を策定した。さらに、社長直下に全本部を横断する「サステナビリティ経営体制構築プロジェクト」を立ち上げて、マテリアリティ(重要課題)・マップを策定した。

◆九つの社会的課題と三つの重点エリア

-マテリアリティ・マップとは。

コア・マテリアリティとフォーカスエリアコア・マテリアリティとフォーカスエリア


鷹羽氏 当社のマテリアリティ・マップは、「投資の力で未来をはぐくむ」ための羅針盤となるものだ。社内で議論を重ね、社会にとっての重要度「サステナブル・マテリアリティ」と、経済的な影響の大きさを示す「ファイナンシャル・マテリアリティ」の二つを縦軸と横軸に置いたダブル・マテリアリティに立って、「未来をはぐくむ」うえで障害となっているグローバルな環境・社会の課題を特定した。

 具体的には「気候変動」「生物多様性」「水資源」「サーキュラーエコノミ―(循環型社会)」「大気・水質・土壌汚染」「持続可能なフードシステム(食料供給)」「ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包括・受容)」「ビジネスと人権」「健康とウェルビーイング(幸福)」を九つのコア・マテリアリティとした。さらに、日本における重要課題として、「地方創生」と「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」の二つを抽出した。

 これらのコア・マテリアリティの分析を通して、「気候変動」「生物多様性と環境破壊」「人権と健康・ウェルビーイング」の三つをフォーカスエリアに選んだ。投資先企業とエンゲージメントの重点テーマにしたり、新たな商品を開発に役立てたりしている。

◆投資家と企業をつなぐ、資金の流れを作る

-運用会社の使命は。

鷹羽氏 運用会社は、投資家と企業をつなぐ「資金の流れ」であるインベストメント・チェーンの真ん中に立っている。投資家のみなさんがどういう未来を創っていきたいかを把握しつつ、社会・環境上の課題や要請を織り込んだ「資金の流れ」を作っていくことが、私たちの使命だ。

 当社の対応の一つは、企業調査にESGを取り入れ、ファンドの運用ポートフォリオに反映させる「ESGインテグレーション(統合)」を実行することだ。当社は、さきほど紹介したマテリアリティ・マップを織り込んだ、独自のESGスコアやESGレーティング(格付け)を実施している。

 また、投資家と企業を「資金の流れ」で結び付けるため、「未来をはぐくむ」ことに適したファンドや運用戦略を、投資家に提供していきたい。さらに、投資した資金によって社会がどれだけ良くなったかについて、投資家のみなさんに分かりやすく伝えられるように工夫していく。

 二つ目は、より多くの機関投資家や個人投資家に、サステナブルな投資に参加してもらうように働きかけていく。例えば、機関投資家にアンケートを実施し、ESGにどのようなプリファレンス(選好)があるか、調査している。当社はSXを推進しているので、機関投資家や金融機関に商品を説明する営業担当の社員も、サステナビリティに高い関心を持っており、積極的に展開している点が強みだ。

◆気候変動対応は、企業の成長チャンス

-気候変動対応のポイントは。

田中氏田中氏


田中氏 脱炭素社会を構築するには、たゆまぬ技術開発と、イノベーション(技術革新)が不可欠であり、社会に実装するためのインフラの整備が必要になる。企業の視点で見ると、技術開発と社会実装の二つの段階で、成長の機会があると思う。

 サステナビリティはこれまで、社会のプレッシャーからの企業の目標、あるいは、企業を評価する基準として用いられてきた。しかし、これからは「サステナビリティを目指すこと自体が、企業にとって成長のチャンスである」という認識が当たり前になるように、社会全体のパラダイム(物の見方)を転換していくことが必要だと思っている。

-運用会社の役割は。

田中氏 企業がサステナビリティを高めるには、企業の将来像や未来社会での位置付けを定めたうえで、そこに向けたステップを積み重ねるために「投資」が重要な役割を果たす。脱炭素対応以外にも、高齢化による就業構造の変化や人工知能(AI)の進展など、さまざまな環境変化が企業を取り巻いている。企業がそれら多様な変化をチャンスととらえて、どう動けるかがポイントになる。

ただ、具体的に何がビジネスチャンスなのか、はっきり見えていないとなかなか動けない。特に中小企業ではそうだろう。このため、チャンスを可視化することが重要だ。運用会社は、企業がチャンスを発見する手助けをしながら、二人三脚で未来社会を築いていくことができると思う。

◆GX(グリーン・トランスフォーメーション)

-注目分野は。

田中氏 国の経済戦略でも「投資」が注目されている。政府は、温室効果ガス排出量削減を経済成長につなげる「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」を推進している。経済発展と脱炭素の好循環を目指すということで、方向性の良い取り組みだ。

エネルギー関連産業のほか、輸送・製造関連や家庭・オフィス関連など、成長が期待される14分野を示し、政策措置で技術開発等を底上げして、企業にチャンスを生かしてもらおうとしている。さらに、金融を巻き込んで、お金の流れを作り、社会の実装フェーズでも後押ししていく。社会全体で、脱炭素対応をビジネスチャンスと捉えて活動していくことは、まさにパラダイム転換なのだと思う。

◆国内外で情報発信

-グローバルな運用会社の連携は。

田中氏 当社は2020年12月、グローバルな資産運用会社のイニシアチブ「Net Zero Asset Managers initiative」に、発足時のメンバーとしてアジアから唯一参加した。当社は30社だった加盟運用会社は、現在は273社(2022年5月末時点)に増え、運用資産額の合計は約61兆ドル(約6700兆円、2022年5月末時点)にまで拡大している。

 このイニシアチブで各社は、2050年までに温室効果ガス排出量をネットゼロにする共通の目標を掲げている。さらに各社で2030年までの中間目標を設定しており、当社は運用資産の53%を、ネットゼロのシナリオに沿った資産にするため、投資先企業に働きかけを続けている。

-今後の方針は。

田中氏 国内外のイニシアチブや政府の検討会等に参加し、情報発信していきたい。これまでは研究者として、研究成果を社会に発信してきた。今後は、運用会社の中で、研究成果を実行することに関わり、「投資の力で未来をはぐくむ」ことに貢献していきたい。

 

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