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インデックス・ファンド、運用の工夫を競う=コスト下げ、連動性を高める-三菱UFJ国際投信・野尻氏

2022年03月24日 09時00分

三菱UFJ国際投信の野尻広明デジタル・マーケティング部シニアマネジャー

 株式や債券等の指数に連動した運用成果を目指すインデックス・ファンドを使って、資産形成をスタートする人が増えている。低コストで、世界の資産に分散投資するために、運用会社はどのような工夫をしているか-。国内最大のインデックス・ファンド・シリーズ「eMAXIS Slim」を運用する三菱UFJ国際投信の野尻広明デジタル・マーケティング部シニアマネジャーに話を聞いた。

◆2兆円を突破

-「eMAXIS Slim」の現状は。

 野尻氏 「eMAXIS Slim」は、「業界最低水準の運用コストを将来にわたって目指し続ける」ことをコンセプトに掲げる、ノーロード(購入手数料が無料)のインデックス・ファンド・シリーズだ。国内外の株式や債券、不動産投信(リート)などの主要な指数に連動することを目指す13本のファンドで構成されている。

『eMAXIS Slim(イーマクシス スリム)』シリーズ合計の資金流入と純資産総額の推移『eMAXIS Slim(イーマクシス スリム)』シリーズ合計の資金流入と純資産総額の推移(クリックで表示)

 2017年の設定以来、順調に残高を積み上げ、昨年12月にはシリーズの純資産総額の合計額が2兆円を突破した。月間の資金純流入額(「設定額」から「解約額」を引いたもの)を見ると、昨年12月に過去最大を記録するなど、勢いが加速している。今年に入って各国の株式指数が値下がりし、マーケットは調整局面に入っているが、それでも前年同月を上回る純流入が続いている。

-人気の理由は。

 野尻氏 非課税で積み立て投資ができる「つみたてNISA(少額投資非課税制度)」の口座数が増加する中で、「シンプルで分かりやすい」「低コストで長く続けやすい」「少額の資金でも幅広い銘柄に分散投資できる」 といった特長を持つインデックス・ファンドが、評価されているようだ。また、新型コロナウィルスの感染拡大で在宅時間が増え、将来について考える時間の中で、資産形成を始める人が増加したことも、一つの要因になったと考えている。

「eMAXIS Slim」シリーズの一覧「eMAXIS Slim」シリーズの一覧(クリックで表示)

 このファンドシリーズは「受益者還元型信託報酬率」を採用している。例えば「純資産総額500億円以上」などの基準を設けて、それを超えた部分について、より低い信託報酬を適用する仕組みだ。資産規模が拡大すると運用効率が高まりコストが低下することから、そのメリットを投資家に還元している。純資産拡大がファンドの魅力を高め、さらに資金を呼び込むという好循環が生まれている。

-シリーズの中で人気のファンドは。

 野尻氏 純資産総額が一番大きいファンドは、米国株指数に連動する成果を目指す「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」だ。今年2月には国内のインデックス・ファンドで初めて、純資産総額が1兆円を突破した。ここ数年、各国の株価が順調にパフオーマンスを上げてきたが、特にアップルやマイクロソフトなど米国の大手IT企業が組み入れられたS&P500種指数は、注目されている。

 2番目は、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」だ。「どの国がより成長していくか、将来を見通すことは難しいので、幅広い国々の株式に分散投資をしたい」と考えて、このファンドを選ぶ人も多い。「日本を含む世界株に投資する商品を追加してほしい」というお客さまの声に応えて、18年10月に設定したファンドだ。


◆連動性を高める

-運用の工夫は。

連動性を高めるためには?連動性を高めるためには?(クリックで表示)

 野尻氏 インデックス・ファンドの運用目標は、指数と同じ値動きをするように「連動性を高めること」だ。ただ、実際のファンドの運用では、世界のさまざま市場にアプローチし、株式等を売買して約定価格を決めたり、手数料や税金を納めたりするので、こうした運用上の制約にうまく対応することが不可欠だ。「トラッキングエラー」と呼ばれる指数からの乖離(かいり)幅を最小限にするために、ファンドマネジャーは、主に(1)指数に近いポートフォリオを作る(2)コストを下げる-という二つの側面から、さまざまな工夫を凝らしている。

-ポートフォリオ作りでは。

 野尻氏 ポートフォリオ構築にあたっては、指数と同じ銘柄を同じウエイトでそろえることが理想だが、資金額が制約となるため、それは難しい。指数との連動性を見ながら一部の銘柄を多く保有したり、先物を活用したりして、指数との乖離を小さくする。ただ、先物を利用するにしても、先物はそれぞれの需給で価格形成されることがあり、その値動きが指数と一致しなければ、連動性を低下させてしまう。どのタイミングで何を購入するのか-。ポートフォリオの運用は、ファンドマネジャーの腕の見せどころだ。

-コストの引き下げでは。

 野尻氏 指数は、信託報酬や株式等の売買手数料を計算していないので、実際の運用との連動性を高めるには、こうしたコストを引き下げることが重要だ。

 「eMAXIS Slim」は、業界最低水準の運用コストをめざす一環として、過去、複数のファンドにて何度も信託報酬の引き下げを実施してきた。ファンドの投資資産の売買コストについては、複数の会社に注文を出して、コストの最も安い会社に発注している。また、為替のようにオファー・ビット(売値・買値)にコストが織り込まれているものについても、有利な条件を提示する会社を探す。さらに、保有株式を証券会社等にレンディング(貸株)することで、貸借料を獲得し、コストの埋め合わせに充てている。

 こうした対応は、いずれも運用規模が大きいほど交渉力が高まり、お客さまにメリットをより享受していただきやすくなる。純資産額の大きいファンドには、アドバンテッジ(強み)がある。


◆トータルリターン

-ファンドの評価する際のポイントは。

 野尻氏 トータルリターンを比較してもらうのが適当だろう。トータルリターンとは、基準価額の評価損益(キャピタルゲイン・ロス)と分配金(インカムゲイン)等を合算した総収益率のことだ。「eMAXIS Slim」の月次レポートでは、1ページ目の中段に「騰落率」として、ファンドとベンチマーク(指数)の騰落率を上下に並べて記載している。「過去1カ月~設定来」を示しているので、指数との乖離の度合いや、ファンドのリターンの実績値を知ることができる。

「eMAXIS Slim」の月次レポート「eMAXIS Slim」の月次レポート(クリックで表示)

 また、ファンドのコストを比較するときは、信託報酬を比べるだけでは不十分だ。目論見書等の法定書類作成費用等を「信託報酬」に含めるファンドと「その他費用」に計上するファンドなど、基準が統一されていない可能性があるためだ。運用報告書には「総経費率」が掲載されているが、これについても、例えば上場投信(ETF)や外国籍投信に投資しているファンドでは投資先ファンドのコストについて一部反映されていない可能性等もある。

 ただ、トータルリターンは、全てのコストを織り込んで算出されている。このため、各ファンドを比較するときには、「トータルリターンと指数がどれだけ連動しているか」を見るのが適当だろう。

-今後の展開は。

 野尻氏 「eMAXIS Slim」は、投資をスタートする際のファンドとして、多くの人に選ばれている。投資に慣れていないと、株価が急落したときには不安にもなるだろう。こうした人が、それぞれのゴールに向けて、安心して積み立て投資を継続できるように、当社は「伴走者」として寄り添いながら、情報発信やアフターフォローを続けていきたいと考えている。また、まだ投資を始めていない人も多いと思うので、投資家の裾野の拡大にも取り組んでいきたい。

 「eMAXIS」の仲間には、「ロボット」「宇宙開発」などをテーマにした、高い成長性が期待される指数に連動する運用成果を目指す「eMAXIS Neo」シリーズがある。ほかにも、「eMAXIS 最適化バランス」シリーズは、株式や債券等の指数を組み合わせて、リスク水準の異なる複数のファンドを設定しており、お客さまのリスク許容度に合わせてファンドを選択してもらえる。その際、ロボットアドバイザーの「ポートスター」を利用すれば、投資家それぞれのリスク許容度に合ったファンドが提示される。さらに、定年退職などの目標年次に向けてポートフォリオに占める株式の割合を減らし、債券を増やす運用を行うターゲット・イヤー・ファンドの「eMAXIS マイマネージャー」シリーズも用意している。「eMAXIS Slim」以外にも幅広い商品をラインアップしており、こうした商品にも目を向けていただけると嬉しい。

-年初からの株価急変で投資家は。

 野尻氏 「相場が下落したから投資をやめたい」といった声は、あまり聞かれない。逆に、コールセンターには「投資を始めたい」といったお問い合わせもある。

 ただ、インターネット交流サイト(SNS)の投稿には「相場が下がって不安です」といった声もあるので、例えば、当社のLINEにお友達登録してもらっているお客さまには、当社から直接、情報発信するなど、アフターフォローに努めている。

 かつては、一括投資するお客さまが多く、相場が崩れると不安がるお客さまが多かった。今は、積み立て投資をするお客さまも増え、相場が下落すると「相対的に割安なタイミングで口数を多く購入できるチャンスだ」と冷静に受け止める方も多い。マーケットが急落すると、販売会社は「今後の投資環境」等をお客さまにご説明しているが、最近はこれに加えて、SNSで投資家同士が情報交換して、納得されることも多いようだ。時代の変化を感じる。

 

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