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〔財金レーダー〕くすぶる緩和縮小論=FRB火消しに躍起

2021年01月21日 14時21分

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 年明けから市場で飛び交った米連邦準備制度理事会(FRB)による2021年中の「金融緩和縮小」説について、パウエル議長は1月15日、「(政策の)出口を話す段階にない」と否定して火消しに走った。市場は、新型コロナウイルスの感染が世界的に再拡大する下では順当な判断と受け止めたが、経済の回復ペースによっては年内に緩和を縮小する可能性が依然残っているとの観測もくすぶり続けている。

 ◇2013年の悪夢を回避

 早期の緩和縮小論に火を付けたのは米アトランタ連邦準備銀行のボスティック総裁だった。年初のロイター通信のインタビューで、FRBの量的緩和策に関し、「かなり迅速に(資産買い入れペースの)調整を始めることを期待している」と発言した。

 その後、ダラス連邦準備銀行のカプラン総裁が「購入縮小を始める適切な時期をめぐる議論を年内に始めるべきだ」と続いた。米フィラデルフィア連邦準備銀行のハーカー総裁も、資産買い入れペースの減速について「21年のかなり末か22年初め」と具体的時期に言及し、市場のさらなる臆測を呼んだ経緯がある。

 パウエル議長はそれらの発言を一蹴する形で、現行の量的緩和政策と超低金利政策を長期間維持すると明言した。土井一人ウエスタン・アセット・マネジメント投資運用部長は「(過去に市場を混乱させた)テーパー・タントラムを回避したい気持ちの表れだろう」と分析する。FRBには13年のバーナンキ元議長による緩和縮小の示唆で、株価が急落して実質金利が1.5%以上も上昇する市場の混乱をもたらした苦い経験がある。

 パウエル議長の火消しで市場は再び量的緩和の長期化を織り込む一方、「コロナワクチンが普及する4~6月ごろに早期縮小の議論が再燃する可能性がある」(足立正道UBS証券チーフエコノミスト)といった指摘もある。足元では資産価格の上昇も見られ、インフレ率上昇や経済の急回復を受け、再び委員の誰かが口火を切るとみている。市場が予想する期待インフレ率を示す10年物ブレークイーブン・レートは、4日に一時2.01%に上昇し、18年以来の水準となった。

 FRB高官の発言のばらつきは、経済の先行きや緩和縮小を判断する指標の設定で見解が分かれていることを反映している。緩和縮小の議論はいったん後退したものの、藤木智久シティグループ証券G10金利ストラテジストは今回の騒動について、「流動性、金利の現水準でFRB内に警戒感が出てきているのではないかと市場に意識させた」として、緩和縮小に備えた市場の動きも徐々に出始めると見込む。

 ◇長期金利は底堅く推移

 昨年はコロナ禍で0%台で推移した米国の長期金利は、5日実施の南部ジョージア州の米議会上院選決選投票で、民主党が2議席とも確保したことを契機に1%を超えた。年内はバイデン新政権の財政拡大路線に伴って徐々に上昇し、1%台半ばになるとの予想が大勢だ。

 米長期金利上昇でドル円も年初の1ドル=102円台から、足元では103円~104円台で推移している。昨年来の円高傾向を懸念していた日本にとり、いったん危機が去った格好だ。

 バイデン新大統領が財務長官に指名したイエレン前FRB議長は、19日の承認公聴会でバイデン氏が提案した約1兆9000億ドル(約200兆円)に上る大型経済対策の早期成立が重要との姿勢を示し、政府の借金拡大による財政支援のメリットは「長期的に債務負担をはるかに上回る」と訴えた。

 新たな財源調達手段として表明した50年債の発行は、「イールドカーブのスティープ化要因ではあるものの、FRBが重視する10年国債金利の上昇速度を加速させることはない」(土井氏)との見方が強い。市場はバイデン氏の提案した大型経済対策が議会の反対で1兆ドル前後に大きく下振れするとみており、新政権の経済財政政策の行方に神経をとがらせている。(経済部・戸田亜澄)(了)

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