知っておきたい「為替」「債券・金利」「海外経済統計」-バークレイズ証券
2025年06月11日 08時00分

バークレイズ証券は、新任記者向けに「為替」「債券・金利」「海外経済統計」について勉強会を開催した。為替債券調査部長の門田真一郎氏と、為替ストラテジストのラムスレン・シャラブデムベレル氏が解説した。主なポイントは以下の通り。
◆為替市場
-為替市場の基礎は
門田氏 国際決済銀行(BIS)の統計によると、世界の為替市場の取引量は7.5兆ドル程度(2022年)と、株式や債券の市場規模を大きく上回っている。通貨別にシェアを見ると、米ドルが44%、ユーロが16%、日本円が8%と、主要先進国の通貨の取引量が多いが、中国経済の拡大にともない人民元のシェアが伸びている。
-為替市場の分析方法は
門田氏 トップダウン分析とボトムアップ分析を組み合わせて行っている。
トップダウン分析では、グローバルなテーマを考え、それが各通貨にどのような影響を与えるかを調べている。
その際、通貨をグループ分けすると分かりやすい。「安全通貨」「資源国」「製造業」「高金利」などのテーマで分類している。例えば、米ドル、日本円、スイスフランの「安全通貨」は、金融危機などで「リスクオフ」になったに買われやすい。その反対にあるのが、ブラジルレアルやメキシコペソなどの「高金利通貨」だ。「資源国」では、豪州であれば石炭や鉄鉱石を中国に輸出していることや、ニュージーランドなら酪農製品の輸出が多いことなどが材料になる。
ボトムアップ分析では、各国の経済状況を調べる。
長期的には、為替の本源的価値は「物価」だと言える。物やサービスと交換する「決済」に、為替の価値があるためだ。インフレになると通貨の価値が低下するので、物価上昇率が高い国の通貨は下落する。ただ、相対的な購買力平価を実現するには、10年、20年という長期間を要することがある。
中期的(1~5年)には、経済ファンダメンタルズに注目する。例えば、米国の生産性が相対的に高まった時にドル高になる傾向がある。1990年代はITバルルでパソコンやインターネットが普及して米国の生産性が再び高まり、ドル高が進んだ。
2000年代は、IT技術が世界で普及し、海外での大量生産が盛んになる中で、米国の生産性が相対的に落ちて、ドル安になった。しかしその後は、米国での多品種少量生産が見直されたことや、人工知能(AI)などのデジタル革命により、米国の生産性が高まり、ドル高が一段と進んでいる。
◆債券・金利
-債券市場の基礎は
門田氏 世界債券の代表的な指標である「FTSE世界国債インデックス(WGBI)」における各国のシェアを見ると、米国が約4割、ユーロが4分の1、日本と中国がそれぞれ1割を占めている。
各国の債券市場にはそれぞれ特徴がある。日本では8~9割が日本国債だ。一方、米国はバラエティに富んでおり、トレジャリー(国債や米国財務省証券)が最も多いが、それとほぼ同じ規模でモーゲージ(不動産担保ローン)があり、社債も活発だ。
金利の分析にあたっては、「経済・物価動向」や「金融政策/金融調節」を分析することで、短期金利の水準観が見えてくる。また、中長期の金利について、「財政政策/国債発行/格付け動向」「国債需給/投資家動向」などに注目している。このほか、「国内外の金融市場の動向」も、日本の債券市場に影響を与えるファクターになっている。
◆GDP=米国の経済統計①
-注目する海外経済統計は

ラムスレン・シャラブデムベレル氏 米国経済を知る上で重要な経済統計を紹介する。
最初に取り上げるのは「GDP(国内総生産)」だ。一国の経済の動向を測る上で総括的なマクロ経済指標であり、投資家が最も注目する指標の一つだ。米国のGDPは29兆ドル(2024年)と、世界で最も大きい。その特徴は、個人消費が68%を占めていることだ。例えば、同じ先進国でも日本や英国は50数%台にとどまっている。米国の経済動向を予想する上で、個人消費を分析することが重要だ。
GDPの発表スケジュールを見ると、例えば「1-3月期GDP(速報値)」は4月末に、「同(改定値)」は5月末に、「同(確定値)」は6月末にそれぞれ発表される。投資家は、このタイミングを待っていては遅いので、速報性の高い経済指標等を用いてGDPをリアルタイムで推計する「ナウキャスティング」に注目している。アトランタ連邦準備銀行やニューヨーク連邦準備銀行などの推計値がよく利用されている。
◆雇用統計=米国の経済統計②
「雇用統計」は、米国の個人消費の動向を知る上で注目度が最も高い。雇用統計は、「事業所調査」と「家計調査」という全く異なる調査を組み合わせたものだ。例えば、「非農業部門雇用者数」や「賃金」は事業所調査によって、「失業率」は家計調査によって、それぞれ作成されている。
雇用統計の特徴は、速報性に優れている点だ。雇用統計調査週(毎月12日を含む週)の3週間後の金曜日(通常、翌月第1金曜日に当たる)に発表される。
雇用統計でエコノミストが注目しているのは、「どの業種が雇用者を何人増やしたか」だ。「小売り」「教育・医療」「娯楽・宿泊」は、個人消費関連項目と呼ばれており、こうした業種の雇用者数が伸びている時は、個人消費が強く、米国経済も強いと推測される。
もう一つ大切なのは「人材派遣」だ。この業種の雇用者数の変化は、「非農業部門雇用者数」の変化に3~6カ月、先行する傾向があるためだ。企業は景気が悪化し始めると、まず「人材派遣」から解雇する傾向がある。逆に、景気が好転する局面では「人材派遣」から増やし始める。この項目から「非農業部門雇用者数」の変化を予測できる可能性がある。
投資家の皆さんから一番多くいただく質問は、「どうやって雇用統計を予想するか」だ。いい方法が二つある。一つは、毎週木曜日に発表される「失業保険統計」をチェックすることだ。仕事を失った人の数を知ることができる。ただ、新たに仕事に就いた人を知ることはできないでの、今のように景気が回復する局面では使いにくい。もう一つは「ISMサービス業PMI(景況感指数)」の「雇用」の項目だ。翌月の第3営業日に公表される。
◆物価統計=米国の経済統計③
次に、物価統計を紹介する。米国では消費者の物価動向を測る代表的な指標として「PCEデフレーター」と「消費者物価指数(CPI)」がある。
まず、PCEデフレーターだが、個人消費段階の物価上昇圧力を測る指標だ。米連邦準備制度理事会(FRB)は2012年1 月の連邦公開市場委員会(FOMC)で、PCEデフレーターの前年比プラス2%を「FRBの法で定められた使命に長期的に最も整合的なインフレ率」と定めた。
「消費者価格指数(CPI)」は、速報性が高く、翌月第2金曜日前後に発表されるため、注目度が高い。CPIとPCEデフレーターは、同じものを計測しているので、同じような動きをするが、調査項目のウエイトの違いによって、若干、CPIが高めの数値になることが多い。
物価については、例えば、家賃や中古車価格など、それぞれの民間団体が統計を公表しているので、エコノミストはそうしたものを活用して、物価動向を推計している。
◆旬のデータ=米国の経済統計④
経済統計には「旬」がある。例えば、2010年代に米国が住宅バブルになったときは、住宅関連統計が注目された。
今は、米国の関税政策を巡って先行きの不透明感が強まっているため、「経済政策不確実性指数」が注目されている。各国・地域の主要新聞における経済・政策の不確実性に関連する報道件数等にもとづいて、不確実性を測定したものだ。
また、消費者の家計や経済状況に対する楽観・悲観の度合いをサーベイ調査に基づいて算出する「ミシガン大学消費者センチメント指数」や、カンファレンス・ボードの「消費者信頼感指数」も注目されている。
関税が米国の物価に与える影響については、先ほど紹介した「消費者価格指数(CPI)」に注目している。バークレイズ証券では、関税の影響がCPIに現れるのは7~8月に発表されるデータからではないか、と見ている。