「オレンジイノベーション」で初の表彰式=認知症当事者と使いやすい製品・サービスを開発
2025年03月06日 10時00分

国が推進する「オレンジイノベーション・プロジェクト」で初の表彰式が行われた。このプロジェクトは、認知症当事者が参画し、企業とともに使いやすい製品・サービスを開発するもので、誰もが生きやすい社会の実現を目指している。
認知症と軽度認知障害の人の数は、2040年に1200万人に達し、65歳以上の高齢者の約3.3人に1人を占めると言われている。認知症の人の生活課題の解決や、やりたいことの実現の助けになる製品・サービスの充実が、求められている。
◆ファスニング、衣料品、買い物の支払い、ガスコンロ
表彰式では、最優秀賞にファスニング製品のYKK(本社東京、大谷裕明社長)が、優秀賞に繊維商社の豊島(本社名古屋市、豊島半七社長)とフィンテックのKAERU(本社東京、岡田知拓CEO)が、特別賞に熱エネルギー機器のリンナイ(本社名古屋市、内藤弘康社長)が、それぞれ選ばれた。
YKKは「誰もが開け閉めしやすいファスナー」を開発した。マグネットで開具が引き合うようにして、挿入部分に補助パーツを付けた。また、ユニバーサルデザインの引き手を使用した。
豊島は「医療機関と連携して認知症当事者にも優しい衣料品」を開発した。「気分が上がる、きれいで明るい色とストライプ模様」を採用、ボタンとボタンホールを組み合わせごとに同色にしたり、ボタンホールを斜めに開けたりして、使いやすくした。また、わきのマチを大きくすることで、袖を通しやすく、動きやすくした。
KAERUは「スマートフォンとプリペードカードを組み合わせた決済サービス」を開発した。支払いに必要なお金を小銭で用意する作業が不要になり、気軽に買い物を楽しめる。おつりでもらった小銭がたまることもなくなった。プリペードカードなので使い過ぎや紛失の際の懸念は小さい。家族は、スマートフォンを通じて、プリペードカードにお金を振り込んだり、使用状況を把握したりできる。
リンナイは「誰もが安心して使えるガスコンロ『SAFULL+(セイフルプラス)』」を開発した。高齢者でも聞き取りやすいように音声ガイダンスに工夫を凝らし、炎が見えやすい四角い大型ごとくを採用した。また、色使いやLEDライトによって、操作状況を把握しやすくした。2月から全国で販売している。
◆自分らしく暮らせる共生社会の実現をめざす-竹内政務官
竹内真二経済産業政務官は、このプロジェクトについて「認知症になってからも自分らしく暮らせる共生社会の実現を目指して、認知症の方々が製品・サービスの開発プロセスに『参画』し、企業とともに新しい価値を生み出す『共創』を行う、当事者参画型の開発を『オレンジイノベーション・プロジェクト』として推進している」と説明した。
その上で、「企業からは『新しい視点に気づくとともに効果的・効率的な開発につながった』という声が多く寄せられている。一方、参画した認知症の方からは、『企業と話し合う場があることや社会参画の場があることへの喜びや楽しさ』に関する声を、家族や支援者からは『開発プロセスへの参加が、認知症の方の自己効力感の向上につながる』といった声を、それぞれうかがっている」と紹介した
企業や団体の参画状況を見ると、2024年度は46社と前年(20社)から倍増している。また、参画した認知症の方や家族などは、24年度は700人弱(前年度は約100人)と大きく増加している。
◆認知症の方の参画プロセスなど重視-岩坪教授
審査委員を代表して岩坪威東京大学大学院教授は、「開発された商品を手に取り、開発されるまでのストーリーをうかがう中で、参画された皆さんの熱い思いやワクワクする気持ちを感じることができた」と感想を述べた。
その上で、審査のポイントについて「今回のアワードでは、本人の参画のプロセスが想像されることと、認知症の方以外への拡大が期待できることを重視した」と説明。「認知症のご本人に安心できる製品・サービスが、結果として、全ての人の安心につながることが考えられる。楽しみながらこの取り組みを継続することで、自分らしく暮らしていける共生社会の実現につながっていくことを、強く期待している」と述べた。