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「成長が加速する新時代」に突入=日本株の期待リターンは年率7.1%-JPモルガンAMの超長期市場予測

2024年12月23日 08時15分

徳永拓也氏

 JPモルガン・アセット・マネジメントは、今後10~15年の超長期市場予測「Long-Term Capital Market Assumptions(LTCMA)」の2025年版を発表した。

 世界経済は、「財政支出や設備投資の増加により『高成長・高金利を特徴とする新時代』に突入している」と分析、「世界経済の健全な基盤に裏付けられ、資産価値は高まる」と指摘した。

 特に、日本株の期待リターンは年率7.1%と高い伸びを予測した。円ベースで見た米国大型株(同4.8%)や全世界株(同5.2%)を上回る見通しだ。同社グローバル運用商品部エクイティ・マルチアセット投資戦略室インベスト・スペシャリストの徳永拓也氏に話を聞いた。

◆高水準の株価、「健全な経済基盤」が裏付けに

-今年のLTCMAのテーマは

徳永氏 今年のテーマは「Higher Starting Points,Healthier Foundations」だ。こうした原題をどう翻訳するか、毎年、思案するところだ。

 現在の株式マーケットは、利益と比較した株価評価の指標「PER(株価収益率)」などで「割高だ」と言われることが多い。しかし、われわれは、これらの株価の根底に「健全な経済基盤」があることに着目した。また、株式マーケットでは、情報技術など将来の業績成長期待が高いセクターの比率が高まっており、単純にPERを過去の水準と比べるのは適さなくなっている。「確かに株価は高いが、過度に恐れることはない」というニュアンスを込めて、「高まる資産価値、健全な経済基盤の裏付け」と翻訳した。

◆新NISAで注目高まる=ポートフォリオの参考データ

-LTCMAとは

徳永氏 このリポートは、当社がまとめた長期のマクロ経済見通しに基づき、200を越える資産クラスについて、今後10~15年の期待リターンやリスク、資産間の相関関係を算出している。さらに日本円を含めて17通貨に換算したデータも公表し、世界中の投資家に利用していただいている。

 リポートの作成に当たっては、グローバルに配置された約50人の先鋭のアナリストやマネジャーからなる専門チームを作り、3~10月に掛けて週次でミーティングを開催して作成しており、今回が29回目になる。

 昔から、長期の資産運用を行う機関投資家や年金基金に愛用されてきた。さらに、今年1月から新しいNISA(少額投資非課税制度)がスタートしたことで、投信を販売する銀行や証券会社のリテール担当の方からも、お客さまにポートフォリオ提案をする際の参考資料として注目されている。

◆「株式60/債券40」の期待リターンは年率4.3%

-2025年版のポイントは

徳永氏 5点ある。1点目は「企業と政府の投資拡大が、より高く、より健全な経済成長をもたらす」という経済見通しを示したことだ。2点目は「株式市場のバリュエーションは、明るい中長期的な利益見通しを反映している」と分析した。

 経済成長が高まると実質金利が上がるので、債券利回りは上昇する。このため、3点目のポイントは「債券のインカムと分散効果が、ポートフォリオの強固な基盤となる見通し」と提言した。債券は、ポートフォリオ運用においてインカム収入をもたらし、株価下落時には「金利低下・債券価格上昇」によりクッション効果で、資産価値の値下がりを抑制する効果が期待される。

 4点目として「『株式60/債券40』のポートフォリオの期待リターン(円ベース)は年率4.3%と引き続き魅力的」とした。

 5点目のポイントは、株式や債券などの伝統的資産を代替するオルタナティブ投資の重要性だ。「テクノロジー等の新たな投資機会やインフレリスクに対応する上でプライベート資産が有効」と考えている。オルタナティブ投資は現在、個人投資家では富裕層を中心に利用されているが、より広い投資家が目を向けても良いだろう。

◆日米のGDP成長率見通しを引き上げ

-米国経済の見通しは

徳永氏 米国の今後10~15年のGDP成長率は、年率2.0%(前回リポートは同1.8%)に引き上げた。経済が健全に拡大すると予測しているためだ。米国のインフレ率については、来年2.4%とした。10~15年を見通したとき、インフレ率は2%を切る期間よりも、2%以上で推移する期間の方が長くなるだろう。

-日本経済の見通しは

徳永氏 日本の今後10~15年のGDP成長率は年率0.9%に、インフレ率は同1.5%にそれぞれ引き上げた。ここ数年、給与が継続的に上昇していることや、東証の市場改革により、資本コストや株価を意識した経営に向けて企業が対応を進めていることが要因の一つだ。為替については、購買力平価を基準として、中長期的に1ドル=113.5円と円高を予測した。

◆民間投資、財政、ナショナリズム、テクノロジー

-今後を占う注目テーマは

徳永氏 「民間投資の拡大」「積極財政」「経済ナショナリズム」「テクノロジーの浸透」の4テーマが、絡み合いながら、大きな流れを作っていくだろう。

 来年1月に新大統領に就任するトランプ氏の政策も、この四つのテーマに当てはまる。関税引き上げの税収等を財源に減税を検討しており、「経済ナショナリズム」が「積極財政」に結び付く。「民間投資の拡大」に向けて規制緩和が行われ、AIという新しい「テクノロジーの浸透」についても積極的に発言をしている。トランプ氏の政策は、これまでの経済の流れを変えるものではなく、この四つのテーマを加速させるものだと整理している。

◆経済成長に支えられる「株式」、高金利で魅力増す「債券」

-投資家へのアドバイスは

徳永氏 ポートフォリオの構築に当たっては、こうした経済環境に対応するため、「民間投資拡大」の恩恵を受ける株式や、「積極財政」による金利上昇で魅力的なクーポン収入が期待される債券に分散投資することが望ましいだろう。

 さらに、「経済ナショナリズム」でインフレが高止まると予測されることから、インフレに強い実物資産を保有したり、「テクノロジーの浸透」を享受するため、AI関連業種が多いプライベートエクイティ(非上場株)に投資したりすることも、こうした資産クラスにアクセスできる投資家にとって選択肢になるだろう。

 ポートフォリオにオルタナティブを加えると、リターンが高まるだけでなく、ボラティリティを引き下げる要因になることから、今後、ポートフォリオ運用においてオルタナティブは不可欠な選択肢になるだろう。すでに多くの年金基金では、オルタナティブをポートフォリオに組み込んでいる。

◆高まるボラティリティ、冷静に投資継続を

 高いレベルの経済成長が継続し、インフレリスクが残る中では、マーケットのボラティリティが上昇することが予測される。また、過去のデータを振り返ると、インフレ環境下では、株価と債券価格が順相関になることがあり、懸念材料だ。このため、オルタナティブを含めた分散投資が必要になるだろう。

 米連邦準備制度理事会(FRB)のリサーチを基に、過去に地政学リスクが広がった際の「株式60/債券40」のポートフォリオのリターン(ドルベース)を分析した。湾岸戦争やリーマン・ショックなどさまざまな出来事があったが、イベント発生の1年後には、75%の確率で預金金利を平均8%上回り、3年後には100%の確率で平均18%上回る結果になった。

 さまざまな地政学リスクが高まっているが、相場が急落しても慌てず、冷静に投資を継続することが重要だ。

【ホームページ】JPモルガン・アセット・マネジメント「2025年超長期市場予測」
https://am.jpmorgan.com/jp/ja/ltcma2025/

 

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