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グローバル株式、「メガトレンド」からテーマを抽出=三井住友DSアセットの村井氏に聞く

2024年06月04日 08時15分

村井利行氏

 三井住友DSアセットマネジメントは「2024年度の注目投資テーマ ~グローバル株式運用のポイント~」をテーマに記者勉強会を開催した。運用部プロダクトスペシャリストの村井利行氏は、同社のグローバル株式の運用手法について「メガトレンド(長期的・構造的に続くと思われる変化)から魅力的なサブテーマを抽出し、そこから投資先企業を選定する独自の手法を採用している」と説明、2024年度の注目テーマを紹介した。

◆大きなトレンドを見極める

-グローバル株式運用のポイントは。

村井氏 約30年間、外国株式の運用に携わる中で、社会・経済には大きなトレンドがあり、そこを見極めて投資することが極めて重要だと感じている。また、マーケットは大きく変動することがあるが、それに一喜一憂して動くのではなく、「伸びる部分」とそれ以外をしっかり分析して行動することが大切だと考えている。

-調査体制は。

村井氏 三井住友DSアセットマネジメントでは、国内外に約60人を配置し、独自のリサーチにより、マクロ経済の動向や経済のメガトレンドを調査している。さらに、当社のグローバル株式運用の考え方である「Quality & Growth」に合った銘柄を発掘し、市場の非効率性を発見することをめざしている。

-「Quality & Growth」の考え方は。

村井氏 当社は「独自のビジネスにより、キャッシュフローを創出し、成長させることができる企業への長期投資が、投資家への最良のリターンとなる」と考えている。

 そうした企業を発掘するため、①ユニークなビジネスモデル ②良好な経営の質 ③サステナビリティへの意識 ④グローバル成長テーマ ⑤マーケットリーダーシップ-に着目して、企業を評価している。

この考え方をグローバル株式の運用チーム全員が共有し、同じベクトルを持って活動することが極めて重要だ。

◆国別、業種別、テーマ別

-グローバル株式運用の変遷は。

(出所)三井住友DSアセットマネジメント(出所)三井住友DSアセットマネジメント(クリックで表示)


村井氏 1990年代前半は、国別に投資するカントリーアロケーションが全盛だった。その後、1990年代半ば以降に米国の調査会社で株価指数を算出するMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)が出す業種別指数が世界標準となったことで、2000年代に入り、国別と業種別のどちらを採用するか、大きな議論になった。

 われわれは、こうした議論から一歩進んで、国や業種の区分を越えて、「メガトレンド」から銘柄を選定する体制を構築している。

-メガトレンドとは。

村井氏 長期・構造的に続く世界のさまざまな変化を大きく集約したものだ。当社は現在、①環境技術 ②消費構造の変化 ③技術の進化 ④金融・インフラの高度化-の四つをメガトレンドに掲げている。さらに、具体的な約60の変化を「サブテーマ」として抽出し、それぞれに関連する企業群をリストアップしデータベース化している。

 一方、ボトムアップの企業調査で、それぞれの企業の財務・非財務情報を分析し、企業訪問を行って経営陣に直接取材している。この二つを組み合わせることで、魅力的な企業を絞り込んでいる。

-なぜ、こうした手法を採用しているのか。

村井氏 今起こっている事象を捉える際、従来型の業種区分で企業にアプローチしても、限界がある。例えば、電気自動車を考えても、自動車担当のアナリストだけでは十分に把握できないのは明白だろう。たくさんの半導体が使われ、ソフトウエアの役割も重要だ。関連するアナリストが集まって議論しないと、その電気自動車の魅力を捉えられない。

 こうした認識の下、当社は、メンバーそれぞれがメガトレンドを担当して、重要なサブテーマを特定して、関連企業を洗い出している。こうしたアプローチは、一部のグローバルな運用会社が採用しているが、日本の運用会社ではまだ少数だ。

 当社は、分析を支えるツールも開発しており、約60のサブテーマの魅力度を定量化し、ランキングしてモニタリングしている。また、単語等から関連企業を抽出するテキストマイニングを実際に活用している。

 さらに、社内のリソースにこだわることなく、社外の専門家とも意見交換し、新しい魅力的なテーマを発掘している。

-テーマ型は長期投資に適しているか。

村井氏 テーマ型ファンドは、短期的に人気化するが、長期投資に向かないのではないか、というご指摘がある。しかし、一過性のテーマではなく、メガトレンドと言えるような長期的・構造的な変化を見極め、中長期の観点で企業を発掘して投資することで、お客さまの資産形成に有効な商品を提供できると考えている。

◆転換点に立つ世界経済

-2024年度の注目テーマは。

村井氏 ①サプライチェーン再構築 ②新興市場の見直し ③全世界的な選挙イヤー ④環境対策待ったなし ⑤コンテンツIP ⑥企業戦略の変化 ⑦ウェルビーイング ⑧サイバーセキュリティー ⑨ウェルスマネジメント・ソリューション ⑩中小企業DX-をトップ10に選んだ。

-サプライチェーン再構築は。

村井氏 米中摩擦や地政学要因で、友好国・地域間での供給網の再構築が起きており、グローバル化の動きが大きく転換する可能性がある。先進国に工場を建設しようとすると、より生産性を高め、環境に配慮することが必要になる。DX(デジタル・トランスフォーメーション)やGX(グリーン・トランスフォーメーション)に関連する幅広い企業に恩恵を与えるだろう。

-新興市場の見直しは。

村井氏 米国の金融政策の転換とドル高是正により、「米国の独り勝ち」が転換し、割安に放置されている新興国市場が見直されるだろう。当社は、特にベトナムに注目している。若くて相対的に安価な労働力に加えて、政府が積極的に外国資本の導入を促進している。また、研究開発の拠点をつくる動きも出ている。

-全世界的な選挙イヤーは。

村井氏 2024年度は、世界規模で重要な選挙が目白押しだ。11月に米大統領選があり、トランプ前大統領の動向が注目されるが、マーケット環境が大きく変化することは想定していない。ただ、世界の二極化が進んでおり、グローバルな自由貿易で経済的利益を追求する環境でなくなっていることに注意が必要だろう。

-環境対策待ったなしは。

村井氏 2023年は、世界の平均気温が観測史上最も高かった。干ばつや大洪水で農作物の不作が深刻化し、食糧価格が高騰した。日本は、経済成長と脱炭素の両立を目指す、現実的な環境対策を推進している。既存技術を応用したトランジション(移行)とイノベーション(技術革新)により、ビジネスの機会が広がると見ている。

―コンテンツIP(知的財産)は。

村井氏 コンテンツの価値が上昇している。コンテンツ産業は、デジタルと親和性があり、人気化すれば利益率が向上するなど、高い潜在能力を持っている。日本は、アニメ、ゲーム、マンガ、映画、音楽など豊富なコンテンツを有している。他業種とのコラボレーションや海外展開により高成長が期待される。

-企業戦略の変化は。

村井氏 人工知能(AI)とクラウドソフトウエアが、企業戦略を大きく変えている。膨大なデータを学習し、高度な推論を行う生成AIの開発・活用が急ピッチで進んでいる。また、タイムリーで効率的な営業活動や従業員管理を可能にするクラウド型の業務管理ソフトの導入が進んでいる。

-ウェルビーイングは。

村井氏 「ココロとカラダが共に健康で良好な状態であり、今を良く生きるだけでなく、それを維持して、将来も良く生きること」と定義している。元気に活動できる「健康寿命」を伸ばすことが大切だ。製薬会社は研究開発費を増やし、病気の治療薬に加えて、例えば肥満症薬のようにQOL(生活の質)を高める医薬品の開発を進めている。

-サイバーセキュリティーは。

村井氏 サイバーセキュリティーは国家安全保障上の最重要案件の一つだ。政府、企業、個人の各レイヤーにおいて、さまざまにソリューションを提供する企業の事業機会は拡大している。さらに、セキュリティー関連のアドバイザリーや、検知・対策サービスなど、新しいビジネスが登場している。

-ウェルスマネジメント・ソリューションは。

村井氏 新NISA(少額投資非課税制度)導入で、資産運用サービスが拡大している。日本の「貯蓄から投資へ」は、始まったばかりで、これからさらに拡大する。インドなど新興国でも資産運用のニーズが高まっており、低コストファンドや、カスタマイズされた運用サービス、スマートフォンで手続きが完了するアプリなどのニーズが見込まれる。

-中小企業DXは。

村井氏 中小企業の生産性向上が、日本経済の大きな課題だ。単にコスト削減のためではなく、売上高やビジネス拡大に結び付くDXにより企業価値を高めることが不可欠であり、地方経済の活性化につながることが期待される。欧米各国にも中小企業は多くあるので、サービスの海外展開も考えられる。

 

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