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「投資家への壁」克服の手掛かりを探る=パーソナリティに着目、大規模調査を実施-大和アセット資産運用普及センター長の長野氏らに聞く

2026年04月03日 08時00分

(長野氏)(長野氏)

 大和アセットマネジメントは、個人の資産形成の過去・現在・未来を多角的にまとめた「資産形成白書2026」を公表した。昨年に続き2年目の発行になる。

 今回は、独自に大規模アンケートを実施、パーソナリティ(性格特性)を切り口にして「投資初心者」と「投資に関心のある未投資者」を隔てる『投資家への壁』を分析し、その克服方法を提言した。

 白書を作成した大和アセットマネジメント資産運用普及センター長の長野吉納氏と、同センター資産形成リサーチグループ主任の梅田麻優子氏に話を聞いた。

◆投資初心者と未投資者に「四つの違い」

-白書のポイントは

長野氏 今回は「投資初心者」と「投資に関心のある未投資者」の違いを明確にし、「投資に関心のある未投資者」が投資に向かう環境整備をサポートすることを目指した。

 分析に当たって、個人の「パーソナリティ(性格特性)」に注目した。現在は、金融機関がお客さまひとり一人を理解するときに、年齢や収入、家族構成などの属性で分類している。性格特性は、これまであまり検討されてこなかった属性であり、投資家の裾野拡大に向けて、新たなサポート材料になるのではないかと考えた。

-アンケート調査のポイントは

(梅田氏)(梅田氏)

梅田氏 昨年9月に20~79歳の男女約1万人を対象にアンケート調査を行った。この中で、「投資初心者」と「投資に関心のある未投資者」という二つの集団に分けて回答を分析したところ、四つの違いが浮かび上がった。

 一つ目は「パーソナリティ(性格特性)の違い」だ。今回の調査では、パーソナリティの測定に当たって、①開放性 ②誠実性 ③外向性 ④協調性 ⑤神経症傾向-の五つの因子(Big Five)を活用した。

 「投資に関心のある未投資者」では「④協調性」と「⑤神経症傾向」が「投資初心者」よりも高い傾向が見られた。「周りを気にして心理的にストレスを受けやすい性格特性によって、投資への第一歩を踏み出しにくくなっている」と考えられる。

 二つ目は、「情報収集に対する態度の違い」だ。「投資初心者」では、投資に興味・関心を持った後、検索エンジンなどで自立・能動的な情報収集を行っている割合が高かった。一方、「投資に関心のある未投資者」では、「家族や友人・知人に聞く」といった幾分受動的な情報収集にとどまる人や、何もしていない人の割合が高かった。

 三つ目は、「検討から行動に移るまでの期間の違い」だ。「投資初心者」は興味を持った後、投資について検討している期間は「3カ月未満」と比較的短かった。一方、「投資に関心のある未投資者」は「1年以上」と長かった。思い立ったらすぐ行動することが大切だ。

 四つ目は、「金融リテラシーの違い」だ。調査の中で「複利計算」「インフレ」「投資におけるリスクの意味」「長期・分散・積立」「年金の認識」の5分野について、金融リテラシーを測る設問を設けた。「投資に関心のある未投資者」では「複利計算」の正答率が「投資初心者」よりも低いことが目立った。投資を始める前に「複利」の理解を高めることもポイントになりそうだ。

◆「三つの壁」を乗り越える=情報、理解、決断をサポート

-「投資家への壁」と対処法は

梅田氏 両者の違いを分析する中で、投資を始めようとする人の前に立ちはだかる「三つの壁」の存在が浮かび上がった。

 第1の壁は「情報の壁」だ。「投資に関心のある未投資者」は、自立・能動的な情報収集に消極的なため、十分な情報を入手できていない可能性がある。第1の壁を越えるには、自立的な情報収集を促し、「自分で情報を集めたい」と思わせるコンテンツやサポートが必要だ。

 第2の壁は「理解の壁」だ。情報不足によって、知識の理解までたどり着かず、不安が解消されないことが考えられる。第2の壁を越えるには、知識不足や不安を解消するコンテンツやサポートが求められよう。

 第3の壁は「決断の壁」だ。知識や理解不足のために漠然とした不安が解消されづらく、検討期間が長引き、投資を始める決断ができないことがうかがえる。「投資初心者」は、「3カ月未満」で投資を開始している。投資に関心をもった初期の段階に、高頻度で情報提供することが有効だろう。

◆「投資家への壁」を低くする四つのアクション

-本人の心構えや対応は

梅田氏 白書の22ページに「投資家への壁」を低くするために、本人が行う四つのアクションをまとめた。

 一つ目は、神経症傾向が高い人は、自分がそうした傾向であることを再認識し、「自分は『投資家への壁』を高く感じやすい」と心構えをしておくことが大切だろう。心構えが違えば、行動も変わる可能性がある。セミナー等でパーソナリティ分析の機会を提供することも有効だろう。

 二つ目は、投資方針を決める際に、自分でコントロールできる「投資金額」や「投資期間」を重視することだ。投資環境に左右される「投資対象の収益性」を過度に重視すると、自分の短期的なリスク許容度を超えてしまうことが懸念される。高い収益性の商品はリスクも高いので、そのために、投資に踏み切れなかったり、せっかく投資を始めても途中で止めてしまったりしては、残念な結果になってしまう。

 三つ目は、「投資を始める前に金融リテラシーをすべて修得する必要はなく、投資しながら金融リテラシーを高めれば良い」と知ることだ。また、金融リテラシー不足で不安を感じるなら、「投資金額」を小さくしたり、「投資期間」を長くしたりすることでリスクを控えた投資ができる。

 四つ目は、投資には「『現実』と『ありたい姿』のギャップを埋めて理想に近づける、自己実現の側面があること」を知ることだ。投資をすることで「将来を重視したお金の使い方」ができる。ただ、「今やりたいことを犠牲にしてまで投資をすること」は適切ではないので、現実と理想のバランスをじっくり考えることも大切だろう。

◆時系列でまとめ、類似テーマの統計の横比較も可能に

資産形成白書2026

-白書の内容は

長野氏 白書の第1章は「アンケート調査から読み解く『投資家への壁』」ということで、「投資家への壁」を分析し、それを低くする方法を探った。第2章は「金利上昇・新NISA導入等を受けた家計金融資産の変化」ということで、家計をとりまく環境変化と資産の状況を整理した。

 第3章は「NISAの未稼働口座の状況」ということで、アンケート調査などから、口座を開設したが投資をしていないNISA口座が、全体の2割程度あると推測した。

 第4章は、今回のアンケート調査のデータをまとめた。第5章は、金融経済教育推進機構(J-FLEC)や投資信託協会などさまざまな団体の投資家に関する調査を整理した。時系列でまとめ、ほかの団体の類似テーマの統計と横比較を可能にしている。

 第6章は、家計金融資産に関わるマクロ・ミクロのデータを集め、家計の全体像が分かるようにした。第7章は、投資信託のデータを掲載した。

◆iDeCo、認知度向上が課題

-目を引いた統計は

長野氏 白書の56ページに、J-FLECが集計した「家計の金融行動に関する世論調査」を掲載した。この中で、「年金に対する考え方(二人以上世帯)」を見ると、「年金でさほど不自由なく暮らせる」と「ゆとりはないが、日常生活費程度はまかなえる」が約6割を占めており、わずかながら増加傾向を示している。公的年金に対する不安が話題に上ることが多いが、この統計からは少し違った様子がうかがえる。

 白書の60ページに、投資信託協会が集計した「iDeCoの認知度」を掲載した。少し残念な話だが、足元で認知度が下がっている。2026年1月からは掛け金が大幅に引き上げられ、加入年齢が70歳未満まで引き上げられることから、これから認知度向上の取り組みが期待される。

 白書の65~66ページに、J-FLECの「金融リテラシー調査」を掲載した。日米比較を見ると、米国の金融知識の正答率が微妙に低下している点が気になった。日本と同水準になりつつある。米国では「金融知識に自信がある人の割合」も低下している。

 白書の72~73ページに、総務省の家計調査を掲載した。世代別に「貯蓄や負債の平均値」を見ると、20代、30代、40代で負債が貯蓄を上回っていることが分かる。住宅ローンのため、負債が大きくなっている。これから金利が上昇する中で消費などに影響が出てこないか、気をつけて見ていくことが必要だろう。

 白書の78ページに、警視庁のSNS投資詐欺の調査をまとめた。「詐欺情報に最初に接触するアプリ等」はさまざまだが、被害時連絡ツールはLINEが9割を占めた。また、被害金の搾取方法は、振り込みが4分の3を占めた。

◆厳しい投資環境を想定し、自分の投資を点検する

-運用環境をどう見ているか

長野氏 ここ5~10年は、コロナ禍をのぞけば、運用しやすい環境だった。ただ、投資に当たっては、「相場の先行きは誰にも予測できない」ことが大前提になる。将来に向けては、株価が急落し、右肩上がりの相場しか知らない投資家が「試されるような相場局面」があることも、考えておく必要があるだろう。

 積立投資であれば、過去の厳しい相場の時の積立投資の状況などを参考にしながら、一時的な下落局面があっても10年、20年とつみたて投資を継続することで、将来的には十分な投資収益を上げることができるということを、事前に知っておくことが重要だろう。

 『投資収益』を短期的に予想することが難しい。そこに考えを集中するのではなく、「自分にとってどれくらいの『投資金額』と『投資期間』が適当なのか」を見極めて投資することで、たとえ厳しい局面があったとしても、「想定の範囲内だ」と考えて、乗り越えていけるだろう。

 毎月の投資金額などで無理をしていると、相場急変時に不安になってしまう。「毎月の投資金額が自分の収入に比べて適切なのか」を、相場の調子のいいときに点検し、万が一厳しい相場局面が来たとしても、投資を継続できる態勢を作っておくことが大切だ。

◆つみたて投資なら、開始時期を気にせず、少額から

-NISA未稼働口座の対応は

長野氏 白書の41ページに、日本証券業協会の「証券投資に関する全国調査」から「NISA口座で投資しない理由」を掲載した。「市場動向から投資時期を見極めている」「投資する資金が確保できながった」とする回答が上位にあった。

 長期の積立投資であれば、開始時期を気にせず、少額から始めてもらえることを、改めて伝えていくことが大切だろう。「営業員からの勧誘がなかった」とする回答もあるので、引き続き情報提供も必要だと思われる。

◆将来の資産格差を生じさせない

-政府のNISA目標への対応は。

長野氏、政府は、NISAの目標として、2027年12月末までに、口座数で3400万口座、買付額で56兆円を掲げている。買付額については既に目標を達成した。口座数についても、2027年に「こどもNISA」が始まることから、ある程度、目標に近づくのでなないかと見ている。

 口座数の目標については、さらに上を目指すことが重要だと考えている。NISA口座は、2025年末で約2800万口座となっており、国民の4人に1人が口座を持っている。ただ、裏を返せば、4人に3人は口座を持っていない。

 老後に向けた資産形成を考えたときに、「投資をしていない人」が、今後、投資家になるタイミングが提供されず、投資家にならずに、30年経過してしまうと、投資家との間に大きな資産格差が生まれるだろう。国を分断するような、社会問題を引き起こしかねない。遠い将来の話ではあるが、こうした将来像も視野に入れながら、地道な啓もう活動を継続していくことが大切だ。

 制度拡充については、「こどもNISA」の創設や、確定拠出年金の掛け金引き上げが予定されている。これにとどまらず、さらなる環境整備が必要だろう。

 確定拠出年金(DC)では、運用指図をしない加入者の掛け金を積み立てる「デフォルト・ファンド」を、ある程度リスク資産を組み入れたバランス型ファンドすることも大切だろう。既に一部の企業が導入しており、さらなる拡大が望まれる。

 米国では、「トランプ口座」ということで、新生児に対して政府が1人当たり1000ドルを将来は個人退職勘定に引き継がれる口座に拠出して、代表的な米国株指数で運用するという制度が始まった。日本でも、例えば「こどもiDeCo」を作って、政府が最初の掛け金を拠出すれば、全ての国民が資産形成制度に自動加入できる。また、大人になった時に自分のiDeCoの運用成果を知ることで「さらに投資を続けよう」「自分のお金を入れてみよう」といったインセンティブにつながるだろう。

 

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