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WEEKLY 2021年7月11日号

FRBが緩和策をゆっくりと縮小すべき理由

Dallas Fed Chief Robert Kaplan on Why the Fed Should (Slowly) Back Off

ダラス連銀総裁に聞く

まずは国債とMBS買い入れ見直しを

Illustration by Alexandra Compain-Tissier

米連邦準備制度理事会(FRB)の一部高官は、わずかであっても金融政策の引き締めを開始するよう働きかけている。ダラス連銀のロバート・カプラン総裁は、その考えを公の場で最初に発言した。ハーバード・ビジネススクールの元教授であり、ゴールドマン・サックスに23年間勤務していた同総裁は、今年は連邦公開市場委員会(FOMC)の投票権がなく、投票権を持つのは2023年の予定だ。全てを考慮したうえで、暴走するインフレよりも今年以降の経済成長を心配しているようで、段階的な量的緩和縮小(テーパリング)を提唱している。

本誌:予想をはるかに上回るインフレデータが出ているが、これについて説明を。
カプラン総裁:ダラス連銀では、個人消費支出(PCE)物価指数で測定されるインフレ率は、今年末は3.4%と高いが、2022年末には2.4%程度に低下すると予想している。

Q:それでもまだ2%の目標を大きく上回っているが、より持続的なインフレが示唆されているのか?
A:労働力の需給問題を解決していくうちに、物価上昇圧力の一部は緩和されるだろう。しかし、一部の圧力はより持続的になり、波及的に広がっていくだろう。今年に原材料価格が上昇すれば、それが商品やサービスに広がる可能性があり、住宅価格の上昇は、最終的には家賃の上昇につながる。

Q:投資家は、FRB高官が言う「一過性」または「非一過性」のインフレとは何か理解したがっている。
A:私はこれらの表現は避けてきた。経済再開に関連する景気循環的な影響あるいはより長期的、構造的で、従ってより持続的な影響という言い方を選好する。

Q:では、現在のインフレ率は問題なのか?それとも循環的なものなのか?
A:どちらも少しある。金融政策などFRBの仕事は将来を見据えたものでなければならない。現時点だけを見れば、インフレ期待は管理可能であり、2%の目標と矛盾していないと思う。しかし、過去よりも今後のことの方が重要だ。私は、インフレ率が高い状態があと数カ月続くことには神経をとがらせている。それがインフレ期待に波及していく可能性がある。だからこそ、FRBがこうしたトレンドを警戒し、インフレ期待とインフレ率を2%に固定するよう最大限努力すると強調することが重要だ。

Q:急ブレーキを踏まなくて済むよう、FRBはアクセルからそっと足を離していくべきだとの発言の意味は?
A:まずは、毎月800億ドルの米国債の買い入れと400億ドルの住宅ローン担保証券(MBS)買い入れから手を付けると良いと思う。これらの買い入れは、危機の真っ最中の2020年には非常に適切だったが、2021年初めと比べると新型コロナウイルスのワクチン接種が加速し、今年の国内総生産(GDP)成長率はかなり高いと見込まれている。パンデミック(世界的大流行)への対応だけでなく、雇用や物価安定に関するFRBの使命という面でも前進している。今や需要が十分にあり、非常に好調な消費を示す証拠があるため、これらの買い入れはあまり適していないと思う。

テーパリング、2013年の教訓を意識

Q:テーパリングの早期開始を望んでいるが、前回のFOMCで投票権があったなら反対していたか?
A:資産買い入れ額の調整について活発でオープンな議論が行われている今の状況は改善が見られるという風に答えたい。

Q:テーパリングに対する市場の反応を心配しているか?
A:2013年の教訓を意識する必要がある。テーパリングを開始する際には、分かりやすく、段階的に行う必要がある。また、米国の年金基金の相当多くの資金が債券を求めていることも念頭に置かねばならない。世界的に見ると、米国の金利は相対的に高いので、米ドルや米国債が買われている。これは幸運なことと思う。

Q:テーパリングの時期は早過ぎるのと遅過ぎるのとではどちらのリスクが高いか?
A:必要以上に長く買い入れを続けると、経済や金融市場、そして住宅市場に過剰な不均衡が生じる。このような異例の措置はできれば「早期に」廃止した方が健全だと思う。そうすれば、将来的に柔軟性が増す。先走って経済成長や完全で包摂的な雇用の実現を阻害したくはないが、遅過ぎて後手に回り、より急激で厳しい措置を取らなければならないようなことも避けたい。これらの兼ね合いを議論する必要がある。

Q:先ほどの「早期に」とは?FRBは「さらなる顕著な進展」を望んでいるが。
A:具体的な時期は言わないように注意している。しかし、人々の予想よりも早期にその「さらなる顕著な進展」は達成されるだろう。運転に例えれば、障害やリスクのある道路では時速80マイルよりは55マイルで進みたいと思うだろう。資産買い入れについて議論が始まったことはうれしい。

利上げ議論、今は適切でない

Q:住宅市場ならびにMBS買い入れの影響を懸念しているか?
A:住宅価格は歴史的に見ても高い水準にある。さらに、一戸建て住宅の落札者の多くが家族ではないという話も増えている。何らかのファンドが賃貸のため、現地も見ずに購入している。一次取得者をはじめ、一般の家庭が住宅購入から締め出されている。家賃の上昇や固定資産税の上昇などの波及効果が起きている。

Q:今後初めて住宅を購入する人たちへのアドバイスは?価格は下がるのか、買えなくなるのか?
A:この仕事では、市場や住宅価格の行方を予測することは避けているが、これだけは言いたい。現段階では、資産買い入れによる意図しない副作用が、恩恵を上回り始めている。私は、住宅市場がFRBの支援を必要としているとは思っていない。FRBは、政府系住宅金融会社によるMBSの新規発行純額のうちかなり大きな割合を購入しており、オプション調整後のスプレッドは過去の水準と比べて低く、時にはマイナスだ。

Q:前回の引き締めサイクルでは、パンデミック前で失業率が50年ぶりの低水準だったが、FRBの利上げは2.5%を超えることはできなかった。それ以来、家計も企業も米国政府も、より多くの負債を抱えるようになった。今、FRBは引き締めができるのか?
A:今はまだ、利上げの話をするのは適切ではないと思う。この危機を乗り越えるにつれ、2021年には非常に力強い経済成長が見られるようになる。2022年と2023年の経済成長はある程度緩やかになり、1.75~2%程度の成長トレンドに回帰するだろう。

Q:長期間にわたって低金利が続いているため、家計も企業も米国政府も多くの負債を抱えている。このためFRBの利上げを困難にしているのではないか?FRBは永遠に超低金利に縛られるのではないか?
A:私は、過剰なリスクテイクを心配している。バブルかどうかを判断することはできないが、投資家がより高いリスクを取る方向に行くことは注視している。貯蓄しようにも、貯蓄では金利を稼ぐことができないため、より多くのリスクを取らなければならない。それほどリスクを取るべきではない人々もいる。金融政策のスタンスが人々に与える影響を心配している。過剰なリスクを抱えていることに気づき、レバレッジ解消が必要になる時に、金融引き締めやスプレッドの拡大というシナリオの影響を受けやすくなる。危機の最中は許容すべきことだったが、よりバランスのとれたリスクプロファイルを持つ方がより健全だ。

Q:FRBが金融市場に迎合し過ぎているとの批判にどう答えるか?
A:われわれは、経済にとって正しいことにのみ主眼を置くべきだ。しかし、資産買い入れが金融資産に与える影響を認識することは賢明であり、批判の一部は受け止める方が健全だと思う。このような異例の金融政策の意義の一つは金融資産に好影響を与えることだが、危機から脱却するにつれ、異例の措置はできれば早期に廃止したいと思うのも同じ理由だ。

 

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