ウォール・ストリート・ジャーナル
バロンズ・ダイジェスト

マーケットニュース

サンプル(過去記事より)

WEEKLY 2021年6月27日号

経済活動再開の動きは速い

This Reopening Is Moving Very Fast.

JPモルガンの調査部門責任者に最近の投資環境を聞く

投資家に影響するパラダイムシフト

Photograph by Stephanie Diani

世界の変化のスピードの速さが、投資家の長期的計画に大きな混乱をもたらしている。ウォール街で最も有能なアナリストの一人と目されるJPモルガン・チェース<JPM>のジョイス・チャン氏に話を聞いた。

本誌:インフレは大きなリスクだが、チャンスでもある。他に投資家に影響を与えるパラダイムシフトがあるか?
チャン氏:米連邦準備制度理事会(FRB)は、「新たな実験」のリスクについて手の内を見せ始めている。「実験」とは、見通しよりも結果を基にした平均的インフレ・ターゲットという新しい金融の枠組みの導入だ。意外なのは、シナリオの展開の速さだ。FRBは(当初)、この実験は何年もかけて行われ、最初の利上げは2024年になると考えていた。しかし、現実のインフレ傾向によってそれが早まった。また、低金利、量的緩和(QE)、そして減税は、実際には富の不平等を悪化させたという感覚があるが、バイデン大統領の時代になり、マクロ政策の一環として本当の意味での所得の再分配の要素を導入しており、これもパラダイムシフトだ。

Q:米中関係はどうか?
A:トランプ政権下では2大国同士の競争だったが、バイデン大統領は一国主義に転換しつつある。民主主義対独裁主義の戦い、という枠組みだ。同大統領は、グローバルな同盟関係を取り戻したいと考えており、低所得者層や新興国市場の国々を仲間に引き入れ、米国のリーダーシップを推進し、大西洋経済圏および多国間の国際関係や制度に戻ろうとしている。もう一つの関連する変化は、ポピュリズムの台頭だ。しかし、非常に複雑な状況で、中南米ではポピュリストのリーダーが勝利を収めているが、世界の他の地域では中道への回帰が見られる。米国では、中間選挙で何が起こるかが注目される。

Q:新たなシフトで最大のものは何か?
A:最も急速に起こっているのは、デジタル化とフィンテックや暗号資産(仮想通貨)に対する需要だ。今や市場は、銀行が提供する伝統的な流動性や、ヘッジファンドやミューチュアルファンドの活動では捉えきれなくなった。銀行以外の金融機関が活発に活動している。個人投資家も大きな力となっており、年初来、株式ファンドと債券ファンドにそれぞれ5000億ドルを投入している。しかし、暗号資産は、機関投資家が大きなエクスポージャーを取るにはあまりにも不安定だ。ビットコインと金のボラティリティーが上昇している。暗号資産は、株式の大幅な下落に対するヘッジとしては最悪だ。ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)での発言が大きな動きをもたらすこともある。エルサルバドル(6月にビットコインを法定通貨にした)を調べてみた。悪意あるビットコインの使用や、ドル化された金融システムの将来についてのリスクがある。他の国が部分的にビットコインの採用を進めるかどうかを判断するのは時期尚早だ。オーバーウエート推奨しているのは、デジタル決済企業であるスクエア<SQ>、暗号資産取引所大手コインベース・グローバル<COIN>、グローバル決済のフィンテック企業フライワイヤー<FLYW>

エネルギーセクターを推奨

Q:これらのトレンドは、投資家にとって他に何を意味するか?
A:経済活動再開後は、コモディティー需要の構造的な高まりが期待でき、エネルギーセクターを強く推奨している。ブレント原油のスポット価格(最近では1バレル当たり72ドル)は2018年以来の高水準にあり、季節的に好調な夏のドライブシーズンもあって一層上昇し、来年初めには80ドルになると予想している。欧州連合(EU)の大手石油会社合計のバリュエーションはパンデミック(世界的流行)以前より18%も低くなっている。また、債券と株式の正の相関関係が戻ってきたので、分散投資についての質問が増えるだろう。原油価格の上昇サイクルは、需要の力学だけでなく、近年エネルギーへの資金配分が着実に減少していたため、今後は資金流入増加にも支えられる。さらに、環境規制や税制の厳格化が長期的にエネルギー価格を支えると考えられる。

Q:原油以外のコモディティーについては?
A:FRBのタカ派的な反応により、米国のインフレ調整後の実質利回りが上昇するため、われわれは金に対してより弱気になる。銅などの非鉄金属は過去10年間で中国中心になってきており、中国の信用サイクルがピークに達していることから、2021年にかけて非鉄金属は弱気相場になるだろう。もう一つの疑問は、インフレをどうやってヘッジするかということだが、当社では、ブレークイーブン・トレードを選好しており、インフレ指数連動国債(TIPS)が非常に割安に思われる。当社では、5年物を推奨している。10年物国債利回りはショートしており、年末までに40ベーシスポイント(bp)上昇すると予想する。

Q:地域別ではどうか?
A:米国以外の株式市場に目を向けるのも良い。というのも、今回の回復はそのスピードの速さだけではなく、回復のスピードが世界各国で異なるという点でも特異だ。今回のコロナ禍には中国が最初に入って最初に脱出した。欧州は第3四半期までに米国に続いて経済が好調になるだろう。ユーロ圏の株式の上昇余地は15%とわれわれは予想している。当社では、輸出企業よりも国内企業、中核諸国よりも周縁諸国を重視している。

Q:政策上のミスの可能性をどうみるか?
A:本当に憶測にすぎないが、インフレは本当に一過性なのか。それが分かった時には、もう手遅れかもしれない。見通しベースではなく、結果ベースの枠組みの場合、遅れをとることになるのではないか。市場は雇用問題に十分な時間を割いていない。FRBが物価と雇用の二つの使命を負っていることを考えると、労働市場の予想を上回る強さは、実際にはインフレよりも重要な転換点となる。金融危機後の需給ギャップの解消に8年かかった。しかし、今や先進国市場で需給ギャップは解消しつつあり、米国と中国ではかなり速い。

Q:FRBは金利正常化の可能性について言及し始めたが。
A:米国の最初の利上げは2023年後半と予想している。当初は2024年としていたのだが。新興国市場でも中央銀行は先進国市場よりも早くタカ派になりつつある。私がインフレをそれほど心配していない理由の一つは、米国のインフレ傾向は、他の地域のデフレやディスインフレの影響と対峙しているからだ。海外の需給ギャップはなお大きい。

Q:新興国市場に強気の姿勢を見せているが、今後の展開についてどう思うか?
A:新興国市場をあきらめないでほしい。経済活動再開やワクチンの導入に課題があるため、新興国の株式は先進国の株式に比べて6%低いが、世界的な背景を見ると、株式、新興国市場、バリュー、コモディティー、景気循環銘柄に有利だ。格好の買い場が出現しつつある。当社は、ブラジル株式をオーバーウエートに変更し、新興国の社債に関する中核的見解は引き続きオーバーウエートに据え置いている。

Q:米国の株式はどうか?
A:S&P500指数の当社の目標は4400だが、2021年の1株当たり利益(EPS)を200ドル、2022年は225ドルと予想している。当社の米国株式のチーフ・ストラテジストであるドゥブラフコ・ラコスブヤスは、2023年のEPSを245ドルとみている。2022年には全ての景気刺激策が終了することへの懸念があるが、景気サイクル後期の動きについて語るのは時期尚早だ。他の指標を見てみると、企業は、投資家から配当や自社株買い、M&A(合併・買収)によって余剰資金を放出するよう圧力を受けるだろう。S&P500指数構成企業の多くは記録的な利益を上げており、金利の低下により利払い能力も向上している。また、資本還元を強化する圧力もかかっている。企業は既に年初来3500億ドルの自社株買いを発表しているが、2020年全体でも3070億ドルだった。サービスの消費は遅れているので、娯楽、レジャー、不動産サービスは回復するだろう。利益のモメンタムは、消費者と同様に、数年先までかなり良好に進んで行くと思われる。当社の米国エコノミストであるジェシー・エドガートンが発表したレポートによると、企業の負債が史上最高水準にあるにもかかわらず、金利カバー率は1960年代のような水準で、家計の負債は40年ぶりに低水準だ。つまり、高いバリュエーションにもかかわらず、株式市場のパフォーマンスはもっと長く続く可能性がある。

Q:回避すべき投資は?
A:債券市場は多くの部分で価値を見出すのが難しい。格付けの高いクレジット市場は、過去最高値に近づいている。われわれは、パンデミックに対応した投資の一部を中止し、経済活動再開方向にシフトした。インフレ対策として、ブレークイーブン・トレードは意味があると考えている。意外なことに、ドルがあまり大きな話題になっていない。FRBが優柔不断な動きから一転してタカ派に転じたことは、ドルにとっては強気への分岐点となる。ユーロについては中期的には強気で、今後1年間は1.16ドルと予想している。

 

ウォール・ストリート・ジャーナル
バロンズ・ダイジェスト