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WEEKLY 2021年6月13日号

債券市場は今年後半の経済減速を示唆

Strange Bond Moves Could Signal Slower Second-Half Growth

住宅バブルも縮小し始めた

目が離せないインフレ

George Frey/Getty Images

イエレン米財務長官は、「若干高い金利環境を招いたとしても、社会的観点や米連邦準備制度理事会(FRB)の視点で見るとプラスになるだろう」と語り、金利上昇を容認する姿勢を示している。現在は財務長官を務める前FRB総裁は、先週のブルームバーグのインタビューで、「われわれは低過ぎるインフレ率と金利に、10年間格闘している」と語った。以前なら戦時中に限られていたようなレベルの金融・財政の拡大にもかかわらず、政府の政策はインフレを高進させることしかできないようだ。

消費者物価の上昇率は年率5%と2008年半ば以降で最も高く、常識的に見て低過ぎるとは言えない。FRBの政策立案担当者は最近の物価上昇を「一時的なもの」と片付け、昨年のパンデミック(世界的大流行)で抑制された物価水準との比較の効果や供給面のボトルネックが解消されれば、物価は落ち着くとしている。別の見方は、物価動向は目が離せないとする。ドイツ銀行は「インフレから目を背ければ、世界経済は時限爆弾の上に座ることになる」と警告している。

投資家が低利回りの債券を購入する理由

危険信号が出ていれば、債券市場が最も騒々しいはずだが、その逆だ。10日木曜日の消費者物価指数(CPI)の発表後、指標である10年国債の利回りは1.43%に低下した。これは3月初め以来、最低水準であり、3月末に付けた直近最高の1.745%から急落している。利回り低下は債券価格の上昇を表わし、着実なインフレ率上昇や経済回復の兆しに基づく予想とは異なる。

いずれにせよ債券利回りの低下が続くことは、株価には好材料だ。S&P500指数は同日に最高値で引けたが、ハイテク株が人気となり長期金利低下でバリュエーションが上昇した。同時にシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー指数(VIX指数)は、パンデミック前以来久しぶりとなる16前後の水準に急落した。

こうした楽観論(あるいは自己満足)が強い中で、「なぜ合理的な投資家が、インフレ率を大幅に下回る利回りの債券を買うのか」という疑問が残る。木曜日遅くに利回りが2.13%を付けた30年国債でさえ、同日実施された入札では大量の需要を集めたが、これは物価連動国債(TIPS)市場が示唆する今後10年間のインフレ率2.35%さえも下回る。

信用格付けが投資適格の社債にも巨額の買いが入ったものの、国債利回りに上乗せされるスプレッドは記録的な低さである。定かではないが、理由の一つは企業年金に余裕が生まれたことだろう。これは株価が史上最高水準となり年金資産の評価額が増大していることや、先に金利が上昇したことで将来給付債務の正味現在価値が減少したことによる。バンク・オブ・アメリカによれば、5月末時点で民間年金プランの積立水準は98.8%だった。4月末では98.4%、直近で最低となった昨年7月末は82%であった。

企業は、個人が保険会社から年金を受け取る個人年金保険に年金資産を移すことができる。バンク・オブ・アメリカのクレジット・ストラテジー・チームのレポートによれば、これによってバランスシートの不安定さや年金会計がもたらす利益面の負担など、企業にとっての悩みが効果的に取り除かれる。保険会社にとっては大きなビジネスであり、保険会社は引き受けた個人年金保険の運用のために債券を購入する。

経済減速の兆候

最大の要因は、そうしたテクニカルな要因ではなく、インフレを加速させるファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)だろう。結局は、FRBのバランスシートが7兆9000億ドルとパンデミック前からほぼ倍増することや、財政赤字が過去最大だった昨年の3兆ドルを上回りそうなのは、想定の範囲内だということである。最近の債券市場も同じシナリオのように見える。10年国債の利回りは2020年末時点のわずか1%未満から1.75%近くまで上昇したが、エコノミストや市場参加者が予想したように2%に向けて上昇を続けることはなく、1.5%を下回る水準に低下した。

尊敬すべきローゼンバーグ・リサーチのデービッド・ローゼンバーグ氏は、債券にとっての「暗いニュース」、すなわち財政・金融政策による巨額の資金供給、経済の2桁成長、賃金上昇の広がり、インフラ投資の増加、およびワクチン接種の拡大により経済活動の再開が進展していることは、既に市場で債券価格に織り込まれていると語る。同氏は「織り込まれていないのは、今年下半期の成長減速だ。誰が5月の自動車販売台数が8%減少すると予想しただろうか」と記している。

同様にエコノミストのA・ゲーリー・シリング氏は顧客向けレターで、何よりも高騰した住宅価格のバブルは縮小し始めていると記している。4月の中古住宅販売戸数が3カ月連続で減少した一方、住宅着工件数(季節調整済み、年率換算)は前月比9.5%減少した。加えて、住宅建築許可件数は減少基調にある。

最近の債券市場が発する不可解なメッセージは、インフレは明らかに第1四半期の金利急上昇に織り込まれたということだろう。その後の利回り低下は、今年後半以降の経済の減速を示している。債券の利回り低下は世界的な現象であり、経済への影響が米国以外にも広がっていることを示唆する。

あるいは、イエレン財務長官がインフレ率と金利上昇の容認を表明したのは、政府のミッションが半分しか達成されていないということなのかもしれない。

 

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