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WEEKLY 2021年5月30日号

増税だけではバイデン氏の予算案を賄えない

Tax Hikes Alone Won’t Pay for President Biden’s Budget Plan

債券市場は国債大量発行を警戒

キャピタルゲイン増税の落としどころ

Alex Wong/Getty Images

かつて「債券投資は決して失敗しない」という格言があった。元々は第2次世界大戦の米国戦時国債の宣伝スローガンだったが、現在は「避けられない財政赤字を埋めるため、政府は常に国債を大量発行する」という意味になるかもしれない。バイデン大統領初の予算案は次期会計年度に6兆ドルの歳出を計画する一方で、1兆ドル規模の財政赤字を伴う。債券市場は再び際限ない国債の発行に直面することが予想され、政府の資金調達が現在の歴史的低金利に依存していることが浮き彫りになっている。同様に、史上最高値水準にある株価や過熱する住宅市場もこの低金利に依存している。

AGFインベストメンツの米国担当チーフ・ストラテジストであるグレッグ・バリエール氏は、現実には予算案は「希望みたいなもの」とみる。同氏は、「バイデン大統領は、満額は認められないと分かっているが、党内左派に対して自身が彼らの側にいると確信させたいのだろう。左派は大統領と民主党中道派ジョー・マンチン上院議員や共和党との妥協に否定的なため、大統領としては左派の機嫌を取っておく必要がある」とメールに記し、マンチン上院議員と上院の議席数で拮抗(きっこう)する共和党の反対に言及した。

ゴールドマン・サックスのエコノミスト、アレック・フィリップス氏は、「6兆ドルの歳出案に、おそらく目新しいものはない」とリサーチノートに記している。議会予算局による2022会計年度(2021年10月1日~)の歳出ベースライン5兆500億ドルに、今年成立した1兆9000億ドルの追加経済対策「米国救済計画(アメリカン・レスキュー・プラン)」のうち2022会計年度には5290億ドルの歳出が加わる。既に政府は議会に対して1180億ドルの裁量的歳出の追加を要求しており、合計で5兆7000億ドルとなる。残りの3000億ドルは、おそらくバイデン大統領が示した概算4兆4000億ドルの「米国雇用計画」と「米国家族計画」を反映するものだろう。

株式市場が注目したのは、予算案はキャピタルゲイン税率の引き上げが4月28日にさかのぼって適用されることを前提にしているというウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事である。増税案は年間所得が100万ドルを超える個人のキャピタルゲインに対し、通常の所得税率で課税するというものだ。AFP通信も個人所得税の最高税率が、2017年税制改革法(TCJA)で37%に低下する前の39.6%に引き上げられると報じた。医療保険制度改革法(通称オバマケア)の投資所得に対する加算税率3.8%を含めると、富裕層のキャピタルゲイン税率は現在の23.8%から43.4%へ急上昇することになる。

本コラムで数週間前に取り上げたように、キャピタルゲイン税率引き上げはまだ決定されていない。スタイフェルのチーフ政策ストラテジストであるブライアン・ガードナー氏は、「効力発生日をいつにするかは、激しいロビー活動のテーマになる可能性が大きい」と顧客向けノートに記している。同氏は、議会が増税案に同意する可能性は大きいが引き上げ幅は提案より小幅になるとみられ、1986~1997年の税率だった28%になる可能性が極めて大きいと加える。課税対象の投資家が保有するのは、米国株式の25%にすぎないことから、多少の税率引き上げによる影響は限定的だろう(他に米国株式を保有するのは退職基金、寄付基金、外国人投資家)。

マイナス金利が支える財政計画

債券市場が、今後10年で連邦政府債務を国内総生産(GDP)の117%に増加させるバイデン大統領の財政計画を懸念する一方、イエレン財務長官はリスクは大きくないとみている。同長官は木曜日の下院歳出小委員会で、「実質金利がマイナスであるため、政府提案は財政面から信頼できる」と語った。これは長期国債の利回りが1.60%と、目標インフレ率の2%を下回るからだ。イエレン氏は、財政負担の重さを見るには政府債務の対GDP比よりも、実質利払い費用が良い尺度だと主張する(10年物インフレ指数連動国債=TIPS=の実質利回りはマイナス0.84%)。

しかし、それは現在の異常な実質マイナス金利によるものにすぎないと、クリントン政権で財務長官を務め、民主党の財政計画に批判的なローレンス・サマーズ氏は反論する。同氏は木曜日に、「米連邦準備制度理事会(FRB)は短期金利の目標をゼロ近辺に設定する一方、巨額の証券買い入れによって長期金利も抑えている」と語った。

サマーズ氏は米国経済が夏の終わりまでに成長トレンドに戻ると予想するが、バイデン大統領の歳出案が経済を「過熱させる」リスクがあると繰り返した。同時に「金融政策と財政政策はアクセルを踏みきって」おり、FRBは現在の物価上昇を一時的と主張しているが、今後一層のインフレ上昇を引き起こす可能性があるとも語る。そして、バイデン大統領は増税を計画するが、サマーズ氏は増税は「後ろ倒し」になって短期的な景気過熱リスクに対処できないと指摘する。

低金利に依存する予算案と債券・株式市場

しかし、結局バイデン大統領の予算案の欠点は、債務返済コストが抑制可能という、バリエール氏が「非常に疑わしい前提」と呼ぶものに依存している点だ。同氏はベビーブーマー世代が退職して社会保障費やメディケア(高齢者向け医療保険制度)支出が拡大し、米国政府債務は30兆ドル以上に押し上げられると主張する。

同氏は「異常な低金利が持続しない限り、財政の大盤振る舞いは成立しないだろう」と書いた。また、パウエル議長が率いるFRBは短期金利目標を2023年まで可能であれば0%近くに維持して、「完全雇用」と2%とするインフレ目標を目指して「大胆な」政策を志向していると同氏は書いている。

しかし、もしサマーズ氏が予測するように超緩和的金融・財政政策によって景気が過熱すれば、大量の債券に対する市場の買い意欲がどこまで続くかが問題だ。バリエール氏は、「それがバイデン大統領の予算の欠陥だ。もしFRBが景気過熱を許容し、財政支出増加が続けば、金利はいずれ上昇を余儀なくされるが、その場合の問題は金利上昇が緩やかにとどまるか大幅になるかだ」と書く。

クリントン大統領時代の初期にジェームズ・カービル元民主党アドバイザーが、「生まれ変わるなら以前は大統領やローマ法王、4割打者になりたいと思っていたが、今は債券市場になって皆を恐怖に陥れてみたい」と言って注目を集めたが、バイデン大統領の下でこの発言が再度注目されるかもしれない。

株式市場は米国の長期的な財政状況について懸念を示さなかった。先週主要株価指数は全て上昇したが、テクノロジー企業が多いナスダック総合指数は5月の月間パフォーマンスがプラスに転じるほどの勢いではなかった。

株式投資信託への多額の資金流入は継続しており、バンク・オブ・アメリカによると、最新の週間流入額は179億ドル、年初来の流入額は5120億ドルとなった。実際、同行の個人顧客の株式購入額は2012年以降で4番目に多かった。このような熱狂の兆候は逆張り投資家のアンテナには引っ掛かる。

根拠の有無は別にして、熱狂とFRBの資金供給にあおられたセクターも勢いを失っており、ストラテガス・インベストメントのジェイソン・トレナート氏によると、直近の高値からIPOX SPAC指数は24.5%、上場投資信託(ETF)のインベスコ・ソーラーETF<TAN>は35%、ARKイノベーションETF<ARKK>は28%、電気自動車(EV)メーカーのテスラ<TSLA>は29%下落した。同氏は投機的なセクターが若干落ち着きを取り戻せば強気市場継続の手助けになると結論付けた。

しかし、先週いわゆるミーム銘柄で騒ぎが再燃しており、ゲームソフト小売り大手ゲームストップ<GME>は25.6%、映画館チェーンのAMCエンターテインメント・ホールディングス<AMC>は114.7%高騰した。これらは以前は取るに足らない銘柄だったが、価値が膨張して今では市場の主要銘柄に押し上げられている。

iシェアーズ・ラッセル2000ETF<IWM>は小型株をカバーするETFの中で最も人気だが、ゲームストップは2番目、AMCは8番目に保有額が大きい銘柄となっている。

全ての好条件がそろう株式市場

株式市場は全ての好条件がそろっており、最大限の金融・財政刺激策、経済成長のピーク、高水準の製造業・サービス業購買担当者景況指数(PMI)、加えてハイイールド債の信用スプレッドは歴史的に低く、10%台のシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー指数(VIX指数)が示すようにボラティリティーも落ち着くなど、金融環境も穏やかだ。BCA米国株式ストラテジストのアナスタシオス・アブゲリオー氏は、これらの指標は楽にもうかる状況が終わった事を示唆すると書き、「今後S&P500指数が10%動く時は上昇ではなく下落と思われる」と結論づけた。

投資家は利益を確定して現金比率を高め、夏後半のより良い投資機会に備えたほうが良さそうだ。

 

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