サンプル(過去記事より)

WEEKLY 2024年12月1日号

大統領選後に急騰したテスラとビットコイン

Tesla and Bitcoin Have Soared. We Size Up the Valuations.

大幅に割高な両者はどこまで上がるのか

大統領選後、大幅上昇したテスラ株とビットコイン

Allen J. Schaben / Los Angeles Times / Getty Images

筆者は大したランナーではないが、20代の頃、ニューヨーク・シティー・マラソンを完走したときは達成感を感じた。しかし、最も鮮明に覚えているその日の出来事は、タイムはどうでもよくて、ゴールで8フィート(約2.4m)の発泡スチロール製の恐竜と「80歳の若者」のロゴ入りの自家製Tシャツを着た人物に両側からもみくちゃにされたことだ。

その日、ティラノサウルスと80歳には感銘を受けた。しかし今、金融市場では風変わりな株価上昇のオリンピックが開催されており、本来であれば素晴らしいパフォーマンスなのだが、それが吹き飛びかねない状況だ。

電気自動車(EV)大手のテスラ<TSLA>と代表的な暗号資産(仮想通貨)のビットコインは大統領選前日からそれぞれ、35%、39%上昇している。対して、S&P500指数の上昇率は5%だ。

次期大統領のドナルド・トランプ氏は、EV向け販売奨励金と税制優遇措置を廃止する可能性が高い。EVの拡販で先頭を走るテスラは競合他社に比べ、ダメージは少ないだろう。ウェドブッシュ・セキュリティーズのアナリスト、ダン・アイブス氏は「明確な競争優位がある」と指摘する。さらに「テスラにとって金のガチョウは迅速な自動運転戦略で、トランプ政権下でも完全に機能すると見込んでおり、それだけで向こう数年にわたり、テスラの株価に1兆ドルの価値をもたらすと予想する」とリポートに記す。テスラの直近の時価総額は約1兆2000億ドルだ。

ビットコインについては、トランプ氏が9月にマンハッタンのバーで暗号資産を支持する男性たちにビットコインで買ったハンバーガーをおごり、関心を呼んだ。JPモルガンの暗号資産チームは11月12日付リポートで「トランプ政権と共和党が支配する議会が米国での規制の明確化を支持し、その結果、暗号資産の取引や採用が進むはずだと市場は考えたようだ」と記した。

ビットコインのベンチマーク化も起き始めている。あるストラテジストによれば、ビットコインはイーサリアムをしのいでおり、両者の価格比は「以前の主要なサポート水準に達するまで」拡大している。そこから、イーサリアムに価値があることが分かるというものだ。そうだとすれば、今年300%以上上昇している茶番とも言える暗号資産のドージコインに比べ、どちらの暗号資産もかなり割安だ。

暗号資産「ピーナッツ・ザ・スクイレル」はこのバリュエーション分析にどのように当てはまるだろうか。2017年にニューヨーク市で親を亡くしたリスをある男性が飼い始め、その後インスタグラムで有名になった。そして、州環境保全局の摘発を受け、リスは安楽死させられた。それが、政治的右派から政府の過干渉の象徴とされたのだ。このリスをたたえて作られた暗号資産のピーナッツはごく自然に10億ドル以上の市場価値を持つに至った。政治色を出すのは好まないが、リスの動画がこれほどの資金を集めることができるのなら、私もセントラルパークに面した邸宅で知られるジョン・ジェイコブ・アスターのような大富豪になれたはずだという考えが頭をよぎった。

バリュエーションは正当化できるか

バリュエーションが不可解だと言うのはよそう。粘着テープで壁に貼り付けられたバナナが競売商サザビーズで620万ドルで落札されているのだから。シルバークレスト・アセット・マネジメントのチーフ・インベストメント・ストラテジストを務めるロバート・ティーター氏はこの件について、洗剤付きたわしのブリロが参考になる、と示唆する。アンディ・ウォーホルは、食品大手のキャンベルスープ<CPB>のスープやハインツ<KHC>のケチャップに芸術的なひらめきを見出したことで有名だが、かつて、このスチールウール製たわしの外箱を木箱で再現した。1969年に1000ドルで購入された作品は、2010年に競売商クリスティーズで300万ドル以上で落札された。利益としては、年平均複利利回りで21%で、対してS&P500指数はわずかに10%以下だ。

粘着テープで貼り付けられたバナナに何の意味があるのか、あるいは、1週間と日持ちしない資産の複利利回りをどのように計算したらよいのか見当もつかない。ティーター氏は「現在の市場の最高値を当てようとしてもうまくいかない」と記している。

あるテスラ株弱気派は政治的なストーリーに反論し、最近の株価急騰が将来の販売にどんな意味を持つかを検討している。UBSのアナリスト、ジョゼフ・スパク氏は、もしEV向け補助金の廃止がテスラに有利に作用するなら、あくまでも相対的な話であって絶対的なものではない、と指摘する。テスラは需要喚起のために既に値下げしている状況だからだ。新政権が自動運転車に対する規制を緩和する点について、スパク氏は「実のところ、自動運転に対する『緩和』すべき面倒な連邦規制は特にない。さらに、規制変更により自動運転の技術的な課題が即座に解決されたり、解決に要する時間が短縮されたりすることもない」と語る。

テスラの自動運転タクシーの可能性を評価するのは簡単ではない。スパク氏は最近の例を挙げて、1000億ドルの価値があると主張する。アルファベット<GOOGL>傘下の自動運転企業ウェイモの評価額が450億ドル、ライドシェア大手のウーバー・テクノロジーズ<UBER>の時価総額が1570億ドルだ。スパク氏は、自動車事業はウーバーの企業価値の12%しか占めていないと試算し、過去に自動車事業の比率が17%を下回ったときに株価も下落傾向にあった点を指摘する。

スパク氏は、テスラが単純に自動車販売を増加させ、バリュエーションを正当化しようとした場合、コンセンサス予想の480万台に対し、2030年までに年間約1550万台の納車が必要になると試算する。スパク氏の目標株価は最近の株価を100ドル以上下回る。

誰にも分からないが、恐らく自動運転タクシーはまもなく実現するかもしれない。あるいは家庭用の太陽光発電や蓄電池、オプティマスの人型ロボットといったテスラの他のベンチャー事業が予想より上振れするかもしれない。イーロン・マスク氏がトランプ政権に参画することにより、今はまだはっきりしないが、事業にメリットをもたらすかもしれない。

最近10万ドル近辺で推移するビットコインは、価格上昇を予想するのが厄介だ。暗号資産の市場規模は総額で3兆5000億ドルであり、アップル<AAPL>のように利益を生んでいる企業や小型株のラッセル2000指数を構成する全企業と、暗号資産の市場規模を比較してみてもいいかもしれない。ただ、そうしてみても、ビットコインが次にどこへ向かうのかは分からない。アーク・インベストメント・マネジメントの最高経営責任者(CEO)、キャシー・ウッド氏は2030年までに380万ドルだと言い、バークシャー・ハサウェイ<BRK.B>のCEO、ウォーレン・バフェット氏は結局はゼロだと言う。その間くらいだろうか。

ビットコインについての筆者の唯一の確信は、ピーター・パン原則とも呼ぶべきものである。このように上昇し続けるのであれば、成熟することはないのだろう。正統派の金融商品は予想がしやすく、退屈だ。しかし、ならず者の資金の可能性は無限大だ。ピーター・パンの言葉のように、「世界は信仰と信頼、妖精の粉で出来ている」。ビットコインの所有者に向けて政府の支援を願いたいところだが、それは大きくはかなわないだろう。