サンプル(過去記事より)
トランプラリーを阻んだ要因とは?インフレと政治的な不確実性
株式市場を揺るがす要因:トランプ政権の人事と経済の懸念
ランプ政権の人事が市場を直撃
「トランプラリー」として知られる株式相場の上昇が先週、次期米大統領の物議を醸す政権の人事により急ブレーキをかけられた。
S&P500指数は11日に6000をわずかに超えて過去最高値をつけた後、週間では2%超下落し、15日の取引では1.3%の下落を記録した。一方、テクノロジー銘柄が中心のナスダック総合指数の下落幅はさらに大きく、週間で3%超下落した。ダウ工業株30種平均(NYダウ)は1.2%の下落にとどまった。
常に鋭い洞察を持つ筆者の同僚であるアンドリュー・バリーによれば、市場に混乱を招いた要因は、トランプ次期大統領がフロリダ州下院議員マット・ゲーツ氏を司法長官に、元ハワイ州下院議員トゥルシー・ギャバード氏を情報機関のトップに、そしてロバート・F・ケネディ・ジュニア氏を厚生長官に指名するという、物議を醸す人事案を発表したことにあるという。金融市場の純粋に金銭的なリターンの計算の視点からすれば、これらの人事を巡るほぼ確実な対立により、トランプラリーを支えている成長促進策の推進が妨げられる、もしくは遅れるリスクが生まれている。
「予測可能性」と「安定性」を好む市場
ベテランのワシントン・ウオッチャーでAGFインベストメンツの米国政策担当チーフストラテジストであるグレッグ・バリエール氏は、14日にEメールで「市場は予測可能性と安定性を好むが、トランプ氏はこの24時間でそのどちらも提供していない。最良の人材を探しているのか、それともライバルにメッセージを送ろうとしているのか?もし後者であれば、長い4年が待ち受けているだろう」と述べた。
ゲーツ氏に関する非難の詳細に触れる必要はないが、ゲーツ氏の承認の可能性はすでに低下している。予測市場「ポリマーケット」では、ゲーツ氏の指名が上院で承認される確率はわずか29%にとどまっている。このサイトは、大統領選の結果を予測する上で世論調査よりもはるかに的確だった。
少なくとも市場の感情抜きの視点で、これらのワシントンでの動きから導き出される最重要な結論は、新政権が来年前半に税制関連法案を成立させる能力が脅かされる可能性があるということだ。これは、ストラテガスのダニエル・クリフトン氏率いる米国政策分析チームによるリサーチリポートで指摘されている。
下院の議席喪失と税制法案への影響
リポートでは「フロリダ州のゲーツ氏、国家安全保障担当補佐官に指名されたマイク・ウォルツ下院議員、そして国連大使に指名されたニューヨーク州のエリス・ステファニク下院議員という3人の議員を失うことで、共和党が下院で2議席または3議席の多数派を一時的に失う可能性がある」と述べられている。ストラテガスの同チームによれば、フロリダ州ではゲーツ氏とウォルツ氏の後任を選ぶ特別選挙が5月まで行われない見込みであり、ニューヨーク州では州知事が選挙日程を最大90日間設定する権限を持つという。
ストラテガスのチームは「共和党が税制法案を進めるには、4兆ドル規模のパッケージの各条項に下院の全共和党議員が賛成する必要がある」と述べている。これは、2025年末に期限切れとなる税制改革法案(Tax Cuts and Jobs Act)の延長に関するものだ。共和党は、消費者や企業にとって確実性を維持するため、2025年前半、具体的には1月1日に停止が終了する債務上限の引き上げよりも前に、この法案の延長を成立させたいと考える可能性が高い。
一方で、債券利回りの上昇という、より現実的な要因も株式市場に重くのしかかっている。10年物米国債利回りは15日に4.5%に達し、過去に株式市場を悩ませた水準となった。この利回りは、9月中旬の最近の底から88ベーシスポイント(bp)上昇している。
債券市場の視点とインフレ進展の停滞
債券市場の視点には二つの大きな変化がある。一つは財政赤字の影響がより強く認識されていることであり、もう一つは経済が堅調である一方、インフレがさらに低下していないことである。アトランタ連銀のGDPナウは、今四半期の実質GDP(国内総生産)成長率を前期比年率2.5%と見積もっており、第3四半期の速報値である同2.8%とほぼ一致している。
一方で、インフレ低下の進展は停滞している。ブリーン・キャピタルの経済アドバイザーであるジョン・ライディング氏とコンラッド・デクアドロス氏によれば、変動の大きい食品やエネルギーを除いたコア消費者物価指数(CPI)が10月に前月比0.3%上昇し、3カ月連続で同じ伸びとなった。その結果、前年同月比の上昇率は3.3%と、6月と同水準となり、米連邦準備制度理事会(FRB)のインフレ目標である2%を大きく上回っている。
利下げ見通しの変化と歴史的な教訓
さらに債券利回りを押し上げている要因として、FRBのパウエル議長による14日のコメントがある。パウエル議長はダラス連邦準備銀行のシンポジウムで、「現在の経済の強さから、慎重に政策判断を進める余地がある」と述べ、短期金利の誘導目標の引き下げを急ぐ必要はないとの考えを示した。
これは、9月にFRBが利下げを開始した際の50bpの急速な引き下げや、11月第2週の25bpの引き下げとは対照的である。しかし、12月の利下げの可能性は大幅に低下しており、CMEフェドウオッチによれば、15日には58.4%まで低下し、1週間前の64.6%、1カ月前の85.5%を下回っている。
マクロインテリジェンス2パートナーズのリサーチノートによれば、今回のFRBの緩和策は時期尚早であり、1966~1967年の類似した事例を思い起こさせる。当時、銀行セクターの混乱と株価の下落を受け、FRBはそれまでの積極的な引き締めを反転させた。この緩和政策と、ジョンソン政権による「大砲とバター」政策の財政刺激が相まって、その後の1970年代のインフレの波を引き起こした。
株価と債券利回りの上昇は、株式リスクプレミアムがほぼゼロにまで縮小したことを意味する。ローゼンバーグ・リサーチのリポートによれば、これにより、わずか数週間前の共和党の選挙勝利後に期待されていた政治的安定が揺らぐ中、投資家にとって安全マージンが残されていない状態になっている。