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多様化するETF、個人投資家の「次の一歩」に期待-アセットマネジメントOne ETF推進センターの今井氏と杉原氏に聞く

2025年08月28日 11時45分

(左から、今井氏、杉原氏)(左から、今井氏、杉原氏)

 アセットマネジメントOneは、商品本部にETF推進センターを新設し、主力のETF(上場投信)の信託報酬を業界最安水準に引き下げる方針を打ち出すなど、取り組みを強化している。同社はこのほど、ETFの勉強会を開いた。

 ETF推進センターの今井幸英シニアエグゼクティブは、ETFの最新動向について「株式だけでなく債券や金などに資産クラスが広がり、インデックス型に加えてアクティブ型やデリバティブ(金融派生商品)を組み込んだものが登場するなど、多様化している」と指摘。「利便性や機動性の面からも、ETFが個人投資家の『次の一歩』になる可能性がある」と話した。

 また、同センターの杉原正記シニアエグゼクティブは、ETFの利用方法について「『トレーディングツール』から始まり、『ポートフォリオのビルディングブロック』へと広がってきた。さらに、アクティブETFによって新しい時代の運用ニーズに応えようとしており、市場が急拡大している」と紹介した。主なポイントは以下の通り。

◆拡大するETF市場、米国が7割占める

-世界と日本のETF市場は

今井氏 世界のETF市場の規模は、4月末時点で2314兆円だ。このうち、「米国」が約7割を占めており、次いで「欧州・中東・アフリカ」が約2割、「アジア・太平洋」が約1割となっている。

 またETFの本数は、「米国」と「欧州・中東・アフリカ」で、それぞれ約4200本と、豊富なラインアップがある。

 一方、日本のETF市場を見ると、6月末時点の規模は93兆円程度、本数は約350本だ。ある程度の規模ではあるが、海外に比べるとまだまだ成長の余地は大きい。

◆「トレーディングツール」から「ポートフォリオのブロック」へ

-米国の動向は

今井氏 米国のETF市場では、新しい商品が次々に登場している。ETFはもともと、指数に連動するパッシブ型の商品でスタートしたが、連動対象指数を持たないアクティブ型のETFもたくさん出ており、商品が多様化している。

 お客さまの資金の流れも変化している。資金流入状況を見ると、パッシブ型が約6割、アクティブ型が約4割になっている。

杉原氏 米国では、主流のオープンエンド型投資信託(ミューチャルファンド)に比べて、ETFは手数料が安い。また、現金と現物を合わせて柔軟に設定・解約ができて、税制上のメリットもある。さらに、ETFのレンディング(貸し出し)や空売りができて、ETFのオプション取引もあるなど、幅広くサービスが展開されている。

 ETFは一つの金融商品にとどまらず、投資のインフラストラクチャーになり、存在感を高めている。投資家に対して、低コストでさまざまなアセットに投資する機会を提供しているので、分散投資のポートフォリオを構成する「ビルディングブロック」として利用できることが、高く評価されている。

 市場動向を見ると、ベーシックな資産クラスのシンプルなETFでは価格競争が激化している。一方で、新しいETFの開発が盛んで、最近では新しい時代のニーズに応えて暗号資産のETFが登場した。市場のパイが大きくなり、参加者が拡大している。

◆アクティブETFが、パッシブを逆転

-新商品のトレンドは

今井氏 米国市場の過去1年間の新設ETF(約800本)の内容を分析すると、「リスクコントロール型(バッファーETF)」が約2割を占めている。デリバティブを利用して上値を制限する代わりに下値リスクも限定する。

 次いで、有名銘柄の単一株にレバレッジをかけたETFが約1割をあった。また、利金・配当金収入を期待する投資家向けに、オプション取引のプレミアム(権利金)の獲得を目指す「カバードコールETF」も登場している。

 米国では、本数ベースで、アクティブETFがパッシブETFを上回った。具体的には、アクティブETFが2085本、パッシブETFが2046本となっている(2025年4月)。

◆「アクティブからインデックスへ」の潮流に変化

杉原氏 歴史をさかのぼると、米国で最初にできたETFは、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントの「SPDR®(スパイダー)S&P500®ETF」だ。この時のETFの役割は「トレーディングツール」だった。次いで、債券やコモディティーにETFの資産クラスが広がるなかで、分散化されたポートフォリオを手軽に作ることできる「ビルディングブロック」として利用されるようになった。

 ここまでのETFは、パッシブ型が主流だったことから、資産運用のスタイルが「アクティブからパッシブへ変化した」と言われた。ただ、振り返って考えると、このとき「アクティブからパッシブへ」の動きが見られたのは、当時の市場環境の影響があったのではないか。

 当時は、コロナウィルスの流行や地政学的な出来事があったため、個別企業の業績よりも、政府や中央銀行などマクロ経済の動きでマーケットが変動した。こうした投資環境の下では、市場全体を捉えるパッシブETFを使って、低コストの分散ポートフォリオを作ることで、うまく運用できた。

 現在、市場関係者の間では「次の段階に進むに当たってこのままで良いのか」という問題意識が生まれている。市場環境が大きく変化しているためだ。アクティブETFで、ポートフォリオにオプション戦略を加えたり、リスクをコントロールしたり、時代の変化に対応した、新しい運用スタイルを模索する動きが出ている。

◆個人投資家の「次の一歩」

-日本の状況は

今井氏 日本のETF市場の残高を、運用対象別に見ると、日本株が93%を占めている。分散ポートフォリオのビルディングブロックとして使用するには、まだまだ商品がそろっていない状況だ。

 ただ、今年1-6月の純資金流入動向を見ると、金(ゴールド)のETFへの純資金流入が大きかった。日本においても、分散投資を狙った、新しい動きが見られた。

 日本の個人投資家は、少額投資非課税制度(NISA)をきっかけに資産運用に取り組み始めた段階で、手数料の安いパッシブファンドが人気だ。ただ、その次のステージで投資家に提供する商品は、まだ見えてきていない。ETFであれば、どこの証券会社であっても購入することができる。利便性や機動性の面からも、ETFが個人投資家の「次の一歩」になる可能性があると見ている。

◆デリバティブ利用と集中投資制限を緩和

-アクティブETFの動向は

今井氏 世界のアクティブETFは、2025年6月時点で3774本あり、純資産残高は222兆円だ。

 一方、日本のアクティブETFは、2025年7月時点で19本、純資産残高は550億円だ。内訳を見ると、日本株のテーマ型が8本、日本株の高配当が4本、米国債券が5本、国内REITが2本になっている。2023年にスタートしたばかりで、設定条件が厳しく、まだ規模が小さい。

-日本の規制緩和は

今井氏 東証は今年5月、上場規則上のアクティブETFのデリバティブの利用条件と集中投資の制限を緩和した。

 今回の規制緩和によって、上場規則上デリバティブの利用については、商品性が平易でリスクがコントロールされるものが上場可能になった。例えば、米国で人気のバッファーETFやカバードコール型のETFを上場させることができる。集中投資については、情報開示を満たすことで、ETFの純資産の20%以下まで同一銘柄に投資できる。

 こうした商品を提供するに当たっては、お客さまに商品性を正確に理解していただくことが欠かせないと考えている。

◆業界最安水準の信託報酬、流動性を高める

-アセットマネジメントOneの対応は

今井氏 アセットマネジメントOneは今年6月、ETF推進センターを新設した。今後、ETFの商品ラインアップを拡充していく。

 7月9日には、「One ETF」シリーズの8ファンドについて、①取得・交換の申込不可日の変更 ②取得・交換の申込締切時間の変更-などを実施した。マーケットメーカーが活動しやすい環境を整え、流動性を高めた。

 さらに10月9日には、「One ETF 日経225」と「One ETFトピックス」の信託報酬率を業界最安水準に引き下げる。

 調査会社のE&Yは、2030年までに米国のETF市場は2.4倍、欧州のETF市場は1.7倍に拡大すると予想している。日本のETF市場も、海外と同様にさらなる成長が見込まれる。

 現在は、日本が昼間の時間帯でも、米国や欧州のかなりの数のETFをリアルタイムで売買できる。ETFは国際商品であり、グローバルな競争が激しさを増している。

 ただ、日本の投資家にとって、日本籍の円建てのETFは、一番効率的に資産運用できるツールだ。日本の運用会社である当社は、こうした商品を有利な立場で設定できる。この優位性を最大限活用し、お客さまの資産形成に役立つ商品を設定していきたい。

 

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