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ウェルビーイングの実現と女性起業家の活躍が不可欠=VUCA時代を生き抜くために-EWW Japanリーダーの関口氏

2025年02月06日 11時00分

関口依里氏

 EYは、将来性のある女性起業家を支援するプログラム「Entrepreneurial Winning Woman(EWW)」をグローバルに展開している。EWW Japanリーダーを務めるEY新日本有限責任監査法人の関口依里氏に「働く女性を取り巻く環境の変化」と「女性起業家の育成に必要なこと」を聞いた。

 関口氏は「世界情勢の変化や人工知能(AI)やITなどのテクノロジーの急速な進展により、ビジネス環境は大きく変化し、物事の不確実性が増している。急激な変化が起こり得るなど、男女に関係なく、先が見えない時代になっている」と指摘。

「変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)が高まる『VUCA(ブーカ)時代』を生き抜くためには、先進諸国にはウェルビーイングが求められている。また、日本が持続的に成長していくために、イノベーション精神にあふれた女性起業家の活躍が不可欠である」と話した。主なポイントは以下の通り。

◆職場環境整備、リーダーシップ、意識改革

-「女性の働きやすい社会」に向けた取り組みは

関口氏 私は2013年から3年間、EYで働く女性メンバーのための社内ネットワーク「WindS」の代表として、「働く女性の環境整備」と「働きがい」を求めて、草の根活動に取り組んだ。また、その頃、NPO法人J-Winに参加する機会を得て、さまざまな企業のダイバーシティーへの取組に触れるとともに、企業で働く約200名の女性の同志と交流した。

取り組んできた施策は、主に三つだ。一つ目は、女性の働きやすい職場環境の整備だ。目安箱を設置して職場の意見を吸い上げ、人事を始めとする関係部署に働きかけて改善を促した。二つ目は、女性のリーダーシップを高める施策だ。女性特有の要素を組み込んだリーダーシップ研修については、外部の教育機関に協力を求め、「WindS」として実施した。三つ目は男性管理職の意識改革の促進だ。女性が活躍できるかどうかは、実は男性の意識が変わるかどうかが、重要なポイントになる。当時は全社員に働きかけることは難しかったので、トップ及び協力してくれそうなサポーターと位置付けた男性エグゼクティブを巻き込むことにした。

 あれから10年以上の時が過ぎ、当時「WindS」が取り組んでいた施策は、法人が正式にそれぞれの部門で扱う案件に昇華している。時間単位で休みが取れるようになったり、ベビーシッターの補助制度が導入されるなど、働きやすい制度が整備されている。また、女性育成のための研修プログラムやスポンサーシップ制度など、いくつものメニューが法人の制度として根づいている。さらに、コロナ禍後は、従来できないと考えられていたリモートワークが普及したことにより、ある程度自分で働く場所を選ぶこともできるようになっており、個人の裁量が増してより働きやすい環境になった。

◆仕事、人生、家族

-VUCA時代を生き抜くために必要なことは

関口氏 ウェルビーイング(幸福度)については、自分で感じる、主観の部分も多いと思う。人生100年時代に充実した人生を送れていることが大切だ。

 改めて考えて見ると、「仕事・人生・家族」がそれぞれ順調かどうか-ということに左右されるのではないかと思っている。この全てにおいて「信頼」がベースになっており、信頼を獲得できるかどうかがポイントと言えるだろう。

 仕事については、女性の場合、三つの時間軸で考えられるのではないか。20~30代は「深める時期」だ。仕事にまい進し、インプットをたくさんして、専門性を磨き、ベースを作る。30~40代は「広げる時期」だ。会社だけでなく業界や異分野にネットワークを持って人脈を広げ、外からの刺激を感じることも重要だろう。

 女性の30~40代はさまざまなライフイベントがあるが、社外のネットワークがあると、心の支えになる。「社内の常識は社外の非常識」であったり、その逆もあったりする。いつも同じ人に囲まれ視野が狭くなるとつらくなることもあるが、社外に目を向けることで前向きにがんばれることもある。

 50代以降は「自分の仕事を社会に還元する時期」だ。こうしたことを、仕事の時間軸の中で取り組むことで、信頼を獲得し、充実した人生を送ることができるだろう。また、ウェルビーイングな状態にあると自分自身で思えることが大事だと思う。

◆信頼がベース

-女性起業家の活躍のために必要なことは

関口氏 日本経済の発展のために、女性起業家の活躍は不可欠だ。人口の半分が女性であることからも明らかである。女性起業家の活躍のためには、特に「信頼」が重要だ。

 スタートアップの段階では、「人もいない」、「お金もない」、「モノもない」、プロダクトは開発中ということもある。一緒に伴走してくれる人を探すのは、女性が社長だと大変であったりもする。そんな中、例えば、資金調達したり、新しい取引先と仕事をしたりするには、「社長を信頼できるかどうか」にかかっている。

 信頼を獲得するには、「うそをつかない」「都合のいいことばかりを言わない」ということが大切だろう。「どういうことで悩んでいるか」を打ち明ける人の方が、手を差し伸べてもらうチャンスがあるように思う。サポートを受けた時に、きちんと結果を報告し、お礼が言えることも、信頼につながるだろう。

 また、熱いパッションが大切だ。「この課題を解決するために生まれてきた、自分がやらずに誰がやるか」、人生をかけた強い思いを持つ女性起業家に数多く出会ってきた。世の中を変えるチェンジメーカーになってくれるだろう。

◆女性起業家に光を当てる

-女性起業家を支援する取り組みは

関口氏 EYでは、将来性のある女性起業家を支援するプログラム「Entrepreneurial Winning Woman(EWW)」をグローバルに展開している。2008年に米国でこの活動をスタートした。2020年時点では、48カ国で750人の女性起業家を支援している。

 日本では2013年にこの活動をスタートした。私は、2018年からEWWJapanリーダーとして、女性起業家を支援している。

 EYJapanでは、女性起業家に信頼を付与する活動の一つとして、女性起業家の表彰プログラムを実施している。審査の結果、毎年5人の女性起業家を選出しファイナリストとして表彰している。ファイナリストになった方から、経産省の「Jスタートアップ」に選ばれる起業家や、その後さまざまなメディアに取り上げられる方も出てきている。女性起業家に光を当てることは知名度や信頼性向上の観点から重要だと考えている。さらに、この中から、アジア太平洋地域の女性起業家が集まるEYグローバルプログラムにも参加してもらうことで、国際的なネットワークも広げてもらっている。

 近年、官民大学でさまざまなスタートアップ支援が提供されている。「継続は力なり」、この手綱を緩めずに続けていくことが大切だ。ここ日本でEWWが活動を開始してから10年、振り返るとパイプラインは確実に太くなっていると感じている。スタートアップのビジネスの多くは計画通りに順調に進むわけではない。資金の提供者に対しては、もちろん企業を見極めた上で、時には支援をしながら、じっくりと待つ姿勢で臨んでいただきたいと思う。

◆投資家との対話は、企業を変える力になる

-運用会社のエンゲージメント活動に対する評価は

関口氏 資産運用会社は、投資先企業との対話を通じて、女性取締役や女性管理職の割合を高めるように求めている。企業の中からだけでは変われないこともある。外圧が大きな力となり、企業に意識改革を促し、人材育成計画の変更など行動変容を促していると感じる。これらは、非常に評価される取り組みだと思っている。女性の活躍により組織が活性化し、透明性が増して発想も豊かになる。結果的に企業価値の増大に寄与していくことが期待される。

 

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