米国経済はソフトランディングへ=2025年のマクロ経済見通し-BNPパリバAMのモリス氏
2024年11月07日 09時00分
欧州の大手金融グループ、BNPパリバ・アセットマネジメントのチーフ・マーケット・ストラテジストのダニエル・モリス氏がこのほど来日し、2025年のマクロ経済の見通しを語った。この中で「米国経済はソフトランディングし、株式にとってプラスの環境が続くだろう」と語った。主なやりとりは以下の通り。
-米国経済の見通しは
モリス氏 一番重要なことは、連邦準備制度理事会(FRB)が利下げ基調にあることだ。米国経済は、ソフトランディングすると見ており、株式にとってプラスの環境が続くだろう。懸念点があるとすれば、米国経済が力強過ぎることで、市場が期待する程度にFRBが利下げをしない可能性が出てくることだ。
過去5回のFRBの利下げ局面のうち、4回はリセッション(景気後退)になった。その間の各アセットのパフォーマンスを見ると、5回のうち2回は株式が好調だった。この2回は、リセッション入りするまでの期間が長かったことが、特徴だ。
2024年の第3四半期のGDP成長率は2.8%だった。第2四半期と同水準を保っており、成長は鈍化していない。インフレが落ち着くためには、成長率がさらに減速することが必要だろう。
米国の成長に最も貢献しているのは、個人消費だ。バイデン政権がスタートしたときに実施した景気刺激策の効果が、遅行して現在も継続しているようだ。これに加えて、労働市場が堅調で求職者が就労できているので、消費に良い影響を与えている。
米国のコア・インフレ率は、2.7%程度で5カ月ほど横ばい状態になっている。これが2%程度まで低下することが必要だろう。ただ、コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で、ロックダウン(都市封鎖)が行われたり、過去に例のない大規模な財政・金融対策が打ち出されたりしたことで、従来の経済モデルを使って、先行きを予想することが非常に難しくなっている。
AI(人工知能)への投資だが、米国経済に与える影響は、まだそれほど大きくはない。ただ、企業投資の中身を見ると、情報処理装置やソフトウエアが大きな割合を占めている。こうした効果が出てくるのは、これからだ。AIは、人手不足を補うために人間がやっていた仕事を担うと言われている。米国の労働市場は、ダイナミックな柔軟性を持っており、日欧よりも早くAIを取り入れていくだろう。
-欧州経済の見通しは
モリス氏 欧州各国の購買担当者景気指数(PMI)を見ると、サービス部門については、判断の基準となる50を総じて上回っているが、製造業部門は多くが50を下回っており、景気減速を示唆している。
ただ、欧州中央銀行(ECB)が利下げに転じたことが、景気を下支えると見ている。また、米国経済がソフトランディングし、中国経済が回復することで、欧州経済にプラスの影響をもたらすだろう。
-新興国経済の見通しは
モリス氏 中国のPMIを見ると、政府の新たな景気刺激策により10月に改善した。経済はこのまま回復し、さらに景気刺激策が実施されるだろう。しかし、中国の不動産市場は問題を抱えている。日本や米国の過去の事例を見ても、不動産関連の課題は解決までにかなりの時間を必要とすると見ている。
次にインドだが、グローバルにビジネスを展開する多くの企業が製造機能を多拠点化しており、中国に加えて、インドやアセアン(東南アジア諸国連合)、メキシコに投資を始めている。「MSCIエマージング・マーケット・インデックス」に占めるインドの時価総額が約20%に上昇し、純利益の割合も高まっている
-コモディティーの動向は
モリス氏 原油価格は、中東情勢の緊迫感が高まる中で、低下傾向にある。一方、銅価格は上昇している。マーケットは、世界経済の成長を楽観していると言えるだろう。
金価格も上昇している。ただ、理由はまったく異なる。一つ目は、米国の財政赤字が非常に大きくなっていることだ。米財務省債のイールドが上昇し、価格が低下することを懸念する投資家が、安全資産として金に注目している。二つ目は、インフレ対策として、金を持つ動きがみられることだ。三つ目は、いくつかの中央銀行が、米国債よりも金を選好する動きが見られている。
-日本の注目点は
モリス氏 為替相場に注目している。今後も円安傾向が続くと見ており、日本の株式マーケットにプラスに働くだろう。
円安の背景だが、日本は利上げに転じ、米国は利下げ局面に入ったものの、日米の金利差は依然として大きい。また、日銀の利上げペースは緩やかなものになると見ている。日米の成長率の差も、円安要因になるだろう。
日本株の予想EPS(1株当たり純利益)を見ると、円安の影響もあり、この1年で主要指数の中では米国の「NASDAQ100」に次ぐ上昇をみせている。今後、中国経済が回復すれば、日本の輸出セクターにプラスに働くだろう。日本の株式マーケットのバリュエーションは、ほかの市場と比べて、十分に魅力的な水準にある。