AI加速「見えないロボット」に高まる期待=「グローバル・ロボティクス株式ファンド」が好調-日興アセットの菅野氏に聞く
2024年04月01日 08時00分
日興アセットマネジメントの世界株投信「グローバル・ロボティクス株式ファンド(1年決算型)(年2回決算型)」が好調だ。「労働力不足を自動化・自律化で克服する」をコアテーマに掲げ、ロボティクス関連企業に投資することで、インデックスを上回る投資成果を上げている。足元では人工知能(AI)の開発が加速しており、「見えるロボット」に加えて「見えないロボット」によりロボティクス市場の拡大が期待される。資産運用サポート部グループマネジャーの菅野晶人氏にファンドの運用状況や注目点を聞いた。
◆骨太で息の長いテーマ
-ファンドの運用方針は。
菅野氏 「労働力不足」は、グローバルな社会的課題だ。新興国も例外ではない。これに対処する「自動化(人が与えたルールで、人を介さずに動かす技術)」や「自律化(人がいなくても自分で判断し、動作・修復する技術)」を実現するロボティクスには、必然的なニーズがある。当ファンドは、こうした骨太で息の長い成長テーマを掲げ、ロボティクス関連企業に投資していきた。
◆AI・センサー・駆動技術の総称
-ロボティクスとは。
菅野氏 当ファンドでは、三つの要素を束ねた技術の総称として、①センサー(感じる) ②AI(考える) ③ロボット(動く)-と定義している。センサーでさまざまなデータを集め、AIが大量のデータをディープラーニング(深層学習)し、その結果をロボットに伝えて物を動かす。
中長期的な環境変化の中でロボティクスは大きく変化している。このファンドを設定した当初は産業用機械など「目に見えるロボット」が中心だったが、足元では生成AIの開発が加速する中で「目に見えないロボット」へと投資領域が急拡大している。
◆設定来で3.7倍、世界株式を上回る。
-運用状況は。
菅野氏 2015年8月の設定から約8年が経過した。パフォーマンスは、設定来で基準価額が3.7倍に拡大した。この間、世界株の代表的なインデックスであるMSCIワールドのパフォーマンスは2.9倍なので、これを大きく上回る投資成果を上げている。
設定来の出来事を振り返ると、決して平たんなものではなかった。例えば、米中の経済摩擦や新型コロナウィルスのパンデミック(世界的大流行)、地政学リスクの拡大だ。当ファンドは、世界経済の構造的な変化をしっかりとらえて投資してきたことが奏功し、こうしたショックを乗り越えながら高値を更新してきた。
◆財務の健全性を重視、規律ある運用
-ポートフォリオ管理の特徴は。
菅野氏 足元の経済を見ても、世界的なインフレや米欧の金利の高止まりなど、懸念材料は尽きない。そうした中、当ファンドは投資先企業の収益性だけでなく、財務面の健全性を重視した銘柄選定を行っている。外部環境はさまざまに変化するが、それに対応しうる強固なポートフォリオを構築することで、ダウンサイドが深くならず、同時にしっかりアップサイドを取りに行く運用を目指している。
このファンドは、米国・ニューヨークを拠点とするラザード・アセット・マネジメント・エルエルシーが実質的な運用を行っている。同チームは、「企業の本質を見極めて、納得できる価格でしか買わない」という姿勢を貫いている。バリュエーション(PER)は当ファンドの投資プロセスにおいて重要な要素であり、投資をしたいと思った企業の株価が高すぎるなどの適正ではないと思った場合には、納得できる価格になるまで買わずに待ち、また保有銘柄についても同じことが言える。銘柄選定において、規律ある投資姿勢を貫くことが重要だと考えている。結果として運用方針を貫いている。当戦略の予想1株当たり純利益(EPS)の推移を見てみると基準価額と共に上昇しており、投資先企業がしっかりと利益成長を伴って市場の評価を高めていることを示している。
◆日本は2位で27%
-国別の投資割合は。
菅野氏 2月末の月次レポートで運用状況を見ると、組入上位のトップは米国で50.3%、2位は日本で27.4%になっている。世界の4大ロボットメーカーのうち、2社は日本企業だ。日本は産業用ロボットに強みがあり、関連技術を保有している企業も多い。内外株式型で、日本株をポートフォリオの4分の1以上も組み入れているファンドは、類を見ないものだ。
投資先を業種別にみると、半導体・同製造装置が29.4%、資本財が28.8%を占めているが、この分野でも日本企業は強みを発揮している。当ファンドは、設定当初から日本への投資比率が高く、足元では日本株上昇の恩恵も大きく受けているといえる。
◆サプライチェーンの再構築
-今後の投資環境は。
菅野氏 米中経済摩擦が続く中、企業はサプライチェーンを再構築し、経済の「地産地消」を進めている。リショアリング(自国回帰)、ニアショアリング(近隣国重視)、フレンドショアリング(友好国重視)で、製造拠点を見直している。
例えば、世界最大の半導体受託製造企業の台湾セミコンダクターは、熊本県に最新工場を建設した。新たな工場は、最先端の自動化・自律化技術を取り入れている。サプライチェーンの再構築により、今後もロボティクスの需要は拡大していくだろう。
◆デジタルツイン、ギガキャスト
-注目の最新技術は、
菅野氏 一つは、デジタルツインだ。デジタル上の仮想空間に、リアルの工場と同じ機能を持つ双子(ツイン)を作る。現実世界の情報をセンサーで集めて、仮想空間の工場で分析・シミュレーションして、現実世界でそのデータを活用することで、大幅なコスト削減や業務の効率化が見込まれる。
例えば、仮想空間に患者さんの心臓を再現して手術の計画を立てたり、シミュレーションしたりするなど、ヘルスケアやサービス産業での活用も見込まれ、ロボティクス市場の拡大が期待される。
二つ目は、ギガキャスティングだ。巨大なロボットが一度に成型する技術で、例えば自動車のフレームなどの生産性を大幅に向上させる。製造工程を大きく変える可能性があり、注目している。
◆第4次産業革命
-ロボット産業の将来は。
菅野氏 2015年ごろから第4次産業革命が進行している。ロボットやAI、IoT(モノのインターネット)を活用することで、受注から生産、発送までの工場の全ての作業を、人の手を介さずに自動化する。
現在は、新たな潮流が生まれ、AIデータセンターが注目を集めている。生成AIを搭載した「目に見えないロボット」によって、オフィスの自動化などもロボティクスの領域に入ってくるだろう。さらに、「目に見えるロボット」と「目に見えないロボット」が融合して生まれる新しいロボティクス市場が、今後の投資テーマになっていく可能性があると見ている。
◆不透明な時代に確かなもの
-投資家へのアドバイスは。
菅野氏 今年、米大統領選をはじめ、世界各地で大きな選挙が予定さている。先行きは読みにくく不透明な年になるだろう。不透明な世の中だからこそ、「確かなこと」に投資することが大切だと考える。
例えば、人口動態はそうとう確度が高い予測だ。人手不足は一朝一夕には解決できない。また、生成AIなどのテクノロジーは停滞することなく進化を続けるだろう。今後も人手不足は続き、解決策としての自動化・自律化の技術進化による自動化領域の拡大が期待される。この2つの確かなことに投資をする当ファンドにご注目いただきたい。
◆成長企業に投資する
-アクティブ運用の魅力は。
菅野氏 インデックスファンドは、市場全体の動きをとらえることを目指している。ただ、市場には、より成長できる企業もあれば、あまり成長を期待できない企業も混在している。
アクティブファンドは、ファンドマネジャーが成長を期待できると判断する企業を取捨選択して投資することで、市場平均を上回る投資成果を目指す。特定の投資テーマを見出して投資することも特徴の一つだろう。アクティブファンドは、インデックスファンドと比較すると相対的にコストが高いが、運用者の目利き力がパフォーマンスに結びつく点が醍醐味であると考えている。