円ベースの期待リターン、日本株がトップ=厳しい環境下でも、企業は収益性を確保-JPモルガンAMの超長期市場予想
2025年12月17日 08時30分
(國京氏) JPモルガン・アセット・マネジメントは、今後10~15年の超長期市場予想「Long-Term Capital Market Assumption(LTCMA)」の2026年版を発表した。マクロ経済の見通しを描いた上で、約200の資産クラスについて、期待リターンやリスク、アセット間の相関データを予想して、機関投資家から個人投資家まで幅広く提供している。
今年のLTCMAは、「世界経済は変曲点を迎えており、経済ナショナリズムの高まりが、労働力不足や貿易摩擦、インフレにつながる」として、主要7カ国の実質GDP成長率を年率1.6%に下方修正し、インフレ率を同2.3%に引き上げた。
しかし、こうした厳しい環境下にあっても「企業は高い収益性を確保する」と分析し、グローバル株式の価値は10年で1.7倍に拡大すると予想した。特に日本株は、企業改革が評価され、円ベースでは主要国・地域でトップとなる年率7%の期待リターンを予想した。
同社グローバル運用商品部 エクイティ・マルチアセット投資戦略室長の國京彬氏と、エクイティ・マルチアセット投資戦略室インベストメント・スペシャリストの徳永拓也氏が記者会見し、主なポイントを説明した。
國京氏は「日本においても、少額投資非課税制度(NISA)を活用して、10年、20年の資産運用を実践する個人投資家が増加している。長期投資を考える際に、LTCMAを活用していただきたい」と話している。
◆30周年、ポートフォリオの基礎データ
-LTCMAとは
國京氏 JPモルガン・アセット・マネジメントは、全世界で約4.1兆ドルを運用するアクティブ専業の資産運用会社だ。投資銘柄を独自に選定しインデックスを上回る運用成績を目指している。運用力の源泉は、リサーチの力だ。
LTCMAは、世界中のポートフォリオ・マネジャーやストラテジスト、クオンツなど約100名がチームを組んで毎年作成しており、今年で30周年を迎える。当社の商品設計や運用に実際に使用しているデータだ。ゴールベース運用や基本ポートフォリオ策定の基礎データとしても活用している。
透明性を重視しており、要素ごとに具体的なデータを積み上げる「ビルディング・ブロック」方式を採用している。さらに、全体として整合性の取れた一つのモデルを構築している。
◆「経済ナショナリズム」「積極財政」「テクノロジー」がループ
-世界経済の分析は
(徳永氏)徳永氏 2026年版の作成は、これまで以上に大変だった。投資環境を見ると、①企業価値が歴史的な割高水準にある ②グローバルに政府債務が拡大している ③移民減少により米国の出生率低下が加速しており、2031年から人口が自然減になる可能性がある-などの難しい課題に直面しており、評価が難しかった。
われわれは、これらの現象の根底に「経済ナショナリズムの高まり」「積極財政の定着」「テクノロジーの普及」という三つの要素があり、それらがループを描いて循環することで、①②③の現象を引き起こしていると考えた。
具体的には、「経済ナショナリズム」が米国の追加関税を生み出し、分断された社会で各国は内需を活性するために「積極財政の定着」を進行させている。また、「経済ナショナリズム」が移民制限を引き起こし、労働力不足から生産性を高めるため「テクノロジーの普及」が不可欠になっている。こうした中で、投資を呼び込むために「労働よりも資本に報いること」が重要になる。人々の不満が再び「経済ナショナリズム」を助長し、ループが広がっていく。
こうした環境は資産運用の観点でみると、期待リターンの引き上げにつながる。今回のLTCMAでは、「債券60%、株式40%」の基本ポートフォリオの期待リターンを、前年の年率4.3%から、今年は4.6%に引き上げた。
◆ボラティリティが上昇、アクティブ運用にチャンス
ただ、市場変動率(ボラティリティ)の高まりについては、従来よりも注意が必要だ。インフレリスクの高まりに備えて、株式や債券と値動きの異なるオルタナティブ(代替資産)をポートフォリオに加えることも重要になるだろう。リスクを下げてより高いリターンを目指すことが期待される。
また、アクティブ運用を再評価すべきだ。ボラティリティが上昇すると、ファンダメンタルズとは無関係に株式が売られる局面が増加する。そうした中では、アクティブ運用によって、本来の価値に比べて割安になった株式を発掘できる。
日銀が利上げを行い、日本の名目金利は上昇している。しかし、インフレを加味した実質金利は、マイナスの状況だ。こうした環境が、今後10~15年にわたって続くと考えている。資産保全のため投資することが重要だ。
◆日本株、円ベースの期待リターンがトップ
-株式の期待リターンは
徳永氏 円ベースの株式の期待リターンは、米国株式で年率4.9%、世界株式で年率5.2%と予想した。米国株式は、バリュエーションの調整分を加味して、世界株式よりも低くなった。
日本株式は年率7.0%と、米国株式や世界株式を陵駕するリターンを予想した。バリュエーションに関して割高感がないこと、自己株取得が活発で株式が希薄化する可能性が低いこと、コーポレートガバナンス改革で高い配当が見込まれることなどが、その要因だ。
円相場は、年率1.8%程度のペースで緩やかに円高方向に向かうと予想している。現在は1ドル=150~160円程度なので、年間3円ぐらい上昇すると見ている。
◆債券、金利上昇で良好な投資環境
-債券の期待リターンは
徳永氏 米国債券は、これまでの金利上昇で利回りが高い水準にあり、非常に魅力的だ。また積極財政の影響で、長期金利が上昇し、長短金利差が拡大するイールドカーブのスティープ化が進んでおり、債券は良い投資機会を迎えている。日本債券の期待リターンは年率2.1%を予想している。
短期的には、人手不足が鮮明になりインフレ圧力が高まると、債券のリスク要因になることが懸念される。しかし、長期的に見ると、生産性の向上が促されることでインフレが抑制される可能性がある。



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