サンプル(過去記事より)
過熱する住宅市場、FRBが加熱で悪化
需要旺盛も株価は不振
ブレーキとアクセルを同時に踏む
片方の足でブレーキを踏んで、もう片方の足でアクセルをベタ踏みして運転する。住宅市場を言い表すとこんな感じか。現在、米連邦準備制度理事会(FRB)がシステムに燃料を投入している一方で、供給と値頃感における制約が市場を減速させている。少なくともこれは高く付くことになり、最悪の場合には深刻な過熱と崩壊のリスクを招くことになる。
住宅価格の最近の上昇は、テレビのニュースになるほか、新聞の一面も飾っている。話の中身は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によるロックダウン(都市封鎖)が理由の都市脱出から、中古住宅の価格を年率23%押し上げた住宅争奪戦へと進化した。今や、建材、土地および労働力の不足が制約要因を悪化させており、住宅建設にブレーキをかける可能性も出ている。
今回の住宅ブームの間に、FRBは短期金利の0%近くへの引き下げと月間1200億ドルの債券買い入れによって大量の流動性を供給してきた。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた金融および財政当局による迅速かつ積極的な対応は過去最短のリセッション(景気後退)という結果につながった。リセッションは公式的には15カ月前に終了したものの、FRBは緊急事態レベルの金融政策を続けている。今週の連邦公開市場委員会(FOMC)で当面の金融政策が発表される予定で、パウエル議長が7月15日の議会証言で示唆したように、債券買い入れの動向が主なトピックになるだろう。
多くの批判者が回答を求める問題は、住宅市場が超過熱状態にある中で、FRBが月額400億ドルの政府系住宅ローン担保証券(MBS)の買い入れを続けるか否かである。パウエル議長は議会証言で、債券市場がMBSと米国債を似たものと見なしているため、MBSの買い入れは月額800億ドルの米国債買い入れと大きく異なるものではないと述べている。
住宅ローン助言会社MBSハイウェーの創業者であるバリー・ハビブ氏は、ネットで月額400億ドルのMBS買い入れは控えめな表現だと言う。同氏は、住宅保有者が支払う金利と元本の再投資、および借り換えに伴うキャッシュフローを考慮すると、FRBは実際には月間1000億ドルのMBSを買い入れていると主張する。
ハビブ氏は、MBSの買い入れが住宅ローン金利を25~35ベーシスポイント(bp)引き下げたと推定している。その幅は、ファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)やフレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)の買い入れ対象として適格な住宅ローンを借りられる、信用力のある借り手にとって助けになっている。しかし、FRBによる買い入れ終了は、ジニーメイ(連邦政府抵当金庫)による買い入れの対象となる、連邦住宅局(FHA)や退役軍人省(VA)の保証を受けた住宅ローンの借り手に打撃を与えることなると、同氏は指摘する。
FHNファイナンシャルの住宅ローン・ストラテジストであるウォルト・シュミット氏は、市場が、いずれ到来するFRBによる買い入れ終了を予想して、米国債に対するMBSのスプレッドを既に約20~30bpワイド化させていると指摘する。しかしワイド化は、2013年の「テーパータントラム(量的金融緩和の縮小による市場の混乱)」の時ほど深刻ではない。
第2次ベビーブーマーが購入
今回やはり違っていることは、住宅市場の過熱度合いだ。戸数で米国最大の住宅建設会社であるDRホートン<DHI>が同社第3四半期決算報告書で述べたように、建築会社は需要に追い付けていない。同社の1株当たり利益(EPS)は前年同期比78%増加してアナリストの予想を8%上回ったものの、株価は22日に2%下落した。
DRホートンの受注は減少した。それは、需要不足によるものではなく、同社が販売を手控えたためだ。同社の最高財務責任者(CFO)が、「現在の住宅の完成状況と在庫、建設計画と受注能力などに基づき、弊社は受注ペースを引き続き抑制する」と述べたと、ロイターが報道している。
ハビブ氏は、住宅市場のファンダメンタルズの力強さの理由は、約33年前の爆発的な出生数にあると言う。当時生まれた消費者は、家族を形成して家を購入するピークの時期に入りつつある。同氏はさらに、現在はそれほど緩やかではない貸し出し基準が一因で、投機として1人が4件の家を購入した2000年代のバブルとは状況が全く異なると言う。
DRホートンの株価は、3月の高値から14%下落しており、その下落幅は、旺盛な需要の一方で、供給不足と高価格に苦しむ住宅建設業界の平均並みとなっている。住宅建設会社が十分な材料、機器および労働力の確保に苦慮する一方で、FRBはマウスのクリックだけで生み出せるドルによって政府系MBSの買い入れを継続できる。
少な過ぎる財を多過ぎるマネーが追い掛けるということはインフレの教科書的な定義だが、FRBはそれを一過性と見なしている。年間1兆4400億ドルの債券買い入れ縮小に関して、議論以上のことを行う時が到来した、または、少なくともその時が近づいていると主張するFRB高官の数が増えている。
住宅建設会社株の最近のパフォーマンスは、供給の制約の中でFRBがアクセルのベタ踏みを続けていることが、助けになっていないことを示唆している。