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WEEKLY 2020年8月9日号

米大統領選・議会選の三つのシナリオ

2020 Election: How to Prepare Your Portfolio

各シナリオに備えるポートフォリオ構築法

世論調査はバイデン氏有利

Illustration by Brian Stauffer

世論調査や賭けサイトによれば、11月3日の米大統領選ではジョー・バイデン前副大統領が現職のドナルド・トランプ大統領を破るとみられる。しかし、2016年の大統領選がそうであったように、選挙の世論調査は当てにならないことで有名だ。

大統領選までは100日を切ったが、有権者の心情、候補者の支持率から新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)の動向まで、あらゆる要因が変化する可能性がある。大統領選の結果に備えてヘッジしておきたい投資家は、複数のシナリオを想定して準備すべきだ。

シナリオの一つは、現状が維持されるというものだ。トランプ大統領は再選され、共和党は上院の過半数を維持し、民主党は引き続き下院を支配する。もう一つのシナリオ、いわゆる「ブルー・ウエーブ」では、バイデン氏が大統領に当選し、民主党が上院と下院の両方で過半数を握る。三つ目のシナリオは、バイデン氏が大統領に当選するが、上院では共和党の支配が続くというものだ。このシナリオは前の二つに比べて注目されていないが、考慮しておくべきだろう。

以下では各シナリオの投資家にとっての意味を解説する。

トランプ大統領再選、共和党が上院の過半数を維持

Illustration by Brian Stauffer

政治関連サイトのリアルクリアポリティクスによれば、バイデン氏は全米でトランプ氏を約7%ポイント、リードしている。激戦州6州でのリードは5%ポイントである。賭けサイトのプリディクトイットは、バイデン氏の勝利確率を60%としている。また、世論調査では米国人の70%が米国は間違った方向に進んでいると答えた。

しかし、結論を出すのは早い。世帯への直接給付を含む追加的な財政支出を議会が可決した場合、経済は11月よりも前に回復する可能性がある。そうなれば、トランプ大統領の再選を後押しするだろう。調査会社コーナーストーン・マクロで米政策のリサーチ責任者を務めるアンディ・ラペリエル氏は、再選の確率を35%とみている。同氏は再選が実現した場合、共和党が上院で過半数を失う可能性はほとんどないと言う。

このシナリオにおいて、UBSのグローバル株式戦略責任者であるキース・パーカー氏は、選挙直後の株式市場の上値余地を約2%とみる。同氏によれば、規制の強化や増税の懸念は後退する見込みだが、貿易をめぐる不透明感によって相殺される。ラペリエル氏は、市場に有利な税制と規制政策があと4年続けば、中小企業、ハイテク企業、金融機関に恩恵をもたらす可能性があると言う。従来型のエネルギー企業や、防衛企業の株価にとっても追い風になり得る。

ラペリエル氏は、「現状維持」シナリオのポートフォリオには、上場投資信託(ETF)のiシェアーズ・ラッセル2000ETF<IWM>、インベスコQQQトラスト<QQQ>、金融セレクト・セクターSPDR<XLF>を組み入れるべきだと言う。これらのETFは、それぞれ中小企業、大手ハイテク企業、金融機関への投資に対応している。

規制緩和の恩恵を受ける個別銘柄としては、ゴールドマン・サックス<GS>、消費者金融企業のSLM<SLM>とワールド・アクセプタンス<WRLD>、エネルギー企業のエクソンモービル<XOM>とエナジー・トランスファー<ET>が挙げられる。防衛企業ロッキード・マーチン<LMT>も、防衛支出の増加に賭けるための銘柄としては良いだろう。

貿易をめぐる不透明感は、米国よりも中国にとって大きな打撃になるとみられる。しかし、アップル<AAPL>や米国の小売業者に対する中国の制裁につながり、SPDR S&P小売りETF<XRT>が下落しやすくなる可能性がある。

民主党の完全勝利

現在選挙が行われたならば、バイデン氏が当選し、民主党が上院と下院で過半数の議席を獲得する可能性が最も高い。賭けサイトは、11月のブルー・ウエーブの可能性を60%以上としている。一方、ラピエール氏は45%とみる。

民主党の完全勝利は増税を意味する。バイデン氏は、トランプ大統領の法人減税の半分を元に戻すと提案しており、その場合は税率が28%に上昇する。また同氏は、40万ドル超の給与に対して、社会保険の財源として給与税を課すことも提案している。さらにバイデン政権は、高所得者向けのキャピタルゲインと配当の税制優遇の廃止、米国企業の海外子会社からの利益に対する増税、死亡時の未実現キャピタルゲインに対する課税を実施するとみられる。

UBSのパーカー氏は、増税と規制強化の見通しを踏まえ、民主党が完全勝利した場合は株価が2~5%下落する可能性があると述べる。しかし、これは買い場にもなり得ると言う。同氏によれば、市場は往々にして、提案された政策の可能性と規模を過大評価する。また、増税は懸念されるほど負担にならない可能性がある。共和党から議席を奪った民主党の上院議員は、大部分の民主党議員より保守的になるとみられるためだ。さらに、2021年もパンデミックが猛威を振るう場合、増税は延期され得る。

パーカー氏は、バイデン氏の税制改正が完全に実現した場合、S&P500指数の構成企業の利益が全体で8%減少すると予想している。増税がより小規模な場合、例えば法人税率が現在の21%から24%に上昇する場合は、約4%の減益となる見込みだ。

ネッド・デービス・リサーチのチーフ米国ストラテジストであるエド・クリッソルド氏の分析によれば、大統領が民主党である場合の方が共和党の場合よりもダウ工業株30種平均(NYダウ)は大幅に上昇してきた。年間の平均上昇率は前者が7.8%、後者が3.3%である。しかし、民主党がホワイトハウスと議会の両方を支配した場合、NYダウの年間平均上昇率は3.0%になる。共和党支配の場合は7.1%である。

経済と株式市場に対するブルー・ウエーブの影響は、支出のペースが増税のペースを上回れば軽減されるだろう。これは十分ありそうに思える。この場合、企業利益に対する影響は中立的だろうとパーカー氏は語る。民主党が優先する支出分野は医療、教育、インフラとみられるが、大部分は新型コロナウイルスの動向によって左右される見込みだ。ウェルズ・ファーゴのエコノミストであるマイケル・プグリース氏は、「誰が勝っても、新型コロナウイルスが引き続き猛威を振るえば、予算の多くを対策に充てることになる」と話す。

コーナーストーンのラペリエル氏によれば、「バイデン氏勝利」のポートフォリオは、電気自動車(EV)企業テスラ<TSLA>や太陽光発電企業ファースト・ソーラー<FSLR>などのグリーンエネルギー銘柄をオーバーウエートとすべきだと言う。同氏はインフラ関連銘柄として建材メーカーのバルカン・マテリアルズ<VMC>、土木関連会社グラナイト・コンストラクション<GVA>、建材メーカーのマーチン・マリエッタ・マテリアルズ<MLM>を選好する。

ラペリエル氏は他にも、民主党による銀行法の規制緩和の可能性を見込んで、ETFMGオルタナティブ・ハーベストETF<MJ>を通じて大麻へのエクスポージャーを取ることを推奨している。現在の銀行法では、連邦規制で違法とされる企業(大麻の販売会社など)との商取引が制限されている。

ラペリエル氏は、民主党の労働に関する政策課題が過小評価されていると言う。民主党が完全勝利した場合、最低賃金は引き上げられ、ギグエコノミーの労働者の保護は強化されるだろう。ファストフードチェーンのマクドナルド<MCD>やライドシェアのウーバー・テクノロジーズ<UBER>などは、こうした動きによる打撃を受けやすい。共和・民主両党は共に巨大ハイテク企業に批判的だが、アマゾン・ドット・コム<AMZN>やフェイスブック<FB>などにとってはブルー・ウエーブの方が大きな脅威だ。民主党は巨大ハイテク企業の解体、規制、課税を共和党よりも強く主張している。

バイデン氏が大統領選勝利、上院は共和党が維持

このシナリオは、議論されることが最も少ないが、無視すべきではない。有権者は大統領が暴走しないための歯止めを望む。バイデン氏への票が同氏への支持ではなくトランプ氏に対する拒否を示す場合、地方の候補者は恩恵を受けられない恐れがある。

この種の「ねじれ政権」は市場にとって最高のシナリオかもしれない。バイデン氏の貿易政策はトランプ氏より予測しやすく、一方でトランプ氏が導入した税制も続くためだ。クリッソルド氏は、過去に民主党政権でねじれ議会だった期間において、NYダウが平均で年間8%上昇したと分析している。

UBSのアナリストは、市場はバイデン氏の大統領当選を想定していたとしても、共和党の上院支配は織り込んでいないと語る。このシナリオは選挙後の株価を4%押し上げ、市場にとって現状維持よりも良い結果となる可能性がある。アナリストは、貿易リスクの低減とバイデン政権による予測可能性の向上が、規制コストの増加を上回るだろうと語る。

クリッソルド氏によれば、過去の大統領選における第2回の党大会から選挙の前日までの株価パフォーマンスの中間値は、現職と同じ党が勝利したケースで5.7%上昇、敗北したケースで1.4%下落となっている。しかし、今年の党大会はほとんど中止となってしまった。民主党は8月17日から20日にかけてオンラインで党大会を開く。共和党は8月24日にトランプ氏を正式に指名する予定である。

コーナーストーンのラペリエル氏は、世論調査はおおむね当たると言う。ただし、ある程度の懐疑心は必要だ。特に今年は新型コロナウイルスが経済に予測不能な影響を及ぼしているため、なおさらである。投資家は政権交代の可能性に備え始めるべきだが、選挙が終わるのは当分先であることを忘れてはならない。

 

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