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WEEKLY 2020年6月14日号

新世代の投資家がデイトレを楽しむ

The Next Generation of Investors Discover Day Trading

コロナ禍の中オンライントレード口座数が増加し、多くの若い投資家が参入

オンライン株式取引口座数が急増

Illustration by Aaron Dana

ウォーレン・バフェット氏は、新型コロナウイルス感染症が広がる中で航空会社の株式を全て売却した。レンタカー大手のハーツ・グローバル・ホールディングス<HTZ>が5月22日に破産申請した直後に、カール・アイカーン氏は同社株を叩き売った。このような「スマートマネー」の発するシグナルは通常、株式市場からの逃避の引き金になる。しかし、新たに参入した若い投資家たちは、投資の大家への畏敬の念が年配の投資家ほど強くないため、通常とは反対のことが株式市場で起きている。最も激しく下落した銘柄が突然、はしゃいだデイトレーダーたちから熱狂的に買われたりする。このようなトレーダーの多くは投資の初心者だ。ソーシャルレンディング事業を手掛けるソーファイのアンソニー・ノト最高経営責任者(CEO)は、「投資家の新世代が始まったと思っている」と述べている。同社の投資商品の顧客ベースは今年150%増加した。

手数料無料のオンライントレードアプリのロビンフッドの口座数は2020年になって300万件以上増加し、今や1300万口座を上回る。顧客の平均年齢は31歳だ。ロックダウン(都市封鎖)と3月の株価急落がきっかけで何百万人という新たな投資家が口座を開設した。アプリのユーザーの一部は本来スポーツギャンブルやその他ギャンブルを好む層だが、これらが休業しているため代わりに投資しているようだ。

ソーシャルメディアが投資のきっかけに

今年大学4年生になる予定のイワン・ジャクソン氏は、「全てが叩きのめされたのだから、これはチャンスかもしれない」と思い、ロックダウンのため自宅で退屈していたので、以前に開設していながらほとんど使っていなかったロビンフッドにログインしたという。これまでのところ、約3000ドル投資し、775ドル(26%)のリターンを得た。リターンの多くの部分は電気トラックのニコラ<NKLA>への投資によるもので、買うきっかけとなった情報源はウォール街のアナリストがほとんど引用することのないティックトック(モバイル向けショートビデオのプラットフォーム)だった。友人から送られてきたティックトックの動画がきっかけで、ニコラの燃料電池技術について調べ、電気自動車メーカーのテスラ<TSLA>に似ている点が気に入った。少し買うくらいなら危険な賭けでもないと思い、「21ドルで数株購入したところ、昨日は90ドルになっていた」という。「ティックトックが最高の金融情報源だ」と彼は周りの人に冗談を言っている。6月11日の株価暴落も何のそので、ニコラの株を買い増した。さらに、ウーバー・テクノロジーズ<UBER>の株も押し目買いの好機と思って買ったという。「以前からウーバーを買う口実を探していたが、グラブハブ<GRUB>がウーバーによる買収を拒否して、ジャスト・イート・テイクアウェー・ドットコム<TKWY.AS.オランダ>との合併に応じるとのニュースと、株式相場急落が重なり、最高の買い時と思った」と述べている。

このような新しい投資家たちがどの程度相場を動かしたかに関する証拠はまちまちだ。キャピタル・エコノミクスによると、S&P500指数の出来高は3月に急増したものの、その後は低調だという。バークレイズのアナリストのライアン・プリクロー氏は、ロビンフッドの口座数の増加は株式のリターン低下に対応していると述べている。しかし、取引増加によって息も絶え絶えの状態から生き返った銘柄もある。

叩き売られた銘柄を大挙して買う新世代投資家

新型コロナウイルスにより株価が急落したアメリカン航空グループ<AAL>は3月に出来高が増加し始め、その後加速した。ロビンフッドのユーザーのデータを掲載するウェブサイトであるロビントラックによると、3月にアメリカン航空を保有していたロビンフッドを利用する投資家は約1万5000人だったが、6月になると60万人以上に増加した。出来高は、2月前半の1000万株未満から6月5日の4億2800万株へと膨れ上がった。株価は2倍になり、3月以降に持ち続けた株主は報われた。

ハーツでも同様の現象が起きた。ハーツを保有するロビンフッドの投資家の数は、米国とカナダで破産申請するとの同社の発表があった5月後半から6月半ばまでの間に4倍増加して16万人以上となった。ジェフリーズで長年ハーツをカバーしてきたアナリストのハマザー・マザーリ氏は、株価はすぐにゼロになると確信し、破産申請の発表後すぐにハーツのカバーを中止した。しかし、株価は急騰し、時価総額は5億ドルを超えた。今や株式は無価値とは言えなくなり、ハーツはニューヨーク証券取引所の上場廃止の決定に異議を申し立てた。自己資本の価値が高まったことで債権者に対する力も強まったかもしれないとマザーリ氏は述べる。

同様に、石油・天然ガス生産大手のチェサピーク・エナジー<CHK>の株価が8日に182%も急騰した。負債が多い企業で、社債の少なくとも1本は1ドルにつき0.1ドルの価値しかない状態だ。個人投資家の取引急増がショートスクイーズのきっかけの一つになったとサントラスト・ロビンソン・ハンフリーのアナリスト、ニール・ディンマン氏は述べる。チャールズ・シュワブ<SCHW>のウォルト・ベッティンガーCEOは先月の年次株主総会で、「市場がストレス下にある時、通常であれば投資家は投資を控え、資金の新規流入や新規口座は減少するものだ」と述べた。2008年に同社の投資家は様子見姿勢だった。しかし今回は、「全く反対だ」。チャールズ・シュワブでは第1四半期に過去最高の60万9000人の新規顧客が契約し、3月だけでも28万3000人増加した(月単位では過去2番目)。3月の1日当たりのトレードは前年同月比3倍増だった。

スリルを楽しむ若い投資家

チャールズ・シュワブではこの1年で若い顧客が増加した。2019年前半以降の新規顧客のうち40歳未満が半分以上を占めた。しかし、同社の広報担当者によると、最近の急増は全ての年齢層に広がっているようだ。若い世代はソーシャルメディアで会話する。ティックトックだけでなく、レディットやツイッターで株式の情報や冗談を交換する。最悪の損失を示す自虐的なチャートを投稿することさえある。ゴールドマン・サックスの元パートナーのジョゼフ・マウロ氏は、10歳の息子の友達が昼間は株のトレードに忙しくて、ビデオゲームの相手がいないとの冗談をツイッターに投稿した。

このような新しい投資家の取引高は目を引くものの、背後にあるセンチメントはよく知られたものだ。何世代にもわたり、若い人たち、特に男性はハイリスクのトレードによる興奮を楽しんできた経緯がある。失敗したとしても何十年も先があるから取り戻せると思っているからだ。このような熱狂はしばしば悪い結果をもたらす。最近の新規参入者の一部は必然的に痛い目に遭うだろう。しかし、若い世代は金融危機の中で育ち、2018年のビットコインの暴落の時にも熱狂の怖さを思い知った。実際、キャピタル・エコノミクスによると熱狂時に通常起きることが最近は起きていない。つまり、リターンを膨らませようとする信用取引を増やしていないのだ。

先ほどの大学生のジャクソン氏は、「700ドルが利益だとは思っていない。価格は変動するから、明日どうなるか全く分からない。26%も上昇したのは素晴らしいけれど、現実的ではなく、持続可能ではない」と述べた。

 

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