サンプル(過去記事より)
米大統領選が企業とセクターに与える影響
自動車、エネルギー、ヘルスケア、資本財、地銀、ハイテク
大統領選の結果は個別セクターでより重要
4年に一度の米大統領選が近づくと、政治が見出しを占め、株式市場もその話題で持ちきりになる。しかし、選挙の最終的な結果は、S&P500指数全体よりも特定のセクターにとってより重要となる。
政治が投資の成功を邪魔するのは簡単だが、誰が選挙で勝とうとも株式市場は一般的に上昇することを忘れてはならない。投資会社シャーフ・インベストメンツのブライアン・クラウェズ社長は、「トランプ氏が勝つとか、ハリス氏が勝つとか、そんな心配でバンカー(銃撃や爆撃から人や航空機を守るために地下などに建設される施設)に隠れることはないだろう。現実には、明日は太陽が昇る可能性が高く、長期的には株式は良い居所になる」と言う。
ただ、個別セクターでは話が違ってくる。トランプ氏とハリス氏の政策は、ヘルスケア、エネルギー、銀行、その他の産業において全く異なり、そして必ずしも明白ではない形で影響を与える可能性がある。以下は、主要6セクターの見通しと、過去の2政権における各セクターの株価推移だ。
自動車
トランプ政権時代 9.9%上昇/バイデン政権時代 8.4%下落
2024年の自動車株で勝者はほとんどいない。自動車大手フォード・モーター<F>は16%下落、クライスラーの親会社であるステランティス<STLA>は42%下落、年初来1%上昇した電気自動車(EV)大手のテスラ<TSLA>でさえ、S&P500指数に約19%ポイントの差をつけられている。年初から41%上昇したゼネラル・モーターズ(GM)<GM>は、安定した事業と大規模な自社株買いのおかげで、唯一の勝者となっている。
パフォーマンスが悪いのは、選挙によるものというわけではない。投資家は、EV販売台数の伸びの鈍化、EV新車価格の下落、インセンティブ水準の上昇、ディーラー在庫の高止まり、生産台数の伸びの鈍化を懸念している。これらの逆風は、誰がホワイトハウスを引き継いでも変わらないだろう。
だからといって、選挙が重要でないわけではない。ビーオブエー・セキュリティーズのアナリスト、ジョン・マーフィー氏によると、ハリス氏が勝利した場合は、排出ガス政策やEV税額控除に大きな変更はなく、これまで通りのビジネスが行われる可能性が高い。一方、トランプ氏はほぼ間違いなくこれらの優遇措置を廃止し、EV販売の伸びは鈍るだろう。トランプ氏はまた、米国で販売される自動車の多くが製造されているメキシコからの製品を含め、関税の引き上げを行う恐れがある。
トランプ氏の政策はGMとフォードにとってプラスになるだろう。両社とも多くのガソリン車を販売しており、EVよりも従来型の車の販売で多くの利益を上げている。ウォルフ・リサーチのアナリスト、エマニュエル・ロスナー氏によれば、特にフォードは、GMやステランティスよりもメキシコ生産へのエクスポージャーが少ないため、トランプ政権2期目では有利な立場となる。
ロスナー氏は、テスラは大統領選でどちらが勝とうとも大きな勝者になる可能性があると言う。ハリス氏が勝利すれば、EVに優しい政策から引き続き恩恵を受けると思われる一方、メキシコでの製造がないことや、テスラの最高経営責任者(CEO)であるイーロン・マスク氏のトランプ政権における潜在的影響力からも恩恵を受けるだろう。
何が起ころうとも、投資家は、自動車会社の収益や投資家がその株式をどの水準で買うべきかを決定するのは、大統領の政策よりも多くのことがあることを覚えておくべきだ。(本誌記者 Al Root)
エネルギー
トランプ政権時代 40%下落/バイデン政権時代 105%上昇
エネルギー株が選挙にどう反応するかは誰もが知っている。トランプ氏は米国での石油掘削の拡大を望んでいるため、同氏勝利なら石油株は反射的に上昇するだろう。同様に、ハリス氏が勝利すれば、太陽光発電、風力発電、EVの銘柄が上昇するだろう。
それでも、トランプ政権が誕生すれば、石油や天然ガスにとってネットではマイナスになると考えるアナリストもいる。なぜならトランプ氏は関税を課すことを計画しているからだ。石油は現在、米国最大の輸出品だ。トランプ政権1期目における貿易戦争では、中国が米国産石油に報復関税を課したため、米国産原油の対中輸出が一時的に減少した。その後、中国への原油輸出は回復したが、再び貿易戦争が起これば、大きな影響が出る可能性がある。
化石燃料に関わる投資家にとっては、どちらが勝とうとも、2024年の選挙を前にして慎重であるべきだ。世界的に見れば、現在は単に生産量が多過ぎるだけで、需要が十分に伸びていない。そして、米国の生産量は恐らくトランプ氏とハリス氏のどちらの政権下でも増加するだろう。イスラエルとイランの対立激化のような地政学的ショックがない限り、原油価格は弱含みで推移すると予想される。
クリーンエネルギーに関しては、ハリス氏は太陽光、風力、バッテリー、EV企業への補助金を拠出するインフレ抑制法(IRA)を継続すると思われ、クリーンエネルギー企業をより支持するだろう。トランプ氏はIRAの廃止を公約しており、米国製のクリーンエネルギー製品を生産する新しい工場に投資されている2000億ドル超の資金を危険にさらすことになる。共和党議会のもとでIRAが全面的に廃止されれば、IRAの補助金に依存している原子力の復活も危うくなるだろう。
とはいえ、クリーンエネルギーの投資家は悲観的になり過ぎており、選挙関連で弱含みとなっている株を買うべきだと考える専門家もいる。モルガン・スタンレーのアナリスト、アンドリュー・パーココ氏は、太陽光発電メーカーのファースト・ソーラー<FSLR>や、再生可能エネルギー開発企業のネクステラ・エナジー<NEE>、電力会社AES<AES>、エネルギー機器メーカーのGEベルノバ<GEV>、そして、燃料電池会社のブルーム・エナジー<BE>を選好している。(本誌記者 Avi Salzman)
ヘルスケア
トランプ政権時代 71%上昇/バイデン政権時代 25%上昇
2024年の大統領選でヘルスケアはささやかな役割しか果たさなかったが、その結果は医療保険会社や病院関連企業、特に過去10年間にメディケア・アドバンテージ・プログラム(高齢者向け公的医療保険=メディケア=から認可された民間医療保険会社が運営するマネジドケア=管理医療サービス=型保険)に深く踏み込んだ医療保険会社に影響を与える可能性がある。
今年はメディケア企業にとって悪夢のような年だった。患者は保険会社の予想をはるかに上回る医療サービスを求めており、特にマネジドケアのヒューマナ<HUM>や医療保険会社ユナイテッドヘルス・グループ<UNH>に重くのしかかっている。バイデン政権はまた、メディケア・アドバンテージ・プランを提供する保険会社に対し、支払額の引き上げ幅を縮小し、品質格付けへのアプローチを厳格化するなど、厳しい姿勢を示している。
トランプ氏が勝利すれば、圧力が緩和され、メディケア・アドバンテージを専門に扱う医療保険会社で、年初来40%超下落しているヒューマナなどの株価が上昇する可能性がある。また、メディケア・アドバンテージ市場の主要プレーヤーであるCVSヘルス<CVS>やユナイテッドヘルスの低迷する株価を押し上げる可能性もある。レイモンド・ジェームズの医療政策アナリスト、クリス・ミーキンス氏は、「もしトランプ氏が勝利すれば、恐らくメディケア・アドバンテージ関連銘柄に投資したくなる」と言う。
ハリス氏の勝利は、医療保険制度改革法によって創設された医療保険市場に深く関わる保険会社や、その顧客を治療する病院にとっては朗報だろう。市場を通じて医療保険に加入する人々への補助金は来年末で期限切れとなるが、ハリス陣営はこれを恒久的なものにしたいと考えている。一方、トランプ陣営はそうしない可能性を示唆している。
補助金が継続されれば、オスカー・ヘルス<OSCR>のような医療保険会社は恩恵を受けるだろう。また、病院を経営するテネット・ヘルスケア<THC>やHCAヘルスケア<HCA>にとってもプラスであり、対処すべき保険加入の患者を数百万人減らせることになる。
医薬品メーカーにとっては、選挙の結果は二者択一的なものではなさそうだ。トランプ氏が勝利すれば、M&A(合併・買収)にとって友好的な雰囲気になる可能性があり、大手製薬会社や特にバイオテクノロジー企業にとっては道が開けるかもしれない。しかし、長らく政治論争の的となってきたブランド処方薬の高額なコストは、どちらがホワイトハウスを制したとしても変わることはなさそうだ。(本誌記者 Josh Nathan-Kazis)
資本財
トランプ政権時代 39%上昇/バイデン政権時代 51%上昇
製造業者は選挙について考えたくないだろう。これらの企業にとって、今年は良い年になっており、ラッセル1000指数に含まれる製造業企業の株価は、航空機大手ボーイング<BA>を除き、年初来で約20%上昇していている。これはS&P500指数の上昇率とほぼ同じだ。製造業は、大手IT企業が人工知能(AI)データセンターに何十億ドルも投資する中で増加する電化設備部品の需要や、航空機および航空機部品の旺盛な需要の恩恵を受けている。
AIや航空機への需要が2025年に減少する公算は小さいが、トランプ氏が勝利すれば、製造業にとって大きな逆風が吹く可能性がある。トランプ氏は、生産を米国に回帰させる方法として関税の引き上げを主張しており、それはうまくいくかもしれない。第1期トランプ政権以降、半導体企業、自動車メーカー、バッテリーメーカーが米国内生産を拡大したため、製造業の雇用は増加しており、その成長はバイデン政権下でも続いている。
しかし、新たな貿易戦争は新たな問題を引き起こすだろう。中国はボーイングの大口顧客であり、例えば中国南方航空<600029.中国>は、ボーイングの「737」型ジェット機を約200機、欧州航空機大手エアバス<AIR.フランス>の「A320」型ジェット機を約280機運航している。しかし、新たな関税が中国に課されれば、ボーイングが標的となる可能性がある。バーティカル・リサーチ・パートナーズのアナリスト、ロブ・スタラード氏は、起こり得る結果の一つは、「中国が新たにボーイング機を購入することはもうない」というものだと推測する。
さらに、欧州の製造業企業に対して関税が課されれば、ボーイングへの報復関税につながる可能性もある。エアバスはアラバマ州モービルで航空機を生産しているため、貿易戦争による影響をあまり受けないだろう。一方、ボーイングは欧州で航空機を製造していない。エンジンメーカーのGEエアロスペース<GE>などの航空宇宙業界のサプライヤーは、エアバスとボーイングの両方に製品を提供しているため大丈夫なはずだ。
現在の業界全体の景気低迷に加えて、この報復関税の問題が起きるのだ。サプライ管理協会(ISM)が毎月発表する製造業購買担当者景気指数(PMI)は過去24カ月で23回も好不況の節目となる50を下回っている。ISMのPMI調査責任者であるティモシー・フィオレ氏は10月の報告書の中で、「米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策や大統領選に対する不透明感により、企業が設備投資や在庫投資に消極的であり、需要は依然として低迷している」と指摘した。製造業者は、選挙とそれがもたらす不確実性が過ぎ去ることを待ち望んでいる。(本誌記者 Al Root)
地方銀行
トランプ政権時代1.5%下落/バイデン政権時代11%上昇
米国の銀行のほとんどは小規模である。銀行規制当局が監督している4500の銀行のうち90%はコミュニティーバンク、つまり総資産100億ドル未満の銀行である。全米に点在し、中小企業向け融資の60%を占めるこれらの銀行は、米銀行業界全体の総資産24兆ドルのうち2兆7000億ドルを占めている。コミュニティーバンクや、より規模の大きい地方銀行は、金融サービス・セクターの重要な一角を占めており、2024年の大統領選挙の結果に強く影響される分野だ。特に、銀行間のM&A活動や、ジャンクフィーとして知られる顧客手数料に関する規則には影響が顕著に表れるだろう。
非営利団体、ベター・マーケットのCEOであるデニス・ケリー氏は「選挙結果は、地方銀行やコミュニティーバンクに間違いなく重大な影響をもたらすはずだ」と話す。
M&Aを考えてみる。3年前にバイデン政権が銀行規制当局に合併審査の強化を指示して以来、正式に否認された案件はない。しかし、フィッチ・レーティングスのアナリストによると、承認に要する時間は「著しく」長期化しており、「案件が成立しにくくなるほど」だ。ハリス氏が勝利すれば、現状継続の可能性が高い。トランプ氏が勝利すれば、金融規制と案件審査はともに緩和が進む可能性が高いため、承認に要する時間は短縮されるだろう。米金融調査会社ウルフ・リサーチのストラテジスト、クリス・セニェク氏は、共和党支配またはねじれ議会のもとで第2期トランプ政権が発足すれば、地方銀行の統合が進むことで地方銀行は勢いづくだろうと語る。
また、中小銀行は、ジャンクフィーの規制についても懸念を抱いている。バイデン大統領や民主党議員は利用者にとって不透明、また高額で予期せぬジャンクフィーに反対の立場を取っており、モーニングスターの地方銀行アナリスト、マオユアン・チェン氏は「民主党が反対しているため、地方銀行は共和党をより好意的に見ている可能性が高い」と話す。
しかし、ケリー氏は、中小銀行にとって、より良い環境を作り出すのは民主党だろうと主張し、「トランプ氏はウォール街の大手銀行を支持しており、過度な規制緩和などの政策で地方銀行やコミュニティーバンクに対して不公平な競争環境をもたらす」と語る。市場に委ねるべきだろう。(本誌記者 Rebecca Ungarino)
テクノロジー
トランプ政権時代 177%上昇/バイデン政権時代 95%上昇
テクノロジー業界は、ここ数年、規制当局の厳しい監視の的になっている。リナ・カーン氏は、連邦取引委員会(FTC)委員長として、テクノロジー業界内の競争に取り組んできたが、複雑な問題で、既存の判例法では必ずしも十分に対応できていない。司法省もまた、大手テクノロジー企業に対する取り組みを強化しており、最近では、米連邦地裁が、アルファベット<GOOGL>傘下のグーグルがインターネット検索で違法な独占状態を維持しているとの判決を下した。
投資運用会社ベイラードの執行副社長でテクノロジー投資部門の責任者であるデーブ・スミス氏は「反トラスト法(独占禁止法)による規制強化は、特定の銘柄や企業を取り巻く不確実性を間違いなく高める。その結果、バリュエーションの上昇が抑えられる懸念がある」と話す。
変化が訪れるかもしれない。バイデン大統領によって任命されたカーン氏は、再任が保証されていない。ハリス氏は、大統領になれば「消費者と投資家を保護しながら、AIやデジタル資産のような革新的な技術を振興する」という「新たな前進の道筋」戦略で、競争とイノベーションのバランスを目指すとしている。トランプ氏は選挙公約で「コストがかかり、負担の大きな規制を削減する」と述べた。どちらの選挙活動文書にも、テクノロジー業界に関する独占禁止政策の詳細は記載されていない。
半導体業界はここ数年、米議員の注目を集めてきた。2022年には、米国内での半導体製造を増やすことを目的とした超党派のCHIPS・科学法(CHIPS法)が議会で可決された。バイデン政権もまた、国家安全保障と競争力強化に重点を置いて、中国への半導体輸出に制限を設けている。米半導体業界の強化は党派を超えて支持を集めている。
『半導体戦争-世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』の著者であるクリス・ミラー氏は「トランプ氏もバイデン氏も、大統領として半導体業界に対して同様の政策を推進した。次期大統領も同じだろう」と話す。(本誌記者 Angela Palumbo)