サンプル(過去記事より)

WEEKLY 2024年10月20日号

1階にコストコ、居住者の生活は至って便利

Costco Is Downstairs and the Livin’ Is Easy.

初の住宅用複合ビルはコストコの新たな収入源となるか

新型複合店舗がロサンゼルスにお目見え

Courtesy Thrive Living

会員制倉庫型卸売・小売チェーンのコストコ・ホールセール<COST>を愛するロサンゼルス市民のうち、選ばれた一部の人がお気に入りの店舗の上階に住めるようになる日もそう遠くはないかもしれない。

カリフォルニアを拠点とするデベロッパー、スライブ・リビングは、ロサンゼルス市近郊のボールドウィン・ビレッジにある空き地を、800戸の賃貸アパート、屋上プール、ジム、バスケットボールコートを備えたアメニティ豊かなアパートメントビルへと変貌させている最中だ。しかし、一番魅力的なアメニティは、1階に入居予定のコストコの店舗だろう。薬局や眼鏡サービスも完備する予定だ。

これだけでも、この複合用途ビル(住宅と商業スペースを融合させた不動産プロジェクトを示す用語)はユニークと言える。コストコがこのような住宅開発プロジェクトにおいてスペースを借りるのは初めてのことだ。コストコの誘致に成功したことは、スライブ・リビングにとって大きな成果だと専門家は語る。

商業用不動産会社ショップコアのナショナルアカウント担当バイスプレジデント、マイケル・ピュリン氏は「誰もがコストコのそばにいて、コストコを自社のプロジェクトに関連付けたがる」とした上で、「コストコは、とにかく多くの利点をもたらすし、不動産もその一部だ」と述べている。

しかし、長期的に見れば、最大のメリットはコストコ自身、さらには株主にあるのかもしれない。今回の動きは、人口密集地域を開拓し 買い物客の居住圏に近い場所に店舗を構える上での柔軟性を高めることから、コストコの都市部における拡大戦略の新たな前例となる可能性がある。

独立系リサーチ・データ分析会社メリアス・リサーチのアナリスト、カレン・ショート氏は「コストコがこれまで(複合用途ビルの)経験がないことに、少し驚いている。不動産の観点からは、ホームランだ」と述べている。

コストコにとって初めての計画

複合用途ビルは、お気に入りのショップやレストランを簡単に歩いて訪れたいという消費者の要望に応え、過去10年間で最も人気のある建設形態の一つとなった。また、複合用途ビルは以前から都市部では好まれており、人々は小売店の上階に住むことに慣れていたが、この開発スタイルは郊外でも好まれるようになった。

小売店不動産コンサルティング会社ウッドクリフ・リアルティ・アドバイザーズのルドルフ・ミリアン最高経営責任者(CEO)は、「現在、人々はその点を小売店開発に求めている」と語っており、デベロッパーも喜んでそれに応えている。

地主にとっては、複合用途ビルは収入源を多様化する手段であり、商業テナントは住宅テナントよりも往々にして退去率が低いことから、商業テナントと契約することを好む。小売業者にとっても、居住者による安定した来客と売り上げを期待できるというメリットがある。

ディスカウントストアチェーンのターゲット<TGT>やスーパーマーケットのホールフーズなど、コストコの競合他社の一部はすでにこの開発モデルを全面的に採用しており、さらに消費者の近くに店舗を構えるチャンスがあれば、飛びついている。

しかしコストコにとって、このような形態は初体験だ。コストコの不動産戦略はこれまで、倉庫型店舗を建てる土地を所有し開発することに傾注しており、そのデザインは、顧客が慣れ親しんできたワンフロアの洞窟のような店舗から外れることはほとんどない。少なくとも米国では、住宅を上層部に構えるプロジェクトに参加したことはなかった。

では、コストコが方針を変えた理由とは何だろうか。

コストコの広報担当者は本誌のコメント要請に応じなかったが、先月ロサンゼルスで行われた起工式で、コストコの地域管理マネージャーであるショーン・マッキン氏は、今回の取り組みは新しい倉庫型店舗用の土地を見つけるのに苦労したことが一因だと述べた。

マッキン氏は「ロサンゼルスでコストコの店舗を増やすのは難しい。利用可能な土地が少ないこともあって、創意工夫を凝らした努力と手段により、これはコストコにとって米国初の試みとなるだろう」と語った。

コストコの出店だけでも、この複合用途ビルにとって重要な「初めてのケース」だが、それだけではない。ボールドウィン・ビレッジの施設は、州議会法案2011で承認を受けた初の施設となる。議会法案2011とは、手頃な価格の住宅建設を目的としたプロジェクトの承認を迅速化する新しい州法だ。スライブ・リビングによると、開発される居住区画の4分の1弱は低所得者向け住宅に充てられる予定だ。

専門家は、迅速な承認プロセスも、コストコにとって魅力的な要因だったと指摘する。

ピュリン氏は「このような人口密度が非常に高く、土地の取得や規制の両面で参入障壁が高い市場において、この参入はおそらく全員にとっての『ウィンウィンウィン』だ」と述べた。

投資家にもメリット

将来的には、投資家も恩恵を受ける可能性がある。

少なくとも、新しい店舗形態により、コストコは米国内で最も重要な市場であるカリフォルニア州で市場シェアを拡大し続けることができる。カリフォルニア州は、2024年度のコストコの全米売上高の27%を占めている。中でも、州内に展開する140の倉庫店のうち、3分の1強がロサンゼルスに集中している。ボールドウィン・ビレッジの店舗は、カリフォルニア州南部で53店舗目となる。

今回の決定は、特に参入が困難な市場において、コストコが新しい業態への取り組みに意欲的になっていることを反映しており、今後さらに多くの複合開発プロジェクトにつながる可能性がある。

スライブ・リビングの創設者、ベン・シャウル氏は「コストコや、今回のプロジェクトの話を聞いてわれわれに問い合わせがあった他の小売業者とのやり取りからも、この形態は確実に広まっていく」と語った。

メリアス・リサーチのショート氏は「特に、コストコが展開する店舗の多くが自社所有の不動産であることから、このプロジェクトはコストコにとっての新たな収益源となる可能性がある」と述べた。

9日の朝に米国証券取引委員会(SEC)へ提出されたコストコの最新の年次報告書によると、コストコが運営する890件の物件のうち703件、つまり80%弱が自社所有である。ショート氏は「今回の複合施設開発がうまくいけば、コストコは既存の不動産に住宅を建設したり、他社に開発させるために空中権を売却したりする可能性もある」と述べた。もちろん、これらの場所すべてがアパート建設に適しているわけではないが、中には適している場所もあるかもしれない。

またショート氏によると、大半のアナリストは、コストコの事業における不動産の可能性を業績予想に組み込んでいないという。しかし、それも当然かもしれない。結局のところ、これはまだ1店舗にすぎず、今年だけで株価を35%も上昇させた信頼性の高いこれまでの不動産戦略を、コストコが急に見直す可能性は低い。

それでも、「慎重派で、長期的に成功すると確信がある場合にのみ動く」と専門家に評されるコストコ経営陣が次にどういうアクションを起こすのか、注視する価値はある。