イデコ、大幅拡充へ=拠出限度額が2倍以上に拡大する会社員も-大和総研の是枝氏
2025年01月29日 14時00分
政府・与党は、昨年末に決定した「2025年度税制改正大綱」で、個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)を拡充する方針を決定した。拠出限度額を大幅に増額し、70歳まで掛け金を拠出できるようにする。通常国会に関連法案が提出される見通しだ。
大和総研金融調査部の是枝俊吾主任研究員は、今回の改正案について「会社員や公務員といった第2号被保険者にとってイデコは、企業年金と合わせて月額6万2000円まで拠出できる『穴埋め型の制度』に統一され、分かりやすくなった。このうち『企業年金のない会社員』や『公務員』は拠出限度額が2倍以上に拡大するなど、大幅な拡充になる」と評価した。主なポイントは以下の通り。
◆イデコとは
イデコは、個人や事業主が掛け金を拠出し、投資信託等で運用して老後資金を作る制度だ。60歳まで資産を引き出すことができないが、拠出時の掛け金が所得控除になるなど、少額投資非課税制度(NISA)にはない、手厚い税制上の優遇措置が受けられる。
ただ、働き方の違いにより、第1号被保険者(自営業者)、第2号被保険者(会社員や公務員)、第3号被保険者(専業主婦や主夫)といった公的年金の種類ごとに拠出限度額が異なるなど、制度が複雑な部分もある。
◆拠出限度額の拡充
制度改正により、第2号被保険者のイデコの拠出限度額は「企業年金(企業型確定拠出年金<DC>・確定給付企業年金<DB>)と合わせて月額6.2万円」と、シンプルになる。
このうち「企業年金がある会社員」は、現在はイデコの拠出限度額が月額2万円以下に制限されているが、「穴埋め型の制度」に変わることで、「月額6.2万円から企業年金の掛け金を引いた額」へと拡大される。
「公務員」も、「月額6.2万円から企業年金の掛け金を引いた額」になる。公務員の企業年金に当たる「年金払い退職給付」は「月額掛け金0.8万円のDB相当」と見なされるため、大部分の公務員の制度改正後の拠出限度額は同5.4万円になる。現在の掛け金は同2万円なので、こちらも2倍以上に広がる。
「企業年金のない会社員」は、月額2.3万円から同6.2万円へと、こちらも2倍以上に増加する。
また、第1号被保険者は、現在の月額6.8万円から0.7万円引き上げて、同7.5万円とする。一方、第3号被保険者は同2.3万円に据え置かれる。
◆マッチング拠出の弾力化
政府・与党案では、企業型DCの加入者が、企業拠出に加えて加入者自身も掛け金を出す「マッチング拠出」を弾力化することが、盛り込まれた。現在は「従業員拠出額は、企業拠出額以下とするルール」があるが、これを撤廃する。また、企業の拠出限度額は、現行の月額5.5万円から、0.7万円引き上げて、同6.2万円とする。
これにより、企業拠出が少ない従業員において、マッチング拠出の拠出余地が大幅に拡充される。また、若いうちから、これまで以上にマッチング拠出を利用できるようになるので、金融機関から、企業型DCを実施している企業の従業員に対して、マッチング拠出を呼びかける案内が増えるかもしれない。
◆拠出可能年齢の拡大
イデコは現在、拠出可能年齢を「60歳まで」としており、60歳以降も厚生年金に加入している人や国民年金の任意加入者に限って、65歳までの拠出を認めている。
これに対して政府・与党の改正案は、60歳以降の国民年金の加入状況に関わらず、①60歳以前から企業型DCまたはイデコの加入者だった ②老齢基礎年金やDCからの給付金を受給していない-などを満たすことを条件に、70歳までの拠出を認めている。
◆退職所得控除の調整規定の見直し
退職金とイデコの一時金の両方を受け取る場合、退職所得控除の計算に当たって、「勤続期間とイデコの加入期間の重複部分は、いずれか一方からしか控除できない」とする調整規定がある。
現在は「イデコが先、退職金が後」の場合、この調整規定は「過去5年間」についてさかのぼって適用される。しかし、定年延長で65歳以後に退職金を受け取るケースが増えてきたことから、政府・与党案では遡及(そきゅう)期間を「10年」に改正する。
◆残された課題
今回の制度改正により、理論上のイデコの生涯拠出額は、第2号被保険者で4092万円(=6.2万円×12ヵ月×55年)に達する。ただ、若年期に限度額(6.2万円)まで拠出することは困難だ。4092万円を参考に「『生涯拠出限度額』を設定し、月額の拠出限度額を柔軟化すること」が、検討課題だと考える。
大和総研の試算では、生涯に4000万円を企業拠出と合わせて積み立てるには、従業員は収入の7%程度を拠出する必要がある。収入のピーク時には月額12.5万円程度の拠出が必要になることから、こうした水準を参考に、月額の拠出限度額を拡充することを検討することも必要だろう。