サンプル(過去記事より)

WEEKLY 2021年1月10日号

高まる大手ハイテク企業の規制リスク

The Risks Are Rising for Big Tech

SNSへの規制強化は時間の問題か?

連邦議会占拠事件におけるSNSの責任を問う声が高まっている

Jackpongstock/Dreamstime.com

ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)企業の行動を正そうと訴訟を起こしたり、法律をつくったり、規制したりしようとする動きがある。だが筆者は、こうした動きがあるたびに懐疑的な見方をしてきた。SNS企業は軽い懲らしめを受けるかもしれないが、株式に対するリスクはあまり深刻ではないと考えたからだ。そうした判断は概ね正しかった。だが今や、筆者はさほど確信を持てなくなっている。

その理由は、州および連邦政府がフェイスブック<FB>とアルファベット<GOOGL>傘下のグーグルを相手取って訴訟を起こすケースが増えているからだ。しかもSNS企業は、1月6日の暴徒による米国議会議事堂の占拠につながった緊迫した政治情勢をつくり出す片棒を担っていると非難されている。要は、SNS企業とその株主へのリスクが高まっている。

先週、複数のSNSがトランプ大統領の公のコメントを制限するというこれまでで最も思い切った措置を取った。最も衝撃的なニュースは、ツイッター<TWTR>が「暴力をさらに扇動するリスク」を理由にトランプ氏のアカウントを永久に停止したことだ。フェイスブックは、少なくとも大統領の任期が1月20日に終わるまでの間、トランプ氏の投稿を禁止することを決定した。

SNS企業は、特に5人の死者と数十人の負傷者を出した連邦議会への攻撃をきっかけに、米国における言動にある程度の責任をようやく感じるようになったのかもしれない。また、SNSに責任があると思わざるを得ないことも確かだ。結局、暴徒はSNSの助けを借りて集合した後、連邦議会議事堂を襲撃しながらツイッター、フェイスブック、インスタグラムなどのサイトにリアルタイムで投稿したからだ。

「監視資本主義」への懸念も浮上

SNSには他にも多くの問題がある。先週、フェイスブックは月間ユーザー数が20億人のメッセージングサービスWhatsApp(ワッツアップ)の「利用規約とプライバシーポリシー」を改訂した。特に注目されるのは、改訂されたポリシーではユーザーがWhatsAppのデータ(電話番号、取引データ、IPアドレス、その他の情報)のフェイスブックとの共有を認めることを同意する必要があることだ。これによりフェイスブックはWhatsAppユーザーに「関連するオファーと広告」を提供することが可能になる。ユーザーには、[はい] をクリックするかWhatsApp の使用を中止するかの選択肢が与えられる。

ロジャー・マクナミー氏はかつて創業時のフェイスブックを支えた投資家の一人だが、現在はフェイスブックに対して最も批判的な立場を取っている人物の一人だ。同氏はこの4年間、主にターゲット広告を通じてユーザーデータから利益を生み出す同社の慣行(ハーバード・ビジネス・スクール教授のショシャナ・ズボフ氏はこうした慣行を「監視資本主義」と呼ぶ)を終わらせるよう規制当局、検察官、議員に働きかけてきた。

マクナミー氏は本誌との先週のインタビューで、WhatsAppの規約改訂は「独占禁止規制当局にとって大問題であり、全く無責任な行動だ」と指摘した。

WhatsAppの広報担当者によると、規約に追加された新しい文言の目的はさまざまな企業がWhatsAppを通じて消費者とコミュニケーションを取りやすくすることだという。WhatsAppは2016年にユーザーがフェイスブックとのデータ共有を停止するオプトアウトを選択できるようにしたが、この選択肢はもはや用意されていない。

フェイスブックは自らを中小企業の友人と位置付けている。最近、主要な新聞で一連の全ページ広告を掲載し、アップル<AAPL>のデバイスユーザーのアプリやウェブサイトでの行動を追跡するにはユーザーによる承諾(オプトイン)を取ることが必須だとするアップルの新しいプライバシーポリシーを批判した。このオプトインについて、アップルは消費者のプライバシーの問題と見なしているのに対し、フェイスブックは中小企業に悪影響を及ぼすと主張している。はっきり言えば、フェイスブックのビジネスにも悪影響を及ぼすと考えているのであろう。

規制リスクは着実に高まっている

投資家はこれまでのところSNS企業の責任については懸念していない。民主党による上院の支配が確定的となったことを含むこの1週間の出来事によっても、こうした投資家の考えは変わっていないようだ。あるベテランのインターネットアナリストは、ジョージア州の上院議員決戦選挙で民主党が上院で実質的に過半数となったことによるハイテク規制のリスクの上昇度合いはわずかでしかないとみている。

バイデン次期大統領はトランプ氏と同様、オンライン企業にユーザーの投稿に対する責任の回避を認める1996年通信品位法第230条の撤廃を求めている。それでも、投資家は差し迫った変化とは考えていないようだ。バイデン氏は大統領就任早々、荒れ狂う新型コロナウイルスパンデミック(世界的流行)と深手を負った経済への対処に手いっぱいとなり、第230条修正の優先順位が高まることはなさそうだ。

とはいえ、大手ハイテク企業に対するリスクが1年前より高まっていることは間違いない。マクナミー氏は、フェイスブック、グーグル、アマゾン・ドット・コム<AMZN>、アップルなどの超大型株が、今後数カ月で判決が下される独占禁止法訴訟でいずれも敗訴すると予想している。同氏が特にリスクが大きいと見ているのが、10人の州司法長官グループがグーグルに対してテキサス州で起こした訴訟だ。州司法長官グループはグーグルがフェイスブックと共謀してオンライン広告市場で価格操作に関与したと主張している。

マクナミー氏は、連邦法が価格操作を重罪として扱うことは可能だと指摘する。昨年、食品会社バンブル・ビー・フーズの元最高経営責任者(CEO)は、競合先のスターキストおよびチキン・オブ・ザ・シーと共謀してツナ缶詰の価格を操作した罪で40カ月の禁錮刑を宣告された。今のところ大手ハイテク企業が直面しているのは民事事件だけだが、マクナミー氏は130ページに及ぶテキサス州の訴状はグーグルにとって非常に不利な内容だと考えている。グーグルはこの訴訟には「根拠がない」と述べており、フェイスブックはコメントを控えている。