サンプル(過去記事より)

WEEKLY 2020年10月18日号

EVと特別買収目的会社:合併の死角

Electric Vehicles and SPACs: What Could Go Wrong?

強気の売上高と利益率予想が前提

過熱する合併案件

Matthew Hatcher/Bloomberg

2020年の株式市場で、電気自動車と特別買収目的会社(SPAC)ほど市場が過熱している分野はない。案の上、ウォール街は両者を文字通り「合体」させる方法を見付け出した。今年、注目の電気自動車会社2社がSPACを通じて株式を公開したが、近い将来、少なくともさらに6件の電気自動車とSPACの合併が予定されている。

ニコラ<NKLA>とハイリーオン・ホールディングス<HYLN>の株価は、(「白地手形会社」と呼ばれることもある)SPACとの合併を発表した後急上昇した。今年、同社の株価が急落する前は、ニコラの時価総額はフォード・モーター<F>を上回っていた。

注目度が高いため、電気自動車・SPAC取引の次のラウンドは改めて重要になる。これらSPACの株価は予想される合併取引を既に織り込んでおり、その時価総額は最も大きいもので65億ドルに達しているが、ウォール街のアナリストはいずれの銘柄もカバーしていないため、投資家は注意が必要だ。

これらの企業が公表している将来予想は強気だ。SPACの合併文書にははるか2028年までの売上高および利益の予想が記載されているが、当然のことながら予想には大きなバラつきがある。電気自動車市場が実際にどれほどの規模になり得るのか、ほとんどコンセンサスはなく、投資家が将来の利益に対して支払う価格には大きな開きがある。

EVメーカー

本誌は、SPACと合併した、あるいは合併を予定している電気自動車会社および電気自動車関連企業8社の予想を比較してみた。このうち3社は、バッテリー駆動の乗用車、スポーツ用多目的車(SUV)、バン、ピックアップトラックの製造に焦点を当てており、フィスカーはスパルタン・エナジー・アクイジション<SPAQ>と、カヌーはヘネシー・キャピタル・アクイジション<HCAC>と、ローズタウン・モータースはダイアモンドピーク・ホールディングス<DPHC>との統合を計画している。

フィスカーが最も強気の成長目標を掲げており、現在ゼロの売上高が2024年には106億ドルに達すると予想している。同じ年までにローズタウンは58億ドル、カヌーは14億ドルの売上高達成を予想している。いずれの企業も昨年は1ドルも稼いでおらず、2022年以前に見るべき売上高を計上する予定はない。それにもかかわらず、これらの企業の時価総額は25億~40億ドルに上昇している。結局のところ、投資家はこれらのSPACを、自動車メーカーのテスラ<TSLA>を天文学的な時価総額に押し上げた電気自動車革命に投資をするもう一つの選択肢として見ているのだ。テスラの株価は年初来で425%上昇しており、ウォール街は同社が今後10年間は驚異的な成長をするとみている。同社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、10年後には業界全体で3000万台の電気自動車を製造できると考えている。これは現在の約10倍の生産規模だ。しかし次のテスラを見つけ出そうというのは、特にテスラ自身が引き続き危険な賭けであることも考えると、リスクの高い戦略だ。

利益はさておくとしても、テスラと中国の新興電気自動車会社であるニーオ<NIO>、リ・オート<LI>およびシャオペン<XPEV>の予想株価売上高倍率(PSR)は現在8.6倍に達している。これに対し、伝統的な自動車メーカーであるゼネラル・モーターズ<GM>、フォード、フォルクスワーゲン<VOW.ドイツ>およびBMW<BMW.ドイツ>の平均PSRは0.3倍だ。両グループの平均PSRの中間の値と、フィスカー、カヌーおよびローズタウン3社の2024年度予想売上高の合計180億ドルを使用すると、3社の時価総額は2023年までに約790億ドルに達する。これを年率20%で割り引くと、2020年時点での現在価値は約460億ドルとなり、これらSPACの現在の株価に基づいた時価総額の合計100億ドルを大きく上回る。しかし、この計算には多くの仮定が含まれているため、確実な割安銘柄だとは言えない。

仮に予想通りの売り上げを達成できたとしても、最終的には利益を出す必要があるが、この点、これらSPACの予想はさらに楽観的だ。3社合算の利払い・税引き・償却前利益(EBITDA)ベースの2024年度予想利益率は14%近辺である。これは他の伝統的自動車メーカーや電気自動車メーカーの利益率と同様の水準だ。しかし、伝統的な自動車メーカーにある規模の利益が新興企業にはない。これらSPACの2024年度予想売り上げと同水準の売り上げだった頃のテスラのEBITDAマージンは約1%だった。当時のバッテリーは現在よりも高価だったが、いずれにせよ、これらSPACが想定する利益率は強気だ。

部品サプライヤー

その他のSPAC合併とテスラの比較はそれほど容易ではない。ピボタル・インベストメントII<PIC>との合併に合意したXLフリートと、RMGアクイジション<RMG>と統合するロメオ・システムズは、電気自動車部品のサプライヤーであり、企業が既に保有する車両の電動化を支援する。

XLフリートとロメオは電動パワートレインに取り組んでおり、車両の他の部分は他のメーカーに委ねている。XLフリートは今回のグループで唯一実際の売り上げがある企業だが、その売上高による利益の約2倍の損失を出している。

現在のバリュエーションと公表された予想数値に基づけば、これらパワートレイン・サプライヤーはより合理性のある賭けのように見える。しかし、価格に敏感な市場であり、製品がそれほど差別化されていないことを考えると、他の銘柄のような高い倍率は達成できないかもしれない。

全固体電池メーカー

残る1社、クァンタムスケープは、今回バリュエーションが最も難しい企業かもしれない。時価総額は約70億ドルと、最も高額だ。同社は新技術である全固体電池を市場に出そうとしている。

同社は、他の急成長中の電池メーカーと比較するのが合理的だが、その選択肢は限られる。世界最大の電池メーカーである中国の寧徳時代新能源科技(CATL)<300750.深セン>の予想PSRは約8倍だ。同社の今年度の予想売り上げは約75億ドル、EBITDAマージンは22%である。今後3年間の利益は年率27%で成長すると予想されている。

クァンタムスケープは2028年までに売上高が64億ドル、EBITDAマージンは25%を達成すると予想しているが、これは大胆な目標だ。CATLと同様の倍数を適用すると、時価総額は2027年までに500億ドルに達する。これを年率20%で割り引くと、その現在価値は現在の時価総額を125%上回る約150億ドルとなる。

投資家にとって問題なのは、2028年になるまでまだ先が長いということだ。その頃には本誌は続報の用意ができているだろう。それまでは安全に運転されたい。