サンプル(過去記事より)
債券市場の総崩れは米経済にとり悪材料
魅力を増す優良地方債への投資
トランプ氏を翻意させたのは債券市場の動き
約28兆ドル規模の米国債市場は、米国に対する世界的な信頼を示す信任投票の場と言える。それが最近、警告を発している。指標となる10年物米国債の利回りは先週、ほぼ0.5%上昇して4.49%に達した。市場は混乱ぎみで、ラリー・サマーズ元財務長官は、それは新興国市場で起きる事態だと指摘した。30年物米国債の利回りは11日に一時5%に迫ったが、その後4.9%まで戻した。
先週は株式市場の急騰が大方の注目を集めた。特に9日の取引では、S&P500指数がほぼ10%高で引けた。週間では約6%上昇し、2023年以来最大の週間上昇率を記録した。しかし、より注目すべきは債券市場の動きかもしれない。というのも、現在のようにインフレが鈍化し、消費者信頼感が低下し、景気減速の兆しが見られる状況では、本来なら利回りは低下しているはずだからだ。
ドナルド・トランプ大統領は9日、ほとんどの貿易相手国に課そうとした相互関税の上乗せ分を一時停止すると発表したが、中国との貿易戦争は激化させた。世界のほとんどの国と米国の間で生じたダメージを現政権の下で修復するのは難しいかもしれない。相互関税について態度を軟化させたのは、株式市場の売りではなく、債券市場の混乱が主因だったという。これは債券市場の影響力の大きさを示しており、政治評論家のジェームズ・カービル氏がかつて述べた、「生まれ変われるなら債券市場になりたい。誰でも脅すことができるからだ」という言葉の正しさを裏付けている。
トランプ氏や顧問たちは、米国が債務国であり、巨額の財政赤字を補うために外国資本の流入が不可欠なことを十分に理解していないのだろう。だが、トランプ氏による貿易戦争は、米国がまさに必要としている外国の投資家を遠ざけている。2025会計年度(2024年10月~2025年9月)の上期だけで米国の財政赤字は1兆3000億ドルに達しており、通年で2兆ドルを超えそうだ。
30年物地方債と長期国債の利回りが約5%に
こうした中、地方債も先週1週間で売られた(金利は上昇)。最上級格付け「AAA」の30年物地方債の利回りが9日、一時的に長期国債と同水準になるという珍しい現象が起きた。地方債は税制上の優遇措置があるため、利回りは長期国債の85%程度が一般的だからだ。10日は反発し、11日には再び売られたが、ニューヨーク市水道金融公社やマサチューセッツ州政府などの優良発行体による30年債はいずれも、利回りが4.9%の30年物米国債と同水準の約5%を付けた。
5%の地方債利回りは、35%の連邦税率が適用される投資家にとって、課税後換算で7.7%に相当する。ニューヨークやカリフォルニアといった高税率の州民にとっては、自身が暮らす州が発行する地方債であればその恩恵はさらに大きい。ブルームバーグの地方債インデックスは先週、利回りが4.5%と15年ぶりの高水準となった。ピムコの地方債ポートフォリオ運用責任者デーブ・ハマー氏は「今年に入って地方債市場では大きな利回り調整が進み、市場は魅力的な価格帯になってきている」と語る。
地方債市場に異変
投資家にとって新たな懸念材料となるのが、非公式なトランプ政権のアドバイザーが地方債の連邦税の非課税措置の話題を持ち出したことで、米連邦政府が非課税措置を撤廃する可能性が浮上した点だ。ハマー氏は、州政府および地方政府の調達コスト低減の一助となっている税制優遇措置は超党派で広く支持を集めていることから、その可能性は低いと見ている。
地方債セクターは1~3月期に軟調だった。発行量が増加し、4月には投資家が所得税支払資金を確保するため、地方債ファンドを売却したことから季節要因による資金流出に見舞われ、市況が悪化したことが原因だ。その後、米国債市場の混乱が続き、一部の上場投資信託(ETF)からの資金流出が見られた。ウォール街の債券ディーラーは、銀行の資本規制が厳しくなっており、ヘッジが難しくなっている中、地方債の在庫を抱えながら売りを吸収することをちゅうちょしている。
投資手法は何種類もあり、例えば、オープンエンド型ファンドのピムコ・ミュニシパル・ボンド<PMLAX>やバンガード・インターミディエート・ターム・タックス・エクゼンプト<VWITX>、あるいはヌビーン・ハイイールド・ミューニシパル・ボンド<NHMRX>などだ。ヌビーンの現在の配当利回りは約5.6%だ。優れた運用者であれば付加価値を提供することができるが、ETFも多数あり、一例では、運用資産400億ドルのiシェアーズ国内地方債ETF<MUB>がある。
プライベート・クレジット市場にとって初めての試金石
市場規模が1兆5000億ドルに達するプライベート・クレジットもきしみ始めており、過去10年で市場規模が急拡大し、注目を集めるセクターが初めて重要な試練にさらされる可能性がある。
業界大手は、アレス・マネジメント<ARES>やアポロ・グローバル・マネジメント<APO>、ブルー・アウル・キャピタル<OWL>、ブラックストーン<BX>、KKR<KKR>などだ。レバレッジド・バイアウト(LBO)のターゲットとなり得る投資非適格級(ジャンク)の中小企業向けに約10%と高金利のローンを貸し付ける。プライベート・クレジットは過去数年にわたり、オルタナティブ資産事業の重要な成長分野であった。
クレジットロスは歴史的には低水準で、投資家のリターンは高いが、景気が軟化すれば状況が一変する可能性がある。ほとんどのファンドが非上場か限定的な流動性しか付与していないが、資産規模700億ドルを誇る上場の事業開発会社(BDC)から、センチメントの参考指標として投資家の懸念を読み取ることができる。BDCの株は売り浴びせられ、2月高値から平均で20%下落している。例えば、アレス・キャピタル<ARCC>やブルー・アウル・キャピタル<OBDC>、ブラックストーン・セキュアード・レンディング<BXSL>、FS KKRキャピタル<FSK>などの銘柄は現在配当利回りが10~15%だ。
投資家がよりリスクが高いと見ているBDCでは、純資産価値(NAV)に対して大幅なディスカウントが生じている。FS KKRは約20%のディスカウント、ブルー・アウル・キャピタルで14%、ゴールドマン・サックスBDC<GSBD>およびオークツリー・スペシャルティ・レンディング<OCSL>が約23%となっている。これらのディスカウントは2024年末のNAVに対する割合だ。
KBWのアナリスト、ポール・ジョンソン氏は先週、「BDCはプライベート・クレジットの特徴として流動性が低く、レバレッジが利用されているため、リセッションに対する耐性が高いとは言えない。景気後退の深度を図るには時期尚早だが、事業および消費需要に急ブレーキがかかれば、投資家は枕を高くして眠れないことになる」とリポートに記した。
今年、ジャンク債スプレッドが急拡大したことを踏まえると、今後数週間で3月末の決算発表が行われるため、3月末のBDCのポートフォリオ評価には注意が必要だ。スプレッド拡大は理論的にはポートフォリオ価値の下落につながるが、BDCは原資産のローンが信用問題に直面するまで評価額を切り下げない傾向がある。
BDCで留意が必要なのがレバレッジだ。レバレッジを限定的にしか使用しないか、全く使わないジャンク債のミューチュアルファンドやETFと異なり、BDCは通常、投資家持ち分と同額のレバレッジを活用する。このためリスクは増幅する。今年、ジャンク債が売られたことを考慮すると、BDCのNAVは5%あるいはそれ以上下落しているという意見もある。
BDCを評価する際に、投資家はポートフォリオのクレジットの質を見るべきで、マネジャーによって大きな差がある。より安全度の高いポートフォリオは担保付優先ローンに集中しており、BDCの中ではリスクは最も小さい。劣後債、優先株および株式は下落時に受ける影響はより大きくなる。
BDCの代替としてお勧めなのが、ジャンク債のクローズド・エンド・ファンドで、例えば、ブラックロック・コーポレート・ハイイールド・ファンド<HYT>がある。現在、1株当たり9ドル以下で取引されており、利回りはほぼ11%だ。チャーター・コミュニケーションズ<CHTR>といった大手企業の債券など、流動性の高いポートフォリオで構成されており、保有銘柄は定期的に時価評価される。ほとんどのBDCよりも低コストでレバレッジも低い。