サンプル(過去記事より)
バフェットプレミアムを失いつつあるバークシャー・ハサウェイ
今が買い時
株主総会後の下落で魅力的な株価に
著名投資家ウォーレン・バフェット氏(94)が率いるバークシャー・ハサウェイ<BRK.A><BRK.B>は、5月3日の年次株主総会でバフェット氏が年末に最高経営責任者(CEO)の職から退く考えを示して以降、株価が低迷している。その結果、他の投資家が怖気付いている時に買えというバフェット氏のアドバイスを実行に移す機会が生まれている。
バークシャーの株価は総会以降10%超下落し、年初時点ではアウトパフォームしていたS&P500指数を20%超アンダーパフォームしている。株価低迷の要因としては、「バフェットプレミアム」の剥落(はくらく)、損保事業サイクルのピークアウト懸念、新規投資活動の乏しさ、自社株買いが1年以上実施されていないこと、投資資金の流れが最近バークシャーなどのディフェンシブ株以外へとシフトしたことなどが挙げられる。
しかし、バークシャーには引き続き多くの魅力がある。主要事業は依然として各業界のトップに君臨し、株式ポートフォリオもさまざまな企業に分散化され、株式市場減速の際にはこれをアウトパフォームする可能性がある。バランスシートも盤石で、時価総額1兆ドルの3分の1に相当する3300億ドル超の現金を保有し、自社株買いや配当、そして大規模な買収さえ可能だ(鉄道輸送会社CSX<CSX>の買収は現実の可能性の一つ)。投資会社ガムコ・インベスターズのポートフォリオマネジャー、マック・サイクス氏は「ますます魅力的になりつつある」と話す。
株価は割安とは言えないが、株式市場全体のバリュエーションが上昇している中、魅力的に見える。クラスA株<BRK.A>の株価は約72万5000ドル、6月30日現在の1株当たり純資産額(BPS)のコンセンサス予想46万1140ドルの1.6倍弱と、近年の平均的な水準にある。クラスB株<BRK.B>の株価は約480ドル。2025年予想株価収益率(PER)は約24倍と、S&P500指数と同等の水準だ。アップル<AAPL>や飲料大手のコカ・コーラ<KO>、金融大手のバンク・オブ・アメリカ<BAC>など、株式ポートフォリオ投資先企業の利益を考慮してバークシャーの利益を上方修正するとPERはさらに低下し、約20倍となる。この一般に認められた会計原則(GAAP)に基づかない非GAAPベース指標は「ルックスルー利益」と呼ばれ、バフェット氏が推奨している。バークシャーの営業利益は通期で約450億ドル、クラスA株1株当たりの純資産額は2026年末までに52万5000ドルに達すると予想され、予想PBRは1.4倍と妥当な水準にある。
UBSのアナリスト、ブライアン・メレディス氏はクラスA株の投資判断を「買い」、目標株価を89万2120ドル(現在の株価に対し23%の上昇)とし、「先行き不透明な環境下で保有するのに最適な銘柄だ。バークシャーはバフェット氏がCEO退任の意向を示す前の4月の時点から何も変わっていない」と話す。
主要事業は好調
バフェット氏は完全に引退するわけではなく、2026年も会長職にとどまる予定だ。しかし、バフェット氏の役割が何であれ、主要3事業(保険、鉄道、電力)は好調だ。バークシャーは世界最大級の損害保険会社の一つであり、保険料の引き上げは今年鈍化したものの4〜5%と今後の業績にとって明るい材料だ。また自動車保険業界3位のガイコも保有している。かつては問題児だったが、テクノロジーの刷新により、今では高い収益性と成長性を手に入れている。
バークシャー・ハサウェイ・エナジーは米国最大級の公益事業で、規制対象となる電力事業や大規模な再生可能エネルギーポートフォリオ、送配電網、複数の天然ガスパイプラインを擁し、数多くのプロジェクトに年間100億ドルの資金を投資しており、人工知能(AI)ブームの恩恵を受ける見通しだ。
バークシャーのバーリントン・ノーザン・サンタフェ鉄道は、ライバルのユニオン・パシフィック<UNP>とともに、米国西部の鉄道貨物輸送を支配している。ユニオン・パシフィックが米国東部の貨物鉄道会社ノーフォーク・サザン<NSC>と合併交渉を行っているが、その結果、バークシャーが東部の別の貨物鉄道会社CSX<CSX>を買収し、大陸横断鉄道を構築する可能性が出てきた。こうした買収(規制当局の厳しい審査が予想される)のコストは、CSXの現在の株価に25%のプレミアムが上乗せされると想定した場合800億ドルを超えるが、UBSのメレディス氏によれば、バークシャーの2026年度の利益も8%上乗せとなる。
もう一つの主要資産である株式ポートフォリオ(3000億ドル)については、今年はクレジットカード大手アメリカン・エキクスプレス<AXP>、バンク・オブ・アメリカ、コカ・コーラ、エネルギー大手シェブロン<CVXS>の株価上昇が最大の投資先であるアップルの株価下落(約15%の下落)で相殺され、恐らく市場をアンダーパフォームしているだろう。
株価反発の要件は
とはいえ、バークシャーの株価が再び自力で上昇を始めるには堅調な事業や回復への期待だけでは不十分かもしれない。バフェット氏は、自身が退場した後の経営陣について、投資家の理解を助けるべきだろう。現在公益事業部門を率いているグレッグ・アベル氏がバフェット氏の後任としてCEOに就任した後の経営陣については何も発表されていないし、保険事業部門を率いるアジット・ジェイン氏(73)が会社に残るのか不明だ。バークシャーの株式ポートフォリオの約10%の運用を担当しているトッド・コームズ氏とテッド・ウェシュラー氏の立場も不透明だ。投資調査会社CFRAのアナリスト、キャシー・サイファート氏は「投資家は経営陣の交代に極めて敏感だ。株価からバフェットプレミアムが剥落しつつある。不透明さが足を引っ張っている」と指摘する。
前述のCSXや、あるいはエネルギー大手オクシデンタル・ペトロリアム<OXY>を対象とする大型買収で状況が変わるかもしれない。バフェット氏は、オクシデンタル(現在、バークシャーが27%を保有)の全株式を取得するつもりはないとしているが、後任のアベル氏は違った見方をする可能性がある。オクシデンタルのビッキ・ホルブCEOはバークシャーの傘下に入ることを歓迎すると述べている。買収コストは450億ドルに上る可能性があるが、バークシャーなら無理なく支払えるだろう。
もう一つの可能性は、バークシャーが27%の株式を保有する食品大手のクラフト・ハインツ<KHC>だ。クラフト・ハインツは5月、戦略的な選択肢を検討中だと発表した。バークシャーは保有株式をクラフト・ハインツの昔からあるハインツブランドの事業と交換する可能性がある。バフェット氏は何と言ってもハインツのケチャップの大ファンだ。
新たな自社株買い計画が発表されれば、バークシャーの株価が魅力的な水準にあるとバフェット氏が判断していることを示唆することになる。バークシャーは2024年5月以降、自社株買いを行っていない。1億6700万ドル相当の株式を保有するアベル氏が個人で大規模な購入を行ったのは、それよりもさらに前のことだ(2023年3月が最後で、当時のクラスA株の株価は約45万ドル)。CEO就任に際して、株主との距離を縮めることは適切なシグナルとなる。配当の支払いを開始することも可能だ。保有する現金や利益の水準を考慮すれば、大半の同規模の企業と同程度の利回り2%の配当も支払える。
これほど多くの選択肢を残しているバークシャーを投資対象から外すべきではない。